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映画賞ウォッチャーが語る「凄い記録からちょっとした小ネタまで。第95回アカデミー賞で誕生した記録を振り返ってみる!」
日本時間3月13日に開催された第95回アカデミー賞授賞式は、A24作品『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が最多7部門受賞を果たし、幕を閉じた。そして、様々な記録が生まれた。そこで、今回のオスカーの中で誕生した記録をご紹介したい。
まずは今回の結果をおさらい
本題に入る前にまずは今回のアカデミー賞の結果をおさらいしていきたい。受賞数が多い順で、下記のような結果になった。なお、短編映画の方は省略させて頂く。
・7部門受賞:『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞
・4部門受賞:『西部戦線異状なし』
撮影賞、美術賞、作曲賞、国際長編映画賞
・2部門受賞:『ザ・ホエール』
主演男優賞、メイキャップ&ヘアスタイリング賞
・1部門受賞:『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
脚色賞
・1部門受賞:『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』
衣装デザイン賞
・1部門受賞:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
視覚効果賞
・1部門受賞:『トップガン マーヴェリック』
録音賞
・1部門受賞:『RRR』
歌曲賞
・1部門受賞:『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
長編アニメーション映画賞
・1部門受賞:『ナワリヌイ』
長編ドキュメンタリー映画賞
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が強いことは多くの人の予想通りだったと思うが、『西部戦線異状なし』がここまで強さを見せたのは、良い意味でのサプライズだった。特に美術賞と作曲賞は両方とも『バビロン』が前哨戦でも非常に強かったが、どちらも制した。
作品賞ノミネート作品に関して言うと『フェイブルマンズ』、『イニシェリン島の精霊』、『TAR ター』、『逆転のトライアングル』、『エルヴィス』が無冠で終わるという結果に。特に『フェイブルマンズ』と『イニシェリン島の精霊』は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と並び、今回の有力作品と言われていたが、明暗が分かれた印象だ。
新記録がたくさん誕生!“エブエブ”関連の記録をご紹介!!
作品賞に輝いた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だが、この作品がトップに輝いたことでたくさんの記録が生まれたのでご紹介。
Photo: Rodin Eckenroth (Getty Images)
☆カンフー映画初の作品賞受賞!
オスカーの歴史でカンフー映画が頂点に輝いたことは一度もない(まぁ当たり前だが)。同作はカンフーとマルチバースの要素を掛け合わせた独創的な作品で、言うなれば「アカデミー賞らしくない」作品だったが、今回見事に受賞。これまでは優れたヒューマンドラマや社会性を持った作品が頂点に立つことが多かったが、まさに「歴史が変わった瞬間」だ。
☆SF映画初の作品賞受賞!
『E.T.』に『スター・ウォーズ』など過去には映画史に名を遺すSF映画が候補入りしたものの、いずれも受賞には至らなかった。娯楽作品には冷たかったオスカーだが、今優れたアイデアがあれば評価をしてもらえるという、モデルケースにもなる受賞だった。
☆作品賞受賞作品史上初の演技部門3部門受賞
これまで作品賞を受賞した作品は、演技部門の受賞数は「2」であることが多かったが、その記録が更新される結果に。ちなみにアカデミー会員の中で最も数が多いのは俳優。作品だけでなく、役者も愛されたことが作品賞受賞に繋がったと言える。
☆アジア人初の主演女優賞!
ミシェル・ヨーが主演女優賞を受賞したが、アジア系の女優がこの部門を制するのは初めて。素晴らしい快挙だ。ちなみに助演部門はいずれも過去にアジア系の受賞者がいる。
PATRICK T. FALLON/AFP/GETTY IMAGES
他にも色々こんな記録
エブエブ以外にも受賞・ノミネートで色々な記録が生まれた今回のアカデミー賞。そちらも少しご紹介。
Kevin Winter/ Getty Images
☆インド映画初の快挙!
歌曲賞を受賞したのはいま日本でも大ヒットを記録している『RRR』のナートゥ・ナートゥ。もちろんインド映画としては初の快挙だ。歌曲賞のパフォーマンスも大いに盛り上がり、今回の授賞式のハイライトの一つと言っていいだろう。
☆ジャンルが違っても頂点に輝く男
長編アニメーション映画賞を受賞した『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の監督はもちろんギレルモ・デル・トロ。これでデル・トロは監督として作品賞と長編アニメーション映画賞の受賞を経験した初の監督に。
☆アメリカ映画をリメイクした外国語映画
作品賞に候補入りした『西部戦線異状なし』は第3回アカデミー賞を受賞したアメリカ映画のリメイク。作品賞受賞作をリメイクした外国語映画が候補入りした初の作品となった。
☆13年ぶりに作品賞候補入り作品以外から!
主演男優賞を受賞したのは『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザー。主演男優賞は、ここ数年は作品賞候補入り作品から受賞者が出ていたが、『ザ・ホエール』は作品賞候補入りはしていない。作品賞候補入りしていない作品からこの部門を制したのは第82回のジェフ・ブリッジス『クレイジーハート』以来。
実はこんな記録も…
「記録」と言うほどのものではないが、最後にトリビア的なものも少しご紹介。こういった小ネタを楽しむのもアカデミー賞の醍醐味だ。
Patrick T. Fallon/AFP via Getty Images
☆ギャガ配給作品が2年連続作品賞受賞
日本関連の記録もご紹介。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を配給するのはギャガで、昨年の『コーダ あいのうた』に続いて2年連続で配給作品が作品賞を受賞する結果に。ちなみに第91回からの直近5年間のうち、ギャガ配給作品は3度作品賞を受賞している。腕利きのバイヤーがいるに違いない!!
☆両親の雪辱を娘が晴らす!
助演女優賞を受賞したジェイミー・リー・カーティスの母は女優のジャネット・リー。ヒッチコックの『サイコ』でオスカーにノミネートされるも受賞はならず。なおカーティスの父、トニー・カーティスもオスカー候補入り歴があるも受賞はならず。しかし今回、娘であるジェイミー・リー・カーティスがオスカーを受賞し、両親が手に入れることが出来なかったオスカーを手にした。
ちなみに両親、もしくはどちらかの親がオスカーを手にできずに、その娘がオスカーを受賞した例は他にもあり、ローラ・ダーンやライザ・ミネリがそれにあたる。
いかがだっただろうか。記念すべき記録はもちろん、小ネタ的なネタまで、色々と誕生した今回のアカデミー賞。もちろん記録を楽しむだけがアカデミー賞ではない。感動的な場面もあれば、昨年のビンタ事件のような衝撃的な場面を目にするときもある。そういう色々を含めて、やはりアカデミー賞は映画界最大の式典と言えるだろう。
来年は誰がオスカーを手にするのか、どんな記録が誕生するのか。早くも1年後が楽しみだ。
ヒカセン兼業ライター 大西D
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