業界人インタビュー

【ENDROLL】「アニメとともに、旅をする。」アニメプロデューサー寺西史さん ~前編~

2025-03-20更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

今回は、松竹株式会社でアニメプロデューサーを務める寺西史さんにインタビュー!

前編では、寺西さんが業界に入ったきっかけや、アニメプロデューサーとしての働きについて詳しく聞いてみた。

ジャンキーな経歴

KIQ: 今の業界に入ったきっかけは何でしたか?

寺西私はなんていうか、ちょっとジャンキーな経歴なんですよね(笑)もともと新卒の時に松竹に入って、最初は少し経理をやっていたんです。そしてアニメ事業部に行ってから、映画宣伝部に行って、またアニメに行って、映画製作部に移って、またアニメに戻った感じです。松竹自体ジョブローテーションはあるんですけど、特にアニメは特殊だと思われていたので、アニメから他の部署に行く人はあんまりいなくて。実は最初からずっと実写映画がやりたかったんです。実写の部署に行けたのは入社12年目でしたが(笑)でも、何度もアニメに吸い寄せられるように戻っていくので、それはそれでなんか面白いなと思っています。

KIQ: そもそもは実写映画に関わるお仕事を志望されていたんですね!

寺西そうですね、大学の頃はすごい映画のプロデューサーがやりたかったんです。友達とかめちゃくちゃ才能のある人が周りにいっぱいいて。私は監督とかにはなれない、その子たちには絶対勝てないって思いました。むしろ彼らの何か手助けができたら、って考えたんです。作り手の人たちってエキセントリックな部分もあるから、割とそこを通訳することは得意だったので、自分はいわゆる“プロデューサー”とかの方が向いているのかなって思いました。

KIQ: なるほど。大学時代から映画のサークルなどに所属していたんですか?

寺西サークルには入らなくて、友達の映画製作の手伝いをしていました。ドキュメンタリー監督の原一男さん(『ゆきゆきて、神軍』)が学校にきていて、ゼミで学生と一緒に映画を作っていたんです。私はそのゼミ生ではなかったのですが、その授業に単位関係なく潜って……っていうのが始まりかもしれません。

KIQ: ドキュメンタリーに興味があったんですか?

寺西そうですね、最初はドキュメンタリーでした。新卒でテレビ局も受けていたんです。一番入りたかったのがテレビマンユニオンでした。

思い出深い作品との再会

KIQ: 改めてアニメプロデューサーってどんなお仕事をされているんですか?

寺西アニメって実写と違って撮影現場みたいなものがないので、プロデューサーとしていわゆる制作現場で何かやるってことはほぼないんです。仕事としては、まず原作(のアニメ化する権利)を取りに行くとか、スタジオさんにご相談して動いていただくこと、あとはファイナンスですね。制作費を集めてくるところが一番大きなポイントです。もちろん作品を作る中で、キャストやスタッフをどうするかって話や、脚本の中身の話をしていきます。基本は割となんでもやるみたいな感じですね。

今は、1月クールで放送中の『魔法使いの約束』って作品を担当しています。これは元々colyというゲームアプリの会社さんが作っているオリジナルゲームを原作にした作品ですね。

KIQ: なるほど。原作ってどんなふうに取ってくるんですか?

寺西いま漫画原作の作品が非常に多いですが、たくさん読んで「これ面白いよね」って話し始めてから出版元にご相談に行くプロセスがあります。出版社さんの方から「いまこれがおすすめです。映像化したいんですけど、どうですか?」ってご相談いただくこともあります。

KIQ: 「これを映像化したい!」と思う作品にはどんな特徴がありますか?

寺西: やっぱり自分が観たいかどうか、になっちゃうんですよね。もちろん部数とか、それこそ今は海外のマーケットも意識して、「(海外で)受け入れられるかどうか」みたいなところもあります。それでも、ある程度「自分が面白いと思うか」で考えているかもしれませんね。その属人的な感じがアニメビジネスの面白さではあるのかなって思います。

KIQ: そうなんですね。

寺西原作はゲームや漫画もありますし、「このネタ、この座組で」って時もあるので多岐に渡ります。ただ、アニメはオリジナルから起爆してどんどん広がってきた文化もあるので、ちょっとどこかでオリジナルはやりたいなと思っています。残念ながら、今はビジネス的にオリジナルを作るのはハードルがやや高い状況にはあるんですけどね……。

KIQ: なるほど。具体的にどんな難しさがあるのでしょうか?

寺西特に10年くらい前までは日本のアニメのマーケットってほとんど円盤というか、DVDを売るのがメインで。ちなみに、我々はスタジオさんなどから「メーカー」って呼ばれてて、私は「メーカーのP(プロデューサー)」って言われている立場です。この“メーカー”って何かというと、ビデオメーカーなんですよ。昔はビデオメーカーが主導でパッケージ(ビデオやDVD、Blu-rayなど)を売るためにアニメを作って、国内のパッケージのセールスで制作費を回収していく仕組みだったんです。

KIQ: そうだったんですね!

寺西でも、10年前に比べると今はパッケージの市場が完全に縮小してしまいました。特に今の若い人たちって、ビデオとかDVDとか、デッキやテレビも持っていない人が多いですよね。基本的に配信で観るのが主流になっているので、もう円盤を買うってビジネスモデルが崩壊しちゃったんです。オリジナルアニメはパッケージビジネスと親和性がすごく高かったこともあって、現在そこが難しい以上、ビジネスの広がりのハードルも高くなっている。

逆にビジネスの広がりを考えた時に浮かぶのは、海外なんです。基本的に原作ファンがいて、特に「週刊少年ジャンプ」の作品などは漫画を読んでいる方がとても多いので、どうしてもオリジナルよりも原作のあるものを作る方向に推移している感じがありますね。

KIQ: 「ジャンプ作品」は確かに。他にヒットしやすい作品の傾向とかってわかるものなのでしょうか?

寺西私自身は全くわからないかもしれない(笑)どうなんでしょう、自分が面白いと思っても皆さんが面白いと思ってくれるわけじゃないこともあるので……。ちょうど10年前にWIT STUDIOさんとやったワンクールのオリジナル作品で『ローリング☆ガールズ』という作品があって。我々は「これは絶対当たる」って思っていたんですけど、当時は目標を達成できなかったんです。ちょうどこの間(2025年2月1日)新宿ピカデリーで記念一挙上映のイベントをやったんです。そしたら夜の10時過ぎなのに1番大きなスクリーンがお客さんで満杯でした。

KIQ: すごい! 大人気ですね!

寺西思わず「この人たちは10年前どこにいたの!?」って思ったんですけど(笑)なんでしょうね、クチコミが広がる作品なのか、それよりは何か自分の好きなものを心の中だけでしっかり持っておきたいみたいな作品なのか。それぞれ違うんだなって思うようになりました。だからこそ、何が当たるのかわからない。わからないなりにどのタイミングで、どんな人たちがそこにいるのか、ある程度の仮説は立てるんですけど、大体その通りにはいかないんです。

KIQ: なるほど。寺西さんにとっても『ローリング☆ガールズ』は思い入れ深い作品なのでしょうか?

寺西そうですね。当時、本当に同世代のメンバーで作ったんです。大変なこともたくさんあったけど、夢を見てやっていました。それはみんなも結構同じ感覚だったみたいで、10年ぶりの同窓会みたいな感じでこの前スタッフが集まって「あの時みんな元気だったよね」なんてことを話しました。自分の中で大ヒットなどとは違う意味で、大事だった作品の一つでした。

KIQ: そういったお仕事の中での人のつながりも思い出深いですよね。

寺西はい。それこそ『ローリング☆ガールズ』がロードムービーの作品で、一緒に旅をしていた4人の女の子たちが最後に別々の道に別れるんですけど、それが仕事と重なるんです。1つの作品が終わると、どれだけ思い入れがあってもみんな別々の仕事にまた向かっていくし、久々に会ったら「久しぶり」って笑えるし。そういう感じはすごい好きだなあって思いますね。

後編(3/21UP)に続く>

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