業界人インタビュー
【FRONTIER】「映画の多様性を守る」KeyHolder Pictures CDO 鈴木さとるさんスペシャルインタビュー ~後編~NEW
KeyHolder Pictures
(株式会社UNITED PRODUCTIONS ディストリビューション事業部)
CDO 鈴木さとるさんスペシャルインタビュー【後編】
映画業界の最前線で活躍する人々にインタビューする特別企画「FRONTIER 最前線」。
今回は、株式会社UNITED PRODUCTIONS(以下UP)が、新たに立ち上げた映画配給事業を担う新レーベル、KeyHolder PicturesでCDOを務める鈴木さとるさんにインタビュー。
前編では、KeyHolder Pictures設立の背景と、株式会社UPの配給事業に勝機を見出した鈴木さんの見解を聞いた。後編では、具体的な配給ラインナップ戦略、特に力を入れるジャンルの話を聞いた。さらに、9日より公開される 配給第1弾作品『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』の製作に携わった、有限会社キコリの石山成人さんにも加わってもらった。
ホラーとドキュメンタリー、ジャンル戦略で国境を越える
KIQ:
A24やNEONなどが手掛けるようなインディペンデント映画に着目されているとお聞きしています。少し尖ったインディペンデント映画に着目される一番の理由は何でしょう?
鈴木:
いくつか理由があります。1つは、いわゆるメジャー映画の枠はすでに大手配給会社に押さえられているので、現実的に最後発の我々が簡単に参入できないと考えたからです。最後発の我々がどう生き残り、どう存在感を出していくかと考えた時に、世界で成功例を見渡すと、A24やNEONなどのメジャー映画とは一線を画す会社しか勝ち筋はないという認識でした。
KIQ:
なるほど。
鈴木:
また、インディペンデント映画で成功したクリエイターが、次にメジャー作品に挑戦する流れもあるわけですから、インディペンデント映画にはすごく存在意義があるんです。ですので誰かがインディペンデント作品をしっかりと世に届けないと、映画の多様性が失われたり、映画文化の衰退にもつながりかねません。インディペンデント映画は小回りが利き、スピード感に優れているので、勝負しやすいというメリットもあります。
あと大手配給会社は、中規模作品にあまり手を出さないんです。大きな組織の固定費を考えると、中小規模の作品を扱うのは割が合わないからです。極端な話、中小規模の作品の利益は、数人の給料でパッと消えてしまう(笑)。大きい会社にとってはメリットが薄いのです。
KIQ:
確かに!
鈴木:
だけど、小さい組織体であれば、中小規模作品の利益でも成立する。大手企業ではできないところで戦うのがいいだろう、という結論です。
KIQ:
東京国際映画祭(以下、TIFF)でお仕事をされた時に、多様な才能を見てきたことも影響していますか?
鈴木:
それもありますね。ここでTIFFの宣伝をしますと、TIFFのプログラマーたちは本当に一生懸命に皆で作品を観て、映画を研究して、新しい才能を世に出したいという気持ちで、それぞれの作品のどこがいいかと議論した上で上映作品を選定しています。私もその中で応募されてくる作品をたくさん観ましたが、才能を秘めている人は大勢いる。そして彼らは、とにかく作品を観て欲しいという思いで映画祭に応募してきます。そうした才能を一人でも多く世に出すべきだということは、映画祭の2年間で強く感じました。その経験がなければ、インディペンデントの配給をやろうとはならなかったと思います。
KIQ:
そんな中、どのジャンルが狙い目とお考えでしょうか?
鈴木:
立ち上げ時から話し合っているのは、世界にも観てもらえるような作品を優先していきたいということです。その中で、言語の壁を越えていけるホラージャンルを主軸にしたいと考えました。個人的にもKADOKAWAでの知見を活かせますし、またグループに株式会社闇というホラーに特化した企画会社がありますのでとても頼りになります。既にいくつかの映画企画を共同で開発を始めております。
KIQ:
確かに、ジャパニーズホラーは強いですよね。
鈴木:
そしてもう一つ、ドキュメンタリーのジャンルも海外に向かっていける要素があります。実はUP内には主に海外とドキュメンタリーを共同製作しているチームもありまして、こことも連携して、世界に発信できる可能性のある「日本」を扱ったテーマを取り上げていきたいと考えています。
ついに第1弾作品『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』が公開
KIQ:
立ち上げ当初は作品が決まっていなかったとのことですが、記念すべき第一弾として、ドキュメンタリー映画『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』を持ってこられた背景を教えてください。
配給第1弾作品『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』
鈴木:
KADOKAWA時代に、ドキュメンタリーの魅力に自分自身がハマったというのが大きいです。以前、石山さんにご紹介いただいたTBSさんが製作された『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』という作品を配給させていただき、ドキュメンタリーを本格的に事業化させる取り組みは非常におもしろいと感じていました。弊社でもドキュメンタリーに力を入れたいと森田社長からも明確に言われていたこともあり、会社の方針ともマッチしていました。
KIQ:
いろいろな条件が揃っていたんですね。
鈴木:
配給レーベル立ち上げの挨拶回りをするなかで、TBSさんから『小屋番~』という作品をご紹介いただき、昨春に開催された「TBSドキュメンタリー映画祭」のラインナップの中でも大好評だったと伺いました。拝見したところ、内容や映像が素晴らしくて、すぐにスクリーン映えするだろうと思いました。国内の登山ファンに喜んでもらえる作品なのはもちろんのこと、登山をする外国人も増えていて、日本の美しい山々を世界に発信する可能性はあると思いますし、山小屋という文化も珍しいと感じてもらえると思います。
石山:
作っている側としても、上映を長くやって欲しいという思いがあるのですが、小さい作品を丁寧に長くやってくれる配給会社ってあまりないんですよね。それで、鈴木さんにご相談したわけです。
鈴木:
あとは、世界の映画祭に出品していけるような作家性が強い作品を扱うことで、多様な日本映画を世界に発信していきたいと考えています。また、配給の立場からすると、完成された作品を扱うのが難しい時代になっているように思います。かつては、出来上がった作品に付加価値をつけるのが配給の仕事だったのですが、そのやり方だと限界がある。私たちとしては、なるべく企画の初期段階で声をかけてもらい、自分たちの意見も取り入れてもらいたいと考えています。
石山:
作り手側からしても、どのぐらいの規模で公開すべき作品なのかと考えながら作っているので、配給の方に商品ポテンシャルのことを言ってもらうって、すごく大事なことなんです。
鈴木:
ありがちなのが、「お金をかけて作った映画だから大きく公開しなきゃいけない」という考え方に陥ることです。このパターンだと作品内容とマーケット規模の乖離が起こり、とても大きな赤字を作ってしまうことがあります。体力のある会社はいいですが、小さい会社だと一発で退場となってしまう。作品にとって適正なマーケットサイズをできる限り正しく説明して、「だったら制作費を落とそうか」とか、「先にリスクヘッジをしよう」という発想をプロデューサー側に持ってもらう。そういうコミュニケーションを制作のなるべく早い段階からやりたいと、お話させていただいています。
KIQ:
では最後に、今後の映画業界について、思うところがあればお聞かせください。
鈴木:
私が映画を観まくっていた1990年代~2000年代前半は「東京は世界の映画が一番観られる都市だ」といわれ続けていました。しかし、ひょっとしたら今は、あの頃の多様性が失われつつあるかもしれないと考えます。業界全体として、映画の多様性は生き延びさせないといけないと思います。
映画を観た人が、次はこれを観ようという「映画習慣」が大事なんです。多種多様な映画があれば、多種多様なお客さんに映画習慣を持ってもらえます。映画人口の維持、もしくは広げるためには多様性が絶対に大事になると思います。
KeyHolder Picturesは、大手では手が回らない中小規模の作品に、企画段階から事業参画させてもらい、一本一本を丁寧に世に送り出すことで、この映画文化の多様性を守り、広げる一端を担っていきたいと考えています。
【Information】
KeyHolder Pictures 配給第1弾作品
『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』

2026年1月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
“コヤガタケ”と呼ばれるほど山小屋が多く存在する八ヶ岳。本作では、そんな八ヶ岳を山岳写真家である菊池哲男と巡っていく。さまざまな想いを抱えながら「小屋を営むもの=小屋番」の道を選んだ人々。コンビニも車もない、自然と真正面から向き合う過酷な日常を選んだ理由とは?登山を楽しむ人々を支え、時には死とも遭遇する小屋番という仕事。山小屋の生活は不便さを感じさせる一方で、忙しなく行き交う情報社会に疲れ、何もかもが身近に手にできてしまう現代を生きるわたしたちに対して「暮らしそのものの在り方」さらには「人生の在り方」への新たな視点をそっと提示してくれる。
監督・撮影・MA:深澤慎也(TBS ACT)
プロデューサー:永山由紀子
出演:菊池哲男(山岳写真家)
ナレーション:東野幸治 一双麻希
エグゼクティブプロデューサー:津村有紀
総合プロデューサー:須永麻由 小池 博
協力プロデューサー:石山成人 塩沢葉子 和田圭介
進行プロデューサー:鈴木秀明 尾山優恵
製作:TBS 配給:KeyHolder Pictures 宣伝:KICCORIT
2026年/日本/85分/5.1ch/16:9 ©TBS
公式HP:koyaban.com
公式X:@koyaban _movie
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