業界人インタビュー
【ENDROLL】「止まらない!映画の裏側に、沼がある」グラフィックデザイナー三堀大介さん~後編~NEW
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから生まれたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
映画・エンタメ業界の最前線で活躍する方々に話を聞き、そのキャリアや想いに迫ります。
現在この業界で働いている方はもちろん、これから業界を目指す人にとっても、刺激となるリアルな声を届けていきます。
有限会社サイレンの代表取締役で、グラフィックデザイナーの三堀大介さんのインタビュー後編。
視聴者参加型YouTubeチャンネル「共感シアター」では、映画博士こと”はかせ”として知られる三堀さん。IMAXもドルビーも語りこなす深い映画知識は、視聴者からも一目置かれています。その豊富な知識と見分はどこからくるのか。そして映画『キムズビデオ』で、どうしても一度やってみたかったという配給業についてのお話も聞くうちに、映画への大きな愛と尊敬の気持ちも見えてきました。
映画の“裏側”への好奇心が止まらない
稲生D:
ご出演いただいているYouTubeチャンネル「共感シアター」では”はかせ”として、デザイナーとは違う顔を見せていただいています。あのグラフィックデザインとは全く関係のない、映画の設備的な知識はどうやって仕入れてるんですか?
はかせが出演するYouTube番組「共感アカデミー」
三堀:
こういう映画の設備の話って、みんな別にそんな嫌いじゃなくて、興味があるというか。僕自身デザイナーをやってて、映画本編は触ってないにしても、映画の裏側、技術者として携わってる側面もあって、仕事でそこに行き当たることはあるわけです。
この間、映画評論家の松崎健夫さんとお話しできる機会があったんですけど、「映画評論って、本来は上映形式のところにも目を向けなきゃいけないはずですよね」とおっしゃってて。なぜなら作り手は制約とか規定されているものを選んで、その枠内で活動してると。僕自身、デザイナーの仕事をしていて解像度だったりとか、そういう技術的な部分にも触っている。
稲生D:
なるほど。
三堀:
例えば、画家はどうやってキャンバスのサイズを決めてるんだろうって思いませんか? 映画もそうなんです。監督と撮影監督が最初にどのアスペクト比でやるのか、どのレンズでやるのか、デジタルなのかフィルムなのか、そういうのを最初に決めるわけです。キャンバスの大きさを決めるのって、すごくその映画のイメージに影響を及ぼすことですよね。そうやっていろいろ追っかけているうちに知りたくなっていった感じです。
稲生D:
事務所にはドルビーアトモスを導入した試写室もありますよね。
三堀:
今いるのはこのビルの4階ですが、当時は2階を事務所として借りていたんです。そしてある時、4階、5階の人が出ていって、業者さんが撤去工事をやってるところをのぞいたら、5階にちょっとした空間があるのが見えて、これはシアタールームにするしかないなと。そこでここに越して改装し、試写室にしたんです。 それが 2014年頃で、4Kテレビも普及し始めて、4Kプロジェクターの価格もだいぶこなれてきていた頃だったんです。NETFLIX の進出によって4K配信もカジュアルに受け取れるようになって、Ultra HDのブルーレイもタイトルが出始めて、映画の音響がドルビーアトモスになる時期と重なったんで、そこでガッツリハマっちゃいました。ちょうど時代の変わり目、技術の変わり目だったので、とりあえず勢いで何か作っちゃおうと。
稲生D:
いい時期だったんですね。ちょうど。
“完成形”を観られない日本の映画館事情
三堀:
稲生Dにはよく話してるからわかると思うんですけど、音響をドルビーアトモスで作った作品は数多くあるんですが、日本の劇場では大半がドルビーアトモスで上映されていないんです。だけどAppleTVやブルーレイディスクで観れば、ここ(事務所のシアタールーム)ではちゃんとドルビーアトモスで鑑賞できちゃうわけです。なので正直なところ、最近映画によっては劇場での鑑賞をスルーすることも増えたんです。ちょっと待てばここでドルビーアトモスで観れるし、みたいな感じになっちゃって。
稲生D:
映画館は設備にお金払ってるという部分が大いにありますよね、実際。
三堀:
そうなんです。作り手はそれが完成形として作ってるわけで。言っちゃ悪いけど、ドルビーアトモス環境に向けて仕上げている作品って、(通常のドルビー)5.1チャンネルで上映すると、廉価版みたいな側面があるわけですよ。そう言い切ってしまうのはちょっと問題はあるんですが、制作側はドルビーアトモスにミックスするだけの予算と時間をかけてるわけですから。日本ではそれをきちんと享受できない環境になってしまっている。
稲生D:
日本で上映されないというのはなぜですか?
三堀:
わかりやすく言うと、映画を5.1チャンネルで上映するのと、ドルビーアトモスで上映するのでは値段が違うんです。そこの費用対効果を配給会社が見込めないと判断すれば、買わないわけです。例えば『教皇選挙』ぐらい大ヒットすれば、公開後にドルビーアトモス版にアップグレードされたりとかするんですけどね。 困ったことに、日本ではいわゆるハリウッドメジャー作品でもそれが起きてるんです。アメリカではドルビーアトモス上映なのに日本では無しみたいな。
稲生D:
日本は競争率高いですよね。全国的に観てもドルビーアトモス対応の劇場自体がそれほど多くないです。
三堀:
そうなんですよ。だからちょっとドルビーには頑張ってほしい。IMAXがあれだけ成功したんだから。でも最近はそんなことも言ってられなくなってきましたね。もう公開してくれただけでありがとうみたいな。
稲生D:
洋画はもう本当にそうですね。公開してくれただけでラッキー。
三堀:
配信スルーになったけど、ちゃんと字幕作ってくれてありがとう、みたいなね(笑)。
はかせが出演するYouTube番組「共感アカデミー」でドルビーシネマを学ぶ!
“一度だけ”挑んだ映画配給の実態
稲生D:
そんな中、傑作ドキュメンタリー『キムズビデオ』ではデザイナーだけでなく、映画配給もされました。映画配給業はどうでしたか?
三堀:
1回だけ配給業ってものを経験してみたかったんです。本当に1回だけね(笑)。僕は普段、配給会社や宣伝会社からお仕事の依頼を受けていますが、でもこの業界の上流で何が起きているのかを知らないんです。こんなに長いこと仕事をしてるのに、本当に知らない。普段は映画の宣伝さんとやり合っていても、向こう側の思いには立てていない。だから一度やってみればいい勉強になるんじゃないかなと。どういうふうに作品が劇場に下りていくのか。どんなお金の流れなのか。仕組みを知ればその経験が本業の方でも役に立つんじゃないかと思ったんです。
稲生D:
映画配給の仕事って謎ですよね。何をやってるのか外からは全くわかんない。
三堀:
そうなんですよ。だから映画を配給するなんてのは夢だと思ってたんですが、よくよく聞いたらいわゆるミニシアター作品の買い付け費用って、「まあ1万ドルあれば買えちゃいますよね」みたいな話を聞いたんです。それを聞いて頑張れば手が届くかもしれないと。そこで『キムズビデオ』の話をいただいたんです。
最初はデザインだけ受ける話だったんですが、作品を見たらめっちゃ面白かった。そこにたまたま座組が変わったので共同配給のお誘いがあり、チャンスだったし、さらに自分が惚れ込んだ映画だったのでやってみました。でも結論としてはもう二度とやらないです(笑)。
稲生D:
そうなんですね(笑)。
三堀:
ミニシアターの配給業務ってこんなことしてるのかよ!みたいな感じなんですよ(笑)。 僕はミニシアターなんて、全国にせいぜい40~ 50館ぐらいだと思ってたんです。それが実は130館ぐらいあって。その一軒一軒にメールと電話とファックスで連絡して、上映が決まったらDCP(上映素材)の入ったハードディスクを宅急便で送って、ときには転送してもらって…、という作業を延々とやってたんです。配給会社ってこんなことしてたんだと思いました。小さな配給会社が頑張ってくれてるからこそいろんな映画が見れるんですが、でもそんな状態で毎日毎日、朝から晩までやってくれてたなんて。今回、現場がそうなってる以上は変えようがないのもよくわかりましたから。もう新しい若い人が出てきてぶっ壊すしかない(笑)。
稲生D:
勉強にはなりましたか。
三堀:
めちゃくちゃ勉強になりました。古いシステムでギリギリ持ちこたえてるんだみたいなことも含めて。いや、実情は持ちこたえてすらいなくて(笑)。すごいことだなと思いましたよ。他の配給会社さんとか、小さいミニシアターの人たちにはもう尊敬の念しかないです。愛がないとこんなことやっていけないですよ(笑)。
だから本当にミニシアターの人たちには感謝しかないです。
【Information】
三堀さんが、初めて配給した映画「キムズビデオ」は絶賛公開中!
1980年代からアメリカ・ニューヨークのイーストビレッジに実在した、ニューヨークの映画ファンたちが通い詰めたレンタルビデオショップ「キムズビデオ」。そこにあった55,000本もの貴重かつマニアックなビデオ・コレクションの⾏⽅を追ったドキュメンタリー映画。
2023年製作/87分/G/アメリカ
配給:ラビットハウス、ミュート
【はかせが出演する共感アカデミー】
★どこよりも深く「IMAX」を知る!~いつか使えるかもしれない映画のムダ知識
★「DOLBY CINEMA(ドルビーシネマ)」ってなに? IMAXとどう違うの?~いつか使えるかもしれない映画のムダ知識
★いまさら聞けない「DOLBY(ドルビー)」~いつか使えるかもしれない映画のムダ知識
★映画館の作り方 ~いつか使えるかもしれない映画のムダ知識
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