業界人インタビュー
【ENDROLL】「撮影現場が託児所に!?」in-Cty小夏菜々子さん、濱いつかさん ~前編~NEW
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから生まれたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
映画・エンタメ業界の最前線で活躍する方々に話を聞き、そのキャリアや想いに迫ります。
現在この業界で働いている方はもちろん、これから業界を目指す人にとっても、刺激となるリアルな声を届けていきます。
今回は、芸能業界専門のベビーシッターサービスを提供する、in-Cty合同会社の小夏菜々子さんと濱いつかさんにインタビュー!
業界初となる専門サービス。前編ではその仕組みや保育の様子を伺います。また、このサービスを始めたきっかけや立ち上げ時に直面した壁についても教えてもらいました。
業界初!現場に寄り添う “移動式託児所”
KIQ:
まず、in-Ctyさんが提供されているサービスについて教えていただけますか?
小夏:
はい。簡単に言うと、芸能業界専門のベビーシッターサービスです。スタッフや俳優さん、撮影に携わる皆さんのお子さんをお預かりします。映画やドラマの撮影現場に「組付き」という形で入って、撮影期間中、現場でお子様を預かることもあります。私たち自身が業界出身なので、芸能業界に特化した形でやっています。(※「組」とは、映画やドラマを制作するチームのこと)
KIQ:
どういう方からの依頼が多いのでしょう。
小夏:
俳優さんもいれば、撮影スタッフ、マネージャー、プロデューサーなど、さまざまな方からご依頼をいただいています。個人依頼もありますが、割合的には映画やドラマ単位で作品に入らせてもらうケースが今は多いです。
KIQ:
組付きだと、撮影期間中はずっと現場にいるのでしょうか?
小夏:
毎日いるわけではなくて、必要な日に呼んでいただきます。「今日は両親ともに朝からロケで保育園に送れない」とか「お迎えが間に合わない」といった時にもご依頼をいただきます。保育園が休みの土日なども多いですね。
KIQ:
だいぶフレキシブルに対応されているんですね。
小夏:
そうなんです。現場のスケジュールが出るのもギリギリなので、「この日、稼働がありそうです」というくらいからご連絡をいただいて動いています。
濱:
スタジオ撮影のときは、あらかじめ予定が見えることもあるのですが、ケースバイケースですね。
KIQ:
託児場所は?
小夏:
ご自宅のこともありますし、ロケ現場の近くでレンタルスペースを借りることもあります。現場ごとにやり方を合わせながら動いています。遊び道具やマット、お布団なども全部持ち込みで対応しています。移動式の託児所みたいな感じです。動物園ロケのときは、一緒に園内で遊んだこともありましたね。
KIQ:
えー!楽しそう!
濱:
山梨ロケに同行したときは、雪が降っていて。ロケ先で子どもたちと雪に埋もれたり雪合戦したこともありました。日帰り旅行みたいな体験をすることもありますね。
小夏:
撮影現場がそこにあったからこそできた体験というのはあるよね。
KIQ:
お子さんたちも楽しいですね。
濱:
そうですね。遠足に近いのかな。スタジオだったら撮影のセットとかも、タイミングがいいと見れますし。
小夏:
結構大きなお子さんだと、パパやママが働いてるところを見たいって言って、じっと見ていたりとか。
濱:
なんかもう分かってるんですよね、「カット、オーケー」って言ったら、しゃべっていいとか(笑)
KIQ:
すごいですね!
小夏菜々子さん
小夏:
子どもたちの方が現場に慣れるのが早い感じがします。 気付くと現場のスタッフに何か教えてもらっていたり、キャストと写真を撮ってる子もいるし。ほんと業界ならではで、一般企業には絶対にないことだなって思います。たまにエキストラに参加することもありますね。
KIQ:
最高ですね。
小夏:
スタッフや親御さんとご相談しつつですが、型にはまらず、現場に寄り添いながら、現場のやり方に合わせてやっています。
KIQ:
撮影現場にお子さんがいると、周りの反応はどうですか?
濱:
理解のある現場しか呼ばれていないのかもしれないですけど、基本的にはウェルカムな雰囲気ですね。皆さん「かわいい」と喜んでくれて。すべての人が子ども好きなわけじゃないとは思っているんですけど、結構皆さんあたたかく迎えてくれます。
小夏:
子どもたちがお手伝いすることもあるし、「子どもが待ってるから(時間が)押さないように頑張ろう」という空気になることも全然あります。
KIQ:
いいですね、メリットが大きい。
小夏:
大変なのは、泣き声や場所の制約くらいで、現場にとっても悪いことはないなと思っています。技術スタッフの中には、自分が子ども時代に現場を見て育った人もいて、同じ経験を子どもに見せられることを喜んでくれる方もいます。
KIQ:
リアル“キッザニア”みたいです。
小夏:
そうです、そうです。コードを運んだり、カチンコを持ったり、監督の椅子に座ったり。現場の雰囲気を自然に体験できるんです。
KIQ:
とはいえ、撮影シーンや状況に応じでピリつくことって絶対にあるじゃないですか。
濱:
もちろん、シビアな撮影シーンとかは、現場に近寄らないようにしますね。脚本をいただけるときは読んでから参加しますし、スケジュールだけを共有いただく場合も、注釈にだいたい書いてあるので。雨降らしますとか、必要なもの=血のり、とか(笑)。
KIQ:
なるほど。現場経験があるお二人だからこそ、今はちょっと違うな、みたいな空気も読めるんですね。
小夏:
現場でやろうとしていることや、空気感がわかるというのが一番重要だと思っています。
濱:
逆にスタッフさんから「今なら騒いでいいよ!」「エキストラ混じっちゃえ!」なんて言われることもありますよ。
ゼロからの挑戦─誰もやらなかったビジネスの立ち上げ
KIQ:
そもそも設立のきっかけは何だったんですか?
濱いつかさん
濱:
飲み屋での世間話からです(笑)。私は前職、芸能事務所でマネージャーをしていたんですが、女優さんが出産後に現場復帰するのが大変だとよく聞いていて。「誰かベビーシッターをやらないかな」と思っていたんですけど、私がすでに保育の資格を持っていたので、「自分でやった方が早いんじゃない?」と思って。
小夏:
私もマネージャーをしていて、出産を機に現場を諦める先輩をたくさん見てきました。もったいないと思いましたし、自分が将来そうなったときに働き続ける未来が見えなかった。だから「こういう仕組みがあれば、助かる人が多いのでは」という思いがありましたね。で、話していくうちにとりあえずやってみようってなって。
KIQ:
立ち上げに苦労はありましたか?
濱:
会社を作ること自体が大変でした。わからないことだらけで。
小夏:
そうですね。最初は「会社ってどうやって立ち上げるんだろう?」から始まったので。保育についてはあまり心配してなかったんですが、経営はゼロからのスタート。起業経験のある人に話を聞いたり、税理士さんに相談したりしてやってきました。未だに手探りです。
KIQ:
歩踏み出すのは大変ですよね。
小夏:
はい。やってみて思うんですけど、ビジネスとしてどう成立させるか考えたときに、たぶん頭良くビジネスをやっている人たちは「これはビジネスにならない」って判断してきたんだろうなって思いますね。
濱:
シンプルにビジネスモデルとして成立しにくいんですよね。収益化も難しいから誰もやってないんだろうなっていう。
小夏:
でも「誰もやっていないから、困っている人が多い」という確信もありました。実際、今は口コミや横のつながりだけで成り立っています。まだ1年ちょっとですが、10作品以上に携わらせてもらっています。
KIQ:
ニーズは確実にあるわけですね。
小夏:
そうなんですよ。需要はすごく感じてはいるので、ここからそれに応えるべく、どうやって人を増やしていくかみたいなことが課題なのかなと思っています。
後編(10/3UP予定)では、業界が抱える課題、そしてin-Ctyが目指す未来について伺っていく。
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