業界人インタビュー
【ENDROLL】「宣伝という名の、冒険。」映画宣伝 山森加容子さん ~前編~NEW
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
今回はフリーランスで映画宣伝を行う山森加容子さんにインタビュー!
前編では、山森さんの普段の仕事内容から、映画宣伝に至るまでの軌跡などについて詳しく聞いてみた。
映画宣伝、細分化の時代へ
KIQ: フリーランスで映画の宣伝をされているとのことですが、普段どんなことをされているのか教えてください!
山森: 直近ですと二つのことをやっていて、一つはウェブパブリシティ、もう一つはキャストプロモーションといって、事務所さんとの窓口業務です。
KIQ: パブリシストが事務所さんとの間に入ることって結構あるんですか?
山森: 以前は宣伝プロデューサーがやられていた業務なんですけど、外注されるようになったのはここ数年くらいじゃないかと感じています。いわゆるパブリシティに関しての取材依頼や出演依頼などに関して、宣伝の媒体担当者と宣伝プロデューサーを交えて色々と確認や調整をしています。
KIQ: フリーの宣伝も業務が多岐にわたってきているということでしょうか?
山森: そうですね。たとえば、宣伝においてSNSが今すごく大事になってきていますが、それだけでも確認物や制作物が多いんです。宣伝プロデューサーの方々がやることも多岐に渡って増えているんですよね。そうなると手が回らなくなってくるところが出てくるので、そういうところを請け負っています。
KIQ: 映画宣伝において、意外と事務所さんとの確認事項って多いんですね。
山森: 多いです!「何しているの?」って言われると「何をしているんだろう?」って自分でもわからなくなるくらい(笑)例えばキャストに出ていただくロケ番組ひとつでも「必要なものは?」「映っちゃいけないものは何?」「ヘアメイクさんへの連絡は?」といった細かい確認事項がたくさんあって。でも、円滑に物事が進むために調整確認って重要なんです。ヘアメイクさんやスタイリストさんたちからはお礼を言って頂くこともあって、間に入っている意味があるのかなって実感が湧きます。
KIQ: 以前とは変わってきているんですね。
山森: はい。私が宣伝会社に入ったのは17年前なんですけど、その頃はウェブも紙も電波もパブリシティは同じ会社でやることも多かったですし、芸能事務所とのパブリシティ調整は宣伝プロデュースチームの方がやっていました。それが媒体も増えて、確認物が増えたことで細分化されてきたという印象です。以前はプロフェッショナルでも皆で兼任していたようなことが、今は「SNSに特化したチームができた」「タイアップの担当部署ができた」といった形で、それぞれ専門の分野で深く携わるようになってきています。その点ではすごく面白いと思っていますね。
「物語」と生きる道
KIQ: 元々学生の頃から映画宣伝をしたいと考えていたんですか?
山森: いえ、実は元々舞台美術とか、舞台監督になりたくて。小劇場の舞台のお手伝いや照明、ドラマ制作の装飾のアルバイトなど色々やっていました。ただ、セクハラ・パワハラで少し病んでしまって、一度そこから離れました。
KIQ: そうだったんですね…。
山森: その後、たまたま知り合いが出版社にいて、「アイドル誌でアシスタントを募集しているからどう?」と声をかけてくださって。雑誌とか文章を読むのは好きだったので、何も考えずに飛び込みました。アイドルのことはよく知らなかったんですけど(笑)
KIQ: 思い切って飛び込んだんですね。
山森: 2年くらいは面白かったんですけど、やはり「物語があるもの」に関わりたいなと思って。大学時代の先生に相談したら、「映画の宣伝って知ってる?」と言われて。そのとき初めて「映画の宣伝」という仕事があるんだと知りました。
美大だったんですけど、もともと大学では周りのみんながモノを作ることに対してすごく情熱的なのに、いざ展示会や卒業制作展となると、外に向けて説明するという概念が抜け落ちていることもあって。その頃から「作品をちゃんと説明したら、もっと多くの人に楽しんでもらえるのでは」と漠然と思っていたので、興味がわきました。
KIQ: なるほど。
山森: その後、ご縁があって映画の配給・宣伝を手掛けるミラクルヴォイスという会社に行き、3年くらい働きました。そこでたくさんのことを勉強をさせていただいたのですが、また別のことをやってみたいと思って、またご縁でタレントのマネジメント会社に入りました。そこで広報的なことをする予定だったのですが、人事異動でマネージャーになってしまって(笑)海外出張も多く、ヨルダンの難民キャンプやケニアのスラム街に行くこともあれば、パリやミラノといったいわゆるおしゃれな場所に行くなど、しんどかったけどすごく楽しかったです。
KIQ: 本当に色々な経験をされていますね。
山森: でも、40歳が近づいてきて、また「何がやりたいんだっけ?」って考えたんです。そして、やはり作品に関わりたいなと思ったんです。自分の10代を支えてくれたものが、舞台や映画、小説などの「物語」だったので。それに関わりたいと思っていたら知人から「今、フリーランスの宣伝って結構いるんだよね」という話を聞きました。自分にできるのかとも思ったんですけど、ダメだったらまた考えようって感覚でフリーランスになってみたらお仕事もいただけて、Netflixのお仕事をさせていただくことになりました。
KIQ: Netflixに社員としてお勤めされていたこともあるとか。
山森: はい、フリーランス期間を経たのちにNetflixに入社し2年所属しました。今はそこから退社して、改めてフリーランスで仕事をしています。
本当に人に恵まれたなというか、どこで働くにも人の縁ですし、続けられたのも人のおかげです。よく映画PRの方って「映画が大好きです!」ってたくさんの作品への愛を語るし、目標もあるじゃないですか。でも私は「エンタメがただ好き!」という漠然とした思いしかない中で、それでもここまで来れたという感じですね。
KIQ: もともと舞台美術に興味を持ったきっかけも気になります。
山森: 単純に何かを作るのが小さい頃からすごく好きで。幼稚園の頃から身近にあるもので何かを作っているような、ちょっと変わった子だったみたいです(笑)テレビドラマを見て「あ、こういうのを誰かが作っているんだろうな」って興味を持ち出して、連れていってもらったミュージカルを見た時に「舞台ってすごく面白い」って思ったんです。「こういうのに関わりたい、自分が関わるとしたら、何かセットとかを作りたい」って気持ちが湧きました。
KIQ: そこで舞台に繋がるんですね。
山森: 紆余曲折あって美大に入りましたが、入ったら逆に自分はゼロから生み出せない人間だなって。できるかできないか、じゃなくて、そこまでの凄まじい情熱がないし才能もないなって思っちゃったんです。だから「作れなくても何かしらで関わることはできないかな?」っていう思いで、クリエイターを大事にしたいし、支えられるポジションになりたいと考えて。だからそういう意味では映画宣伝という仕事には行き当たりばったりで出会いましたが、ずっと自分がこれまで漠然と考えていたやりたいことに辿り着けたように感じます。
フリーランスとして働くこと
KIQ: フリーランスと会社のお仕事を交互にされていましたが、「フリーランスの宣伝として働く」ってどんな感じですか?
山森: そうですね、フリーになって最初に思ったのは「ものすごく孤独だ」ということです。会社にいると喜びも悲しみも分かち合えるじゃないですか。すぐに隣にいる人に状況を伝えられるし、共感もしてもらえるし。それがただ一人家でやっていると孤独ですね。でも、それは本当に些細なことで慣れました。自分はフリーランスでも宣伝はチームでやっているので。コロナ禍を通して会社に属していても一人で作業をすることが増えて、フリーランスと会社員で何ら変わりがないというか。LINEなどですぐに連絡も取れるし、ここ5、6年で大きく変わったなと思います。
KIQ: なるほど。
山森: 会社でやれることもあるし、フリーランスだからできることもあります。まだこれからいろんな働き方が生まれてくるだろうなとは思いますが、もっと若い世代の方が気軽に挑戦して楽しく仕事をしてほしいなと思いますね。同じ仕事でも働き方が選べることは良いところだと思うので。せっかく映画業界に入っても辞めちゃう人も多いんですけど、その人それぞれに合った働き方を見つけて続けてほしいです。本当に辞めないでほしいです!
<後編(8/8更新予定)に続く>
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