業界人インタビュー
【ENDROLL】「迷いながら、伝えていく」映画宣伝 山森加容子さん ~後編~NEW
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
今回はフリーランスで映画宣伝を行う山森加容子さんにインタビュー!
後編では、山森さんが宣伝を通して得た大きな気づきと業界の課題について詳しく聞いてみた。
LQBTQ+作品を担当して学んだ、考えることの大切さ。
KIQ: Netflixの『彼女』『ヒヤマケンタロウの妊娠』の宣伝にも携わられていましたが、印象的だったことはなんですか?
山森: 有識者やLGBTQ+の方々からエデュケーションというか学びの場を頂きました。キャスト陣もイベント前に説明を受けていましたが、すごく良い体験でした。それまでは実際に、当事者の方に「こういう表現ってどうなんでしょうか?」と聞く機会もなかったですし。
KIQ: 大切な場ですね。
山森: たとえば『ヒヤマケンタロウの妊娠』では「男性も妊娠するようになった世界」という設定だったんですけど、LGBTQ+の団体の方から、「性自認が男性で身体が女性の方が妊娠する、つまり見た目が男性の方が妊娠をすることもあるので、あり得る話です」 「見た目は男性の人が妊娠することはファンタジーではないから、“男性が妊娠するなんてありえない”という表現をすると、そういう方を否定することになってしまうので、避けた方が良いです」と言われた時に、恥ずかしながら「本当にそういうことがあるんだ」と目から鱗が落ちました。
私たちは宣伝をするときに誰かを傷つけたり、炎上させたくてやっているわけではないんです。ただ、どうしてもキャッチーだったり、目を引いたりする表現として断定的な言葉を使ってしまうので、そういうリスクも生まれてしまう。自覚がないのに、誰かを傷つけてしまうことがあるんだ、とすごく反省しました。
KIQ: なるほど、大事な気づきですね。
山森: ほかにも色々な方々からレクチャーを受けました。例えば、レズビアンの方も「レズ」と言われることにものすごく悲しくなる方もいれば、「全然平気です」という方もいるそうです。誰が言うかにもよる、というのもあります。そういった避けるべき表現というのが、知識としてどんどん増えていくんですよね。
KIQ: 難しいところですね。
山森: レクチャーしてくださった方に「正直、もうどんな言葉や表現を使っていいかわからないです」と言ったら、「もちろん絶対に使わない方がいい言葉はあるけれども、明確に何がダメ、ということではなくて、悲しむ方がいる可能性があることを知った上で使うのか使わないのかの選択は、皆さんで考えてください」と言われたんです。とても素晴らしい考え方だと思いました。自覚することで「この言葉を使う時は前後の言葉選定に気をつけよう」とか「もっと丁寧に説明しよう」、逆に「この表現を使うためにはどうしたらいいの?」と考えて、結果使う、もしくは「やっぱり無理だね」と使わないと考えることが、すごく重要かと。
KIQ: 考えることが何よりも大切ですよね。
山森: 知人の宣伝マンは、LGBTQ+やジェンダーはまったく関係ない作品なんですけど、「愛妻弁当」という言葉をプレスリリースに書くか悩んでいました。妻が夫のために作る弁当を「愛妻弁当」と言ってもきっと問題ないはずなんです。でも、ふと世の中の流れ的に、「愛妻弁当」って何だろうと疑問を感じて、結果「手作り弁当」に置き換えたそうです。正解が本当にわからないですね。「女優」とか「処女作」とか、今まで普通に使っていたけど「これどうなんだろう?」とか「こういう作品でこういう表現はありなのかな」ってことを普段から言い合えたり、有識者の方にお話を聞けたりする場があるといいなと思っています。
KIQ: それすごく良いですね!媒体側もそういう機会が欲しいと思います。
山森: ジェンダーとかLGBTQ+に限らずですよね。もうベテランの宣伝プロデューサーと、10代20代だと全然考え方が違う。「今のアウトですよ」ってことを若い世代に言われて、「そうか、そういう時代だよね」みたいな。そんなことですら発見があったりします。
KIQ: 常に疑問を抱いていく必要があるんですね。
山森: そうですね。さっきの「愛妻弁当」も、作品にとって何か引っかかるという内容ではないじゃないですか。それでもそこに疑問を持って考えた結果、それを「手作り弁当」に変えた。それでもリリース内容としてクオリティが下がるわけではないので、そういう「違和感を感じて考えた、変えた」っていうプロセスが素晴らしいなって。そういうことを自分も含めて丁寧にやっていけるといいなと思います。
映画宣伝の“便利屋”になりたい
KIQ: 業界に対して、こうなったらいいなって思うことって他にありますか?
山森: 漠然とした意見にはなってしまいますが、眉間にしわを寄せながら働いている宣伝マンが一人でも減るといいな、と思います。やはり若い宣伝マンや現場の方とかを見ていると、自分もそうだったからわかるけど、しんどいし、わからないこともあるし、理不尽なこともあるんですよね。私もそれで一回辞めているので、なんか、もったいないな、って。好きなことを仕事にできるって素晴らしいことだなと思うけど、辛いこともありますよね。せっかく覚悟を持ってこの業界に来たのに、「寝られない」とか「つらい」とかって言うだけだと……。みんなが「大変なこともたくさんあるけど、楽しい!」という気持ちで仕事ができるようになれたらいいなと思います。
いまも働き方改革は進んでいると思っていて、業務が細分化されることで、私がやっているキャストプロモーションといったような仕事もできてきたりしているので、より改革が進んでいくといいなと思います。
KIQ: 大切なことですね。
山森: あとは、自分が今「わからない」「謎だな」って思っているものをみんなで解決できるような場所、意見交換会みたいなものを私みたいなフリーで余裕がある人間がやれたらいいな、って。それが目標ですね。
個人的にはSNS宣伝を勉強しようと考えていて、動画編集の勉強もしたいと思っています。そもそも何ができるかわからないとどんな企画できるかわからないじゃないですか。私はちょっと不器用なので、仕組みとか流れを自分がある程度わかってないと、「これをやったら面白いんじゃないかな」って想像が膨らまないんです。同じことをやっていても、多分企画力とか機動力で絶対若い世代に負けますが(笑)、今からでもできることは何かなって考えています。どうにかして、「あいつ便利そうだな」と思われるために色々模索しようと思います。映画宣伝の「便利屋」になりたいです(笑)
★【ENDROLL】「宣伝という名の、冒険。」映画宣伝 山森加容子さん ~前編~
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