業界人インタビュー
【ENDROLL】「映画館ができるまで」OttO今井健太さん~前編~NEW
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから生まれたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
映画・エンタメ業界の最前線で活躍する方々に話を聞き、そのキャリアや想いに迫ります。
現在この業界で働いている方はもちろん、これから業界を目指す人にとっても、刺激となるリアルな声を届けていきます。
今回は、2025年4月に完成した、埼玉の大宮駅から徒歩5分にあるカフェとシェアハウスを併設するミニシアターOttO(オット)の今井健太さんにインタビュー。
シネコン全盛のご時世にミニシアターを作ることにした経緯、そして今井さんのこれまでの人生について聞くと、決してムチャではない、今井さんのポジティブさと人を惹きつける魅力、そして映画顔負けの人生の伏線回収が垣間見えてきます。
映画ファンと熱量を共有する、視聴者参加型YouTubeチャンネル「共感シアター」でも共演した稲生Dがお話を聞きました。
映画館を作るなんてとんでもない!

稲生D:
大宮駅からここまで歩いてきたんですが、徒歩5分の駅前なのに住宅街で、映画館がありそうな場所ではありません。ここに映画館を作るのは、かなり勇気がいることだったんじゃないかと思います。
今井:
そうですね(笑)。僕は設備工事屋ですから、映画館の経営というものがどれぐらい大変なことかもわかっておらず、映画業界のことも何も知らなかったので、そういうことを全然考えなかったんですよ(笑)。
稲生D:
そんな中で映画館を作ったということに改めて驚かされます。以前、共感シアターにご出演いただいた時に「銀行もお金を貸してくれなかった」とおっしゃっていました。僕もこの業界まぁまぁ長いですが、映画館経営は僕でも止めます(笑)。
今井:
「なんでそんなことするんですか」って言われましたね(笑)。本当に投資詐欺だと思われたりしました(笑)。ここの建設が始まる直前にも、銀行の担当者が突然代わっちゃって、いきなり融資額を大幅に減らされてしまうことがありました。新しい担当の方は、もともとシネコンで働いてた方だったんです。なら話が早いと思ったら、逆に映画館運営の厳しさを知っているのと、担当が変わったばかりで、今まで聞いた事が無い業態にお金を貸していいんだろうかと思ったようで。映画関係者だったら応援してくれると思っていたんですけど、着工自体が危ぶまれる状況になってしまいました。
稲生D:
なんと。どうやって乗り切ったんですか?
今井:
このあたりにさいたま市の破綻している区画整理計画の一部があって。駅の東口に抜けるはずの土地として確保した場所なんですけど、結局何もできずに残っている。あの土地は一体何だと、当時行政に情報開示請求してたんです。その経緯の中で、市議会議員の人とか、この辺りの自治会長さんとか色んな人と話をしたんですけど、そういう方々が銀行の方々とつながりがあって。映画館の話をしてみたんです。するとみなさんけっこう面白がってくれました。それで、「じゃあ私から話してみましょう」みたいな流れになって、ここの案件が部長案件に繰り上がったんです。
稲生D:
すごい!
今井:
家族全員で来てほしいと銀行に呼ばれまして、そこでも「かなり大変ですけど、実際どう考えてるんですか? 」と聞かれました。熱に浮かされただけなんじゃないかと心配だったんでしょうね。でも実はそうじゃなくて、「祖父の世代から暮らしていたこの場所を、その次の世代も使えるようにしたい」と説明しました。単なる自分の趣味でやろうとしているのではないことが解って頂けたようで、その場でこちらが最初に希望していた工事金の融資額が認められ、さらにコロナ禍で高騰していた資材や建築費をカバーする為の追加融資も認められることになりました。
映画館をビジネスにしないという革命
※映画館内の様子
稲生D:
そこから完成して今に至るわけですが、このOttOは、シェアハウスとカフェという側面があって、映画館で黒字にしようと思っていないというところが革命的です。
今井:
最初に調べた時から映画館だけではダメだと思っていました。ここの音響システムをデザインしてくれたのが、109シネマズプレミアム新宿も手掛けたXEBEX(ジーベックス)さんとイースタンサウンドファクトリ―さんなんですが、最初に営業の方と会った時に「映画館単体でやるようでしたらあまりお勧めできません」とおっしゃって(笑)。きっと、何も知らずに無謀なことを言っていると思われたと思います。でもなるほどその通りだと思いました。いろいろと話をしていく中で、じゃあもっと複合的な施設にしていこうと。
稲生D:
別にシネコンと戦うつもりはないんですね。
今井:
全くないですね。義理の父は単純で、みんな仲良く暮らせたらいいね、という人なんです。
稲生D:
義理のお父さんの考えをちゃんと受け継ぎつつも、プレッシャーはありますよね。
今井:
プレッシャーは今も感じています。この辺の人には顔見知りが多いですから。「あそこの義理の息子がなんか自分の趣味で食いつぶしてる」みたいな話になりやすいことじゃないですか(笑)。 銀行もそういうふうに見ますし。だからこそ、そうならないように緻密にやらないといけないなと思っていました。
稲生D:
4月のオープンから半年、やってみていかがですか?
今井:
そうですね。結構な手応えがあるというか、まず皆さんが待っててくれた、地域の人が喜んでくれたというのはすごく驚きでした。この間もここに親子連れが来て、子供が宿題やってて、お母さんはビールを飲んでるみたいな。シニアの人も来てくれます。
稲生D:
住宅街ですもんね。いいところに喫茶店ができたみたいな感覚ですよね。
今井:
そう、夜にジミヘン観に来て一杯飲んで帰るみたいな。
稲生D:
日本じゃないですね(笑)。
今井:
そういう距離感がいいなと思っていて。あと、やっぱりこういう映画館との複合になっているっていうのは他にないですから。いろんな人が興味を持ってくれて、本当にいろんな人が来るんですよ。まちづくり関連の人なんかもよく来ますし、ひとつの実例として視察に来るみたいな人が多いです。あとは NPO 関連で、例えば困窮しているシングルマザーの方やDV被害に遭っている女性に対して、シェアハウスがシェルターとして使えるんじゃないかとか。
稲生D:
映画館だけでなくシェアハウスの在り方としても特殊ですよね。
今井:
現実のものになるかは分かりませんが、近くの医療センターに長期入院している子供たちを元気づけるための施設があって、お見舞いに来るご両親の宿泊施設もあるんですが、予約がいっぱいで入れないらしいんです。そこでここが使えないかとか。ただ泊まるだけじゃなくて、そこに人がいてホッとできる場所、そういう使い方もどうでしょうかというアイデアを話してくれた方もいらっしゃいました。 お客様以外にも本当にいろんな人が訪ねてくれています。
境界線をなくす独自の作品ラインナップ
※カフェの様子
稲生D:
そして映画館としてはラインナップも重要になりますが、シネコンにはないラインナップですね。
今井:
番組編成を考えているのは僕じゃないんですが、僕も結構うちのラインナップ好きなんですよ。
稲生D:
『アンパンマン』と『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』が同じ劇場で見られるのってここぐらいですよね(笑)。
今井:
境界線をなくしていくというか。そこが面白いですよね。
稲生D:
ラインナップもそうですが、シネコンと一番違うところは、お客さんの顔が見えるというのは大きいんじゃないですか?
今井:
それは大きいですね。この規模感じゃないと味わえないものがあります。アルバイトを募集すると、映画館で働いていた人が来るんですよ。シネコンで働いてみたけど、行ってみたらなんか違った、みたいことをよく聞きます。映画が好きで、映画館で働きたいと思って、シネコンでバイトしても映画館らしいことが何一つできない。ただ道案内して、来た人をさばくだけだと。
稲生D:
接客は学べるけど、映画好きである意味ってほとんどないですよね、シネコンだと。
今井:
お客さんと関わる場所がないですよね。だからここでバイトしてる人はとても喜んでくれています。カウンターに座ったお客さんに話しかけられるわけですよ、やっぱり。「どんな映画好きなの」って。そこで話がはずんでいって。あとはカフェだと思って来たら映画館だったっていう人もいますね。
稲生D:
普通の人はここの外観を見て映画館だとは思いませんよね。
今井:
カフェだと思って来た人が、「ここ映画やってるんですか? 何やってます?」とか言って、その場で観て行く人もいるんです。作品に引っ張られて映画館に行くのが普通ですが、たまたま映画館だったからそこで作品に出会うみたいなこともあって。それもまたいいなあと。
稲生D:
映画館で今やってるものを見るという感覚はあまりなくなりましたね。それこそ出会いですよね。
今井:
高校生ぐらいの女の子がたまに来るんですけど、ここに来るといい映画に出会えるからまた来ますって言ってくれるんです。それってとっても嬉しいなと思って。ここでやってるものっていわゆるエンターテインメント作品だけじゃなくて、 結構ハードなドキュメンタリー作品もやってたりするんで。そういう出会いもまたいいんじゃないかなと思っています。
<後編(11/21UP予定)に続く・・・>
【Information】
日常と映画が交差する、住宅街のなかの小さな映画館


OttO(オット)は、大宮駅西口から徒歩5分の住宅街にある小さな映画館です。
こだわりの作品上映やトークイベント、併設するカフェでの時間を通じて、映画を日常の一部として楽しめる空間を提供しています。
映画鑑賞の合間にコーヒーを飲んだり、シェアハウスの仲間と感想を語り合ったり。
この場所でしか味わえない特別な映画体験をお届けします。
https://otto-extended.com/
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