業界人インタビュー

【ENDROLL】「AI時代、デザインの生き残り方」グラフィックデザイナー三堀大介さん~前編~NEW

2025-12-19更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから生まれたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
映画・エンタメ業界の最前線で活躍する方々に話を聞き、そのキャリアや想いに迫ります。
現在この業界で働いている方はもちろん、これから業界を目指す人にとっても、刺激となるリアルな声を届けていきます。

今回は、有限会社サイレンの代表取締役で、グラフィックデザイナーの三堀大介さんにインタビュー。

グラフィックデザイナーとしてのお仕事内容や、デザイナーとしての考え方を変えるほどの衝撃を受けたお仕事、そして幼少時代の強烈な映画体験まで伺います。

映画ファンと熱量を共有する、視聴者参加型YouTubeチャンネル「共感シアター」でもコンビを組む稲生Dがお話を聞きます。

サムネイル文化が変えた、ビジュアル制作の新ルール

稲生D
まずは、三堀さんの現在のお仕事について教えてください。

三堀
グラフィックデザイナーです。基本的に映画、舞台、あとドラマとかのキービジュアル、メインビジュアルみたいなものから、その他に派生していくものまでのグラフィックデザインを作るという仕事ですね。

稲生D
若い頃からこのお仕事をやってきて、仕事の仕方に大きな変化はありますか?

三堀
自分の中で大きく考え方が変わったのは、動画配信サービスの仕事をさせていただくようになって、いわゆる画面の中にズラ―っとサムネイルが並ぶ、あれを作ったときです。あれってビジュアルの良し悪しを、出す前に誰も判定しなくて、とりあえずたくさんサムネイルのバリエーションを作ってシステムに実際に入れて、 A/B テストをするんです。そこから またさらに A/B テストをかけてを繰り返し、最終的にクリック率が高いものが残る。イコール、それがいいアートってことなんです。

稲生D
なんという合理性!

三堀
はい。これまでのノウハウとか、理詰めとか、やってきたことが全部吹き飛んでしまいました(笑)。とりあえずいろんなバージョンを作って、あとはお客さんに決めてもらおう、みたいな世界なんです。結局はお客さんが決めたやつが正解だから、みたいな感覚ですね。もちろん、シンプルなのがいいとか、コントラストは強めがいいとか、人数は少ない方がいいとか、傾向はあるんです。でもホラー映画なのに、赤ちゃんがにっこりしてる写真とかでもオッケーだったりします(笑)。仮にそれがすごくクリック率が良くて、ユーザーが最後まで映画を見たというデータが取れるのであれば、それが一番いいアートワークってなるっていう発想なんですよ。

稲生D
「なんでこんなサムネイル?」と思うものには理由があったんですね。

三堀
劇場公開時に散々ポスターとかで宣伝して、みんなの目にたっぷり印象付けてきたものなのに、それが選ばれない恐ろしさですよね。最初のワンクリックとかワンアクセスが肝なんです。

稲生D
それに最近はもう全部スマホですもんね。ポスターもすごいちっちゃいところで判断されますよね。

三堀
そうなんです。気づいたら映画にアクセスするときって、今はほとんどあのちっちゃいサムネ画像じゃないですか。あれを最初にタッチしてもらえたら、そこから情報をどーっと入れられる。だから興味を引き付けるという意味では、劇場公開時のポスターも、シンプルでコントラストが強くて、文字がなくて、少人数で、というのは理にかなってるんですよ。

稲生D
AIもどんどん進化していますよね。

三堀
これからの僕らの仕事って、AIを使ってバリエーションを作ってA/Bテスト。シンプルで究極の答えですよね。僕らのような専門家じゃなくて、AI にバリエーションいっぱい吐き出させてA/B テストする。そういう時代になっていくと思います。僕自身、ギリギリAIからは逃げ切れると思ってたんですよ。でもそういうこともあって、「もうダメだ、逃げ切れない」と思いました(笑)。

稲生D
映画でも、AIに「『ジュラシック・パーク』作って」と言ったら作れますもんね。実写の背景にCG を合成するなんてこと自体が無くなっていくかもしれない。

三堀
実際ハリウッドでも水面下でどんどんそういう技術が進んでますよ。人の声とかもちゃんと権利的にクリアにできるかだけの問題ですよね。すでに有名俳優が出資している会社もあって、自分の声をそこに覚え込ませてるんですよ。例えば自分が主演している映画のスペイン語吹替えが、自分の声で吐き出されたりするようになる。すでにスター俳優たちはそこに向けて動き出してる。

稲生D
映像、画像関係はもうAIからは逃げられないですよね。でも面白い話を考えられる人は生き残っていける気がするんですけど。

三堀
クリエイターに関係なく映画産業はじめエンタメ産業全般が「人間じゃなきゃできないところはどこだ」と探してるところだと思いますね。僕も含めて。

稲生D
デザインの仕事は今後どうなっていくと思いますか。特に日本において。

三堀
まだ全然結論めいたものにはたどり着けていない話なんですが、今考えてるのはさっき稲生Dが「AIに面白いストーリーは書けない」と言ったことにちょっと近いんです。ビジュアル表現において、すごくコンセプチュアルなところってたぶん AI にはできないんです。なぜならAIはお願いしないと書けないから。要はAIへのより良い命令、より良いプロンプトを書けるかどうかっていうことになっていくんだと思います。それって結局面白い話を考えられるかどうかと同じ。だから業態自体が変わってくるでしょうね。 デザイナーっていう業種も今より規模は小さくなるだろうし、デザイナーがやることもそういう方向に少しずつ変わってくるんじゃないかなと思います。

幼少期に刻まれた、衝撃映画体験

稲生D
さて、せっかくなので少年時代からのお話も聞きたいです。映画沼にハマったのは?

三堀
小学校一年生で見た『地獄の黙示録』です。親父が連れて行ってくれました。字幕も読めなかったですが、強烈に僕に刷り込まれてしまって。あのヘリの音とかビジュアルもね。父親が「あれはね、ベトナムの兵隊さんがお腹から内臓が出そうなのを、お鍋の蓋で押さえてるんだよ」とか教えてくれたのをめちゃくちゃ覚えてます。小1だったので『地獄の黙示録』が好きということではないんですけど、人生の中に普通にあるものになりました。

稲生D
では中学校の頃はもうちゃんとしたオタクだったわけですね。

三堀
『ターミネーター』とかも見てましたし、(名作が次々生まれた)伝説の1985年と1986年がありましたから。『グーニーズ』、『グレムリン』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に『トップガン』…。あの時期を小学校高学年から中学生にかけての一番いい時期に浴びちゃったんです。ハリウッドの黄金期、最後の輝ける時代を一番多感な時に浴びてしまいました(笑) 。それをふまえて、高校生の時にいわゆるミニシアター映画にハマっていきました。

稲生D
で、どのあたりからグラフィックデザインにいこうと思ったんですか?

三堀
僕は美術だけはずっと「5」だったんです。目をつぶって描いても「5」でした。中学生からは映画だけじゃなくて、UKロックとかニューウェーブの音楽にもはまっていました。映画のチラシを壁に貼って、レコードジャケットを眺めながら、ヘッドホンでガンガンに暗い音楽を聴いてました(笑)。そこで僕はギターを持つわけでも、映画監督になろうと思うわけでもなく、当時からポスターとかジャケットを作りたい人だったんです。

稲生D
あのころやりたかったことをやれてるわけですね

三堀
そうなんです。たぶん珍しいんじゃないかと思います。ずっと映画をやりたかったんです。そして東京の美大に行きました。でもグラフィック科は倍率が47倍とかで入れなかったんです。でも空間系のデザインの方になんとかねじ込んでいただいて。先生には「ポスターを作りたい人もいるでしょうけど、ポスターっていうのは壁に貼られて初めて完成する。その壁や周りの空間も考えてデザインするのがポスターなんです」みたいなことを言ってくれて。大人になったらこの言葉を使おうと思ってました(笑)。

稲生D
先生、いいこと言いますね。嬉しいですね。

三堀
そして卒業後に就職したのはパルコの関連会社で、空間系のデザイン的なことをやっている部に入りました。そこで最初に担当したのがシネクイントがオープンする直前の渋谷パルコだったんです。展覧会のデザインの仕事もあって、映画の企画展とかもやりしました。ティム・バートン監督の『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(2001)のプロップを本国からいっぱい送ってもらって、その展覧会のポスターもデザインして。憧れの20世紀フォックスが OK したポスターで、ティム・バートン本人がちゃんと承認したらしいという噂も聞いて。オリジナルの映画のビジュアル以外に、世界で唯一許されたビジュアルだとかも言われて。そんなことを20代にやったもんだから「もう夢がかなった!」と、その時は思いましたよね。

稲生D
それはすごい!

三堀
ヘレン・ミレンに褒められたこともありますよ。彼女が女王として君臨しているビジュアルを作ったら大変気に入っていただいて。

稲生D
ヘレン・ミレンに褒められるってなんかいいですね。箔が付く感じがする(笑)。

三堀
その会社で7~8年勤めた後にフリーランスになりました。

(後編へ続く・・・)

 

【Information】
三堀さんが、初めて配給した映画「キムズビデオ」が絶賛公開中!
グラフィックデザイナーが映画配給!? その経緯は後編で!


https://kims-video.com/

1980年代からアメリカ・ニューヨークのイーストビレッジに実在した、ニューヨークの映画ファンたちが通い詰めたレンタルビデオショップ「キムズビデオ」。そこにあった55,000本もの貴重かつマニアックなビデオ・コレクションの⾏⽅を追ったドキュメンタリー映画。

2023年製作/87分/G/アメリカ
配給:ラビットハウス、ミュート

【Back number】

不明なエラーが発生しました

映画ファンってどんな人? ~ライフスタイルで映画ファンを7分析~
閉じる

ログイン

アカウントをお持ちでない方は新規登録

パスワードを忘れた方はこちら

閉じる