業界人インタビュー

【ENDROLL】「未公開映画上映会の作り方」グッチーズ・フリースクール主宰(教頭)降矢聡さん ~前編~

2025-01-31更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

今回は、映画の配給や自主上映会を行うグッチーズ・フリースクールの主宰(教頭)、降矢聡さんにインタビュー!かねてより、降矢さんの活動をウォッチしている、KIQ REPORT編集部のTTがお話を聞いてきました!

前編では、日本未公開の映画のイベント上映から始まり、いまや配給も手がけるなど、多岐にわたって映画を紹介する活動の変遷について話を伺いました。

独力での未公開映画の上映・配給

KIQ: 現在、映画の上映イベントや配給をされていますが、最初にグッチーズ・フリースクールの活動に触れたのは、2014年の 3月に東京藝術大学新港校舎で行われた『アメリカン・スリープオーバー』(2010)と『すてきな片想い』(1984)の上映会でした。上映活動としてはあのときが最初ですよね。

降矢: もう10年前だなんて恐ろしいですね(笑)。映画の上映をしたのはそのときが最初なんですけど、活動自体は、その1年ぐらい前から──今ではその活動はほぼしてないんですけど──日本未公開の映画の詳細なあらすじを書くというウェブサイトを友達と始めていました。

KIQ: だいぶ詳しく紹介されていましたよね(笑)。

降矢: はい(笑)。そんなときに藝大の院でプロデューサー部門コースを履修していた大学時代の後輩から、「藝大で上映企画ができるから一緒にやりませんか?」と声をかけてもらって。サイト内でも取り上げていた当時日本未公開だった『アメリカン・スリープオーバー』はちょうどよさそうだからやってみようかということで、そこで初めて上映イベントを行いました。

KIQ: 上映会に行ったら、特製パンフレットが無料で配られ、学園映画に合わせてお菓子やジュースも用意されていて驚かされました。

降矢: そうそう。プロムパーティーとまでいかないんですけど、体育館みたいな倉庫のようなスタジオが会場だったので、ソファーを置いたり、お菓子を配ったり、ちょっとパーティーっぽい感じにしました。藝大の企画費用があったので、その範囲内だったら使わせてもらえたので、様々なゲストの方々も呼ぶことができました。

KIQ: そこで海外の映画会社との権利交渉などは初めてやられたということですよね。

降矢: そうです。そのときの権利交渉の連絡自体は藝大さん経由だったんですけど、送信先やメールの内容は一緒に話しながら進めていたので、権利交渉をどういう風にやるか、金額がどのくらいかかるかみたいなことはなんとなく知ることができました。これは自分たちだけでももしかしたらできるかもと思って、その次の年に自分たちだけで上映イベントを開きました。

KIQ: なるほど。それがなかの芸能小劇場での未公開映画上映会イベント「Premiere Theater Academy(PTA)」ですよね。『ウェット・ホット・アメリカン・サマー』(2001)と『キングス・オブ・サマー』(2013)が日本初上映されましたが、あれは自費で開催されたんですか。

降矢: 完全自費でしたね。区民ホールはすごい安くて2~3万円で借りられるし、座席も100席ぐらいあったので、チケット料金1300円で、それなりにお客さんが入ってくれれば、まあまあペイはできるだろうみたいな感じでした。

KIQ: その翌年、2016年に「青春映画学園祭」と題して6本の未公開青春映画の上映イベントをされましたが、そのときに特製冊子『ムービーマヨネーズ 創刊号』が作成されました。それが後に出版される書籍『USムービー・ホットサンド 2010年代アメリカ映画ガイド』(フィルムアート社)にも繋がっていきますね。

『USムービー・ホットサンド 2010年代アメリカ映画ガイド』(フィルムアート社)

降矢: その本は、僕がグッチーズを始める前にライターとして書かしてもらっていた映画批評誌『Nobody』でもともと編集をされていた方から声をかけていただいて出したんですが、その前提となったのが、仰る通り、『ムービーマヨネーズ』という自主出版の冊子でした。上映会をするときは、ただ単に上映するだけだとつまらないなとも思ったし、青春映画のジャンル自体をちょっと盛り上げたい気持ちもあって、自分たちの好きなことを書いたZINE(個人が自主的に制作する冊子)みたいなものですが、いつもパンフレットを作るよう心がけてきました。イベント感も出るし、楽しんでもらえるんじゃないかなと思って。

KIQ: 最初に映画紹介サイトを始めたのもライター活動の流れで?

降矢: 昔から映画に関わりたいとは薄っすら思ってライター活動をやっていたんですけど、20代後半ぐらいのときに、就職もしていなかったので、もうちょっと自分から存在感を出していかないとと思ったのがきっかけでした。ちょっと自分たちでできることからやってみようかなと思って、中学時代からの映画好きの友達を誘ったんです。それが「校長」の樋口くんでした。

団体名の由来は友達との思い出

KIQ: そもそもなぜグッチーズ・フリースクールという名前になったのですか。

降矢: 名前の由来は、本当にどうでもいい話なんですけど、樋口くんのあだ名がグッチで。中学の美術の時間でポスターを描こうというお題が出たときに、みんなは架空の映画やコンサートのポスターを描いていたんですが、なぜかグッチが「グッチーズ・フリースクール」っていうフリースクールのポスターを描いたんです(笑)。自分の名前を冠してるフリースクールのポスターが意味わからなくて衝撃的でずっと残ってて、中学時代のほぼトラウマなんですが(笑)。それで活動名をどうするかとなったときに、僕は、グッチと言えば「グッチーズ・フリースクール」だったので、ふざけてつけたんです(笑)。

KIQ: それで「学校」ということで、樋口さんが「校長」、降矢さんが「教頭」になったと。

降矢: はい(笑)。

KIQ: 「フリースクール」という名前だと、本当の学校だと勘違いされることもありそうですね。

降矢: そうなんです、実際に海外との交渉でありましたね。ちょっと笑い話なんですけど、この名前なので、学校とか公的な機関による教育目的だと勘違いされて(笑)。でも映画の上映はすべて教育的だしなみたいな(笑)いいように解釈してやってたんですけど、そういうことがちょくちょくあったので、当時は「スクールと名前につくだけで正式な学校ではないです」って一文を入れていました。

KIQ: 「スクール」という名前で、上映作品は青春映画が中心ですが、それはたまたまですか。作品選定基準として意識もあったんでしょうか。

降矢: たまたまなんですけど、すごくちょうどいいなとはどこかで思っていました。そもそも青春映画が好きで、みんなで見たら楽しい気持ちに純粋になるじゃないですか。単純に見終わった後のイベント会場の雰囲気がよくなりそうだし、若手の監督が参入しやすい分野で、インディペンデントな良作がある。90分ぐらいで見れて、しかもフレッシュな人たちが撮ってて、フレッシュな人たちが出てるっていうのは、結構いいかなと考えていた結果、自然と多くなった気がします。

KIQ: 活動当初は、「校長」「教頭」のお2人だったんですか。

降矢: あと大学院で映画を勉強している人、字幕翻訳を目指している人、帰国子女で映画制作会社に勤めている人にも声をかけて、その5人で始めました。それで英語が得意な人に字幕制作をお願いしたり、海外とのメール交渉も代行してもらったり。

KIQ: みなさんに役職名がついているんですか。

降矢: あとはみんな講師たちです(笑)。そのメンバーで3年間ぐらいやっていたんですが、それぞれ忙しくなったり、規模もちょっと大きくなってきたりして、負担がある人と全然ない人と分かれてきたので、1回解散して、基本的にいまは僕が1人でやっています。何か上映イベントをやろうとなったときには当時の仲間に声をかけて、その都度一緒にやったり、困ったことがあったらアイデアをもらったり、そういう関わり合いの方がみんな自由でいいかなっていう感じになりました。

KIQ: ちなみに、降矢さんご自身の現在の生活としてはグッチーズ1本ですか。

降矢: 時々ウーバー(笑)。ですが、基本的にはグッチーズの配給業でやれています。

KIQ: いつ頃までアルバイトと掛け持ちしながらだったんですか。

降矢: 4~5年ぐらいは全然アルバイトしながらやってましたね。

KIQ: なるほど……!その後、上映会だけでなく配給も手がけられるようになりますが、それは『アメリカン・スリープオーバー』の劇場公開が最初ですか。

降矢: 正確に言うと、2016年の青春映画学園祭でリチュード・リンクレーター監督の長編デビュー作『スラッカー』(1990)を上映したんですけど、ちょうどそのとき監督最新作の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)が公開される頃で。劇場から『スラッカー』を一緒に上映できないかと話が来たんですよね。そのために権利を取ったのが、映画館での興行という意味では、最初かと思います。それと並行して、『アメリカン・スリープオーバー』と『キングス・オブ・サマー』も上映したいと言ってくださる劇場があったので、その3作品はほぼ同時期に権利を交渉して取ったと思います。

KIQ: 上映会をやるのと配給をするのとであまり違いはなかったんですか。

降矢: 上映会の場合は、例えば500ドルで1回上映していいよみたいな感じなんですが、配給となると長期の権利になるので、しっかりした契約書が送られてきたり、金額が高くなったり、月にどれぐらい興行があったかレポートを出さなきゃいけなかったり、ちゃんとした感じはありました。でも、基本的にはそんなに変わらないかなっていう印象はあります。

KIQ: 金銭的な苦労はなかったですか。

降矢: 『アメリカン・スリープオーバー』で1~2年間の配給権利で3000ドルとかだったんですよね。たぶん当時で50万円かかってないぐらいだと思います。単純に言うと、もし100万円売上があったとしたら、劇場と折半して、配給の利益が50万円じゃないですか。それを本国の権利元と半分に割ってシェアするみたいな、それぐらいの規模でした。今までの配給作品は、すべて50万円ぐらいの規模感です。

KIQ: そこからは配給をやりつつ、自主上映活動も続けていかれますね。

降矢: 最初の頃は、まずイベント的に上映をして、そこで評判がよかったり、劇場さんからうちでも上映してほしいなみたいなお話が来たときに、じゃあ1年間の権利を取ろうという風に進めるようにしていました。あんまり最初から風呂敷を広げすぎて、権利を買ったはいいけど、劇場さんにかけてもらえなかったら嫌ですし。感触を確かめながら、反響を見ながら、どれぐらい上映が広げられるかみたいなことは考えて、あんまりリスクを取らないようにやってはいました。

KIQ: 上映会の評判を劇場側も見てるものなんですね。

降矢: なんか見てくれていましたね。 特に最初の方は珍しいと思ってくれたのか、それこそ青春学園祭とかは結構見てくれたみたいで、声をかけてもらいましたね。

<後編(2/7UP)に続く>

 

【Information】

悪魔の扉が今、開かれる!
『死霊のはわらた』
<2週間限定> 2025年2月7日(金)〜2/20(木)
シネマート新宿にて限定上映

多くの映画ファンからスクリーンでの上映を待望されながらも長らく様々な事情により上映が叶わなかった滅多に観ることのできない作品、ジャンルを問わず3作を集めた特集上映、その名も「コケティッシュゾーン」 第二弾は2/7(金)〜2/20(木)の2週間限定で『死霊のはわらた』を上映!

【日程】『シリアル・ママ』 2025年1月3日(金)より2週間限定上映
【場所】シネマート新宿
【チケット料金】通常料金 ※各種サービス適用
【チケット販売】上映開始2日前よりオンライン・窓口にて販売
シネマート新宿オンラインチケット予約サービス
https://www.cinemart-ticket.jp/shinjuku/schedule/index.php

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