業界人インタビュー
【ENDROLL】「心を乱し刹那に消える 映像の魔法」東映シーエム株式会社 酒井伸介さん ~後編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
今回も前回に引き続き、TVCM、WEB・SNS動画といった広告映像を中心に、映画、MV、PR映像など幅広いコンテンツを企画・制作する東映シーエム株式会社で常務取締役を務められている酒井伸介さんにインタビューした内容をお届けする。
後編では、CMができあがるまでの過程から、CMならではの刹那の魅力、コンプライアンスが厳しくなる中でのCMの変化まで、さらに迫ってお話を伺った。
人の心に勝手に入って去っていく泥棒
一本のCM、一人のCMプランナーとの出会いからCM業界に進んだ酒井さん。やりがいを感じるときを尋ねると、酒井さんがなぜCMという数十秒の世界に心を奪われるのかが見えてきた。
KIQ: 一般的なCMと映画のCMは何か違いがあるものですか。
酒井: エンタメの方がやっぱり企画の幅の自由度が高いですよね。一般企業さんの場合はいくら面白くても、商品を扱う都合上、どうしてもちょっと制約がある。どちらかというとエンタメの方がその辺は緩いですね。
KIQ: アイデア出しはどういう風に進んでいくんですか。
酒井: 代理店さんとのお仕事の場合は、クリエイティブの皆さんが考えた企画を映像にしていきます。場合によっては、うちの企画部も参加させていただいて。それらをお互いに一緒に精査しながら作り上げていきます。クライアントさん直の案件などは、自分たちで考えて企画することもあります。
KIQ: 私たちが普段見るCMはそれほどの段階を経てるんですね…! CMの仕事の面白さはどういった点に感じられますか。
酒井: 面白さは、やっぱり同じ仕事が二度ないってことですかね。CMを作るときに、 当たり前ですが、毎回違うんですよね。でも経験値が別の機会に活きることがあったり、そういうことも面白いです。あとは、0から作りあげていったものがテレビからCMとして流れてくるというのはいつも嬉しいですね。
KIQ: 作られた映像が世に出たことで影響を感じるときはありますか。
酒井: 僕自身が地方から出てきた人間だということもあるんですが、年末に帰省すると、自分の携わったCMが流れてくるのを見たりすることがあるんですよね。自分が幼少期、青春時代を過ごした場所で、テレビから流れているのを見ると、なんだか変な気待ちになります(笑)。
KIQ: (笑)。確かにCMだと地域によって時間差とかあまりなく広がっていきますもんね。
酒井: そうですね。全国的にオンエアされるCMも多かったんで、そういう楽しみ方もできました。たまに自分が手がけたCMが「今3つ続いた!」とか「4つは続かなかったか……」とか、何回連続で流れるかっていう楽しみもありましたね。なかなか4つは続かないんですよ(笑)。
KIQ: なるほど、偶然流れてきたときが喜びになるんですね。
酒井: そうですね、それは結構あります。そもそも僕がCMやろうと思ったのが、 ドラマや映画だったら、それを見たいなと思って、見ますよね。でもテレビCMは、いつ来るか、いつ流れるかがわからないし、たとえそれを見たいと思っても待つことができない。人の心に勝手に入ってきて、勝手にいなくなる、泥棒みたいな。ふと見たCMで流れてた音楽が、例えば誰かにとっては、昔付き合っていた恋人との思い出の曲だったりすると、全然その商品とは関係ないんだけど、当時の記憶がふいに思い出されたりする。でも、その思い出したぐらいのときにはもう別のCMが流れている。そんなこともあれば素敵だなって思ったりして。瞬間的に見た人の心の中を搔き乱すけど、気づいた頃にはもういなくなっている。その刹那みたいなものがちょっと洒落てるなと思ったんです。CMというのは、ガチャガチャみたいに何が当たるか、何が流れるかわからないもの魅力だなって思ったんです。
時代とともに変化するCM
KIQ: 今は映画もテレビで偶然出会うというよりも、サブスクで作品を選んで見ることが多くなりましたよね。自分の関心を持ったもの以外と触れる機会が少なくなった。
酒井: 内容も表現も少し変わってきてるのかなって。CMも昔は今ほど文字を出さなかった。みんな必要以上にテロップを入れたがらなかったんですよ。文字の級数もテロップも大きさにこだわるのではなくて、映像とコピーで勝負、みたいな。でも最近は、メディアによっては、より多くの情報を視覚的に伝えることも必要になってきてますよね。
KIQ: ほかにどのような点でCMの内容や作られ方で時代の変化を感じますか。
酒井: 入った頃から30年経ちますが、いわゆるコンプライアンス的に色々な気をつけなきゃいけないことが増えましたね。面白いものは結構コンプライアンスとギリギリだったりするじゃないですか。それまでずっとできていたことができなくなってきた。特にマスで表現しようと思ったら今はなかなか大変ですよね。なので、WEBやSNSで話題になりやすいものが作られるようになってきているのは時代の流れなのかなと。
KIQ: その変化に対してはどう考えられていますか。今はみんなアテンションスパンが短くなってますよね。
酒井: 時代も変わってきて、これからは若い人たち、新卒世代の人たちの力をどれだけ引き出せるかじゃないかなと。やっぱり今のSNSで流行っているものとかウケているものって自分たちが若かった時代にはなかったもので。SNSを使った表現も移り変わりが早くて。感覚が我々とは違うところもあって。でも、この人たちが作り手の中心になっていくのは間違いなくて。なので、彼ら世代がどうやったらちゃんとビジネスとして、素敵な映像を生んでくれるのか。そういう人が力を発揮できる環境を作って行くのがとても大切だと思います。
KIQ: 今後、広告クリエイティブ業界はどうなると思われますか。
酒井: より「もの作りができる」人の価値がどんどん高まっていくとは思います。映像媒体も多種多様になってきて、よりソリッドで筋肉質なものも必要とされることもあったり、個性の多様化が進んでいくんじゃないかなって思ってます。広告だけではなく、映画やドラマの脚本にも活躍の場を広げているクリエーターの皆さんも多いです。なので、これからは、映像を制作する側も、よりクリエイティブと個性を求められる時代になってきてると思いますので、社員一丸となって頑張っていきたいと思います。
★【ENDROLL】「人生を変えた30秒」東映シーエム株式会社 酒井伸介さん ~前編~
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