業界人インタビュー
【ENDROLL】「カメラは出会いを導く」スチールカメラマン・監督 籔下 雷太さん ~前編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
今回は、『シティーハンター』(Netflix)、『子供はわかってあげない』などで映画のスチールカメラマンとして活躍するだけでなく、監督としても注目される籔下雷太さんにインタビュー! 藪下さんが手がけた短編映画『わたしはアーティスト』は、2015年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で短編部門グランプリ、ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を獲得。また、撮影監督を務めた『恋とさよならとハワイ』では、上海国際映画祭のアジア新人賞部門で最優秀撮影賞にノミネートされるなど、多彩な才能を持つ籔下さんの魅力に迫った。
前編では、大学時代からカメラマンを目指していた籔下さんが、29歳の時に映画業界に足を踏み入れた理由について詳しく聞いてみた。また、これまで参加した現場で印象的だったエピソードとは?
【ENDROLL】「映画業界をもっと身近に」スチールカメラマン・監督 籔下 雷太さん ~後編~
カメラは多くの出会いを生む
業界に入ったきっかけは、テアトル新宿でのアルバイト仲間の影響が大きかったという。また、カメラを始めたきっかけと、どこに魅了されたかについても聞いてみた。
KIQ:業界に入ったきっかけは?
籔下:業界に入ったのは結構遅くて、29歳ぐらいの時にNCW(ニューシネマワークショップ・映画学校)に通い始めったのがきっかけです。
KIQ:それまでは何をされていたのですか。
籔下:写真の仕事をずっとしていました。大学時代に写真を始めてからカメラマンになりたくて、スタジオで働いたり、フリーでアシスタントをしたりしていました。でもそれだけで食べていけなかったので、テアトル新宿でアルバイトを始めたんです。そこには俳優を目指している人や、映画監督を目指している人たちが結構いて。
KIQ:へー!
籔下:なので、誰かが自主映画を作るとなると、エキストラで出たり、みんなで手伝っていました。そこで「映画ってこうやって作るんだ!」と興味を持ち始めて。あと当時、ちょうどカメラに動画機能が付き始めた頃で、僕がカメラを持っていると「撮ってよ!」と言われて、動画を回してみたりするうちに「監督ってこんな感じなのか、これなら自分でもできるかもしれない!」と思うようになり(笑)、NCWに通い始めたんです。
KIQ:そういった経緯だったのですね。バイト先のみんなで映画作りを手伝うってすごく素敵ですね!ちなみに、そもそも大学ではなぜカメラを始めようと思ったのですか。
籔下:元々ずっと野球をやっていたので、スポーツ雑誌の「Number」とかを読むのが好きだったんです。それで、スポーツに関する文章を書けたらなと思って文学部に入ったのですが、記事を書くなら写真も撮れた方がいいかなと思い、写真部に入ったのがきっかけです。
KIQ:写真のどんなところに惹かれたのですか。
籔下:カメラを通じて普段会えない人に会えることでしょうか。普段はどちらかというとインドア派なのですが、カメラがあると外に出かける理由にもなるし、「写真を撮らせてもらえますか」と人に話しかけるきっかけにもなるんですよね。そんな風に普段会えない人に会えたりするので、次第に「カメラっていいな」と思うようになりました。
制作部の葛藤を映画に!?
これまで多くの作品を手がけてきた籔下さん。アイディアはどこから生まれるのか、制作部との興味深いエピソードについても教えてもらった!
KIQ:籔下さんが監督・脚本・撮影・編集まで務められた短編作品『わたしはアーティスト』は、2015年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭・短編部門でグランプリ獲得、ぴあフィルムフェスティバルにて審査員特別賞など多くの賞を受賞されていますよね!この作品はNCWの時に作られた作品ですか?
籔下:はい、卒業制作で作りました。
KIQ:卒業制作でこんなに多くの賞を!? すごいですね!脚本を書く際には、アイディアはどんなところから生まれるのですか。
籔下:昔、映画を作っている先輩から「嫌いな人って自分に似ている部分があるから、嫌いな人を描いてみたらいいよ」と言われたことがあって。それ以来、映画ではつい理想的なキャラクターを作りがちですが、嫌いだけど気になる人を描くことが、脚本を書くきっかけになることが多いですね。あと、僕は写真から入っているので「こんな画を撮りたい」というところからアイディアが浮かぶこともあります。
KIQ:画から物語を作りあげることもあるのですね、すごい!
籔下:映像のディレクターの仕事は、こういう画を撮りたいなとか、こんな人を出してみたいなといったところから始まることが多いように思います。ちょっと遊びの感覚に近いというか。過去には、映画の撮影現場で仲良くなった制作部の方から聞いた話を元に、制作部をテーマにした短編映画を作ったこともあります(笑)
KIQ:それはどんなエピソードだったんですか?気になります!
籔下:ある制作部の人が、撮影のために車止めをしていた時に、杖をついたおばあちゃんがやって来て「家がそこだ」と言われたけど、撮影があるので遠回りをさせなくてはいけなかったと。それで、杖をついて去っていくおばあちゃんの後ろ姿を見た時に「俺はこの仕事をやっていていいんだろうか。この仕事はおばあちゃんを遠回りさせるほどの仕事なんだろうか…」とすごく葛藤したと言っていて。そのピュアさがすごく素敵だなと思って、映画にしたいと思ったんです。制作部って、現場で一番早く来て準備し、最後に帰る、いわば縁の下の力持ちなんですよね。そういうところもすごく魅力的だなと思いました。
KIQ:なるほど、制作部の方にはそんな葛藤があったのですね…!確かに、制作部さんって表には出ないけど、なくてはならない存在ですよね。
籔下:そのシナリオを文化庁委託事業の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」というのに応募したら選出されたので、助成金をいただいて伊藤沙莉さん主演で『戦場へ、インターン』という短編を作りました。制作部の女の子がちょっと頑張るという話です(笑)
KIQ:そういった文化庁が行う若手を応援するプロジェクトがあるのですね。いまのお話を聞いて、すごく観たくなりました!
籔下:Netflixで配信されているので、ぜひ(笑) 映画の撮影現場ってそういったネタや面白いエピソードが結構あるんですよ(笑)
KIQ:ほかにも映画スチールの現場で、思い出に残っている作品やエピソードがあったらぜひ教えてください。
籔下:佐向大監督の『教誨師』という大杉漣さんの最後の主演映画となった作品があるのですが、ほぼリハーサルなしで撮影が進んだんです…!スチールって、基本的にはリハーサルでたくさん撮って、本番は俳優さんや技術部さんの邪魔にならないようにチャンスがあれば少し撮らせてもらう程度なのですが、リハーサルがないとなると本番中に一発勝負で撮らなくてはいけなくて…。
KIQ:スチールってリハーサルで撮ることが多いのですね。初めて知りました。
籔下:そうなんです。そのうえ、スチールカメラマンは基本的に俳優さんの目線に入らないようにしないといけないのですが、この作品はシチュエーション的に密室空間で、かつ2人が対面で座って話しているという状況だったので、どうしても視界に入らざるを得なくて…。でも、どうにか撮るしかないので、毎日緊張感がすごかったです…!それがとても印象に残っています。
KIQ:それは大変ですね…。静かなシチュエーションだとシャッター音とかも響いてしまいそうですね。
籔下:昔はカメラのシャッター音が結構響いたのですが、今のカメラはほとんど無音で撮れるんですよ。音が鳴る時代は、俳優さんって本番が始まるまでの待っている間にすごく良い表情をされている場合も多いので、ついそれを撮ってしまい、目が合ってドキっとした経験が何度かあります…(笑)
KIQ:今は無音でこっそり撮れる分、やりやすくなったんですね(笑)
籔下:そうですね(笑)あと、この間Netflixの『シティーハンター』のポスター用の撮影をした時に、実際のセットの中で撮る時間をもらうことができたのですが、それはすごく楽しかったです!主演の鈴木亮平さんも「こういうポーズで撮りたい」など、アイディアをたくさん出してくださって。やっぱりスタジオでグリーンバックで撮るのと、現場で撮れるのとでは全然撮れるものが違うし、出てくるアイディアも違って、改めて現場で撮るのって良いなと思いました。
KIQ:『シティーハンター』のポスターはそうやって撮影されていたんですね!
後編では、スチールカメラマンとして、事前に作品の情報を知っていることで撮れる写真の違いや、その重要性について聞いてみた。
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