業界人インタビュー

【ENDROLL】「音に正解はない」アオイスタジオ株式会社 二宮沙矢花さん ~前編~NEW

2024-09-13更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

今回は、映画・TVアニメ・CMなどの録音全般や、ポストポロダクションのほか、様々なサービスを長年に渡り提供するアオイスタジオ株式会社にて、これまで『SING/シング』シリーズ(吹替版)、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(吹替版)』、『若おかみは小学生!』などを担当してきた、ミキサーの二宮沙矢花さんにインタビュー!

前編では、二宮さんが現在の道を選んだきっかけや、新卒でアオイスタジオに入社してからのキャリアを中心にお届けする。また、ミキサーとはセリフ・音楽・効果音を調整し、バランスよく混ぜ合わせる(ミックスする)仕事であるが、具体的にどのようにバランスを決めるのかや、映画本編と予告編の音の違いなど、意外と知られていないミキサーの作業の裏側に迫ってみた。

『タイタニック』が人生を変えた

子供の頃から映画が好きだったという二宮さんは、名作『タイタニック』を観てから映画に携わる道へ進むことを決意!そこから、アオイスタジオに入社を決めた理由とは?

KIQ:アオイスタジオさんにはどのくらい勤められているのですか?

二宮:専門学校を卒業してから新卒で入社したので、もう20年になります。本当にあっという間ですね。

KIQ:新卒の時から御社に勤められているのですね!ミキサーになる方はそういった専門学校を出られている方が多いのでしょうか。

二宮:比較的多いですが、弊社の社員の中には、大学では全然違うことを学んでいて就職先の一つとして選択して来た人もいれば、全然関係ない仕事から転職して来る人もいるので様々です。専門学校を出ていてもそこまで大きな差はないというか、私も基礎知識は学びつつ、専門的な機械の使い方などは実務を通して少しずつ覚えていきました。

KIQ:入社してから、1からミキサーについて学ばれる方もいらっしゃるのですね。二宮さんがミキサーの道を選ぼれたのはどんなことがきっかけだったのですか。

二宮:一番のきっかけは『タイタニック』です。それまでは、中学校の国語の教師になりたいと思っていたのですが、急遽方向転換をしまして。元々、劇伴やサントラが好きだったのですが『タイタニック』を観た時にストーリーなど全てに感動したのはもちろん、特に音楽に感激して…!それで、映画の音楽に携わる仕事がしたいと強く思うようになりました。

KIQ:そうだったのですね。公開当時の『タイタニック』の人気は本当にすごかったですよね。

二宮:当時はレオ様(レオナルド・ディカプリオ)フィーバーで、私もレオ様と結婚したい!と本気で思っていましたね(笑)「SCREEN」や「ロードショー」といった映画雑誌やグッズを買い漁ったりもしていたのですが、そういった雑誌の後ろの方に、専門学校の広告が載っているページがあったんです。それを見て、ここに行けば映画に関われるのかなと思い、専門学校へ行くことにしました。

KIQ:へー!ちなみに、映画の音楽に携わる仕事がしたいと思った時に、ミキサー以外にはどんな選択肢があるのでしょうか。

二宮:音楽や効果音、あとは現場の録音部からスタートするパターンなどいろいろあります。だけど、私は初めからなんとなくスタジオがいいなと思っていました。というのも、専門学校時代に北野武監督作品のエンドクレジットにアオイスタジオの名前があるのを見て、北野組に携われるのならアオイに入ろう!と思ったんですよね。本当に迷いなくという感じだったので、逆にもっといろいろなことを勉強していたら違う道を選んでいた可能性もあるかもしれないですね。

音のバランスは自分次第

ミキサーは、セリフ・音楽・効果音などの音を聞き取りやすいバランスに調整している。テレビと映画の音のバランスの違いを知ると、やっぱり映画は映画館で観なければ!と思うはず…!

KIQ:普段の作業内容について詳しく教えてください!

二宮:私は映画の本編や予告編、テレビアニメなどジャンル問わず様々な映像作品を担当しています。具体的な作業内容としては、例えば予告編だったら、作業日に素材(データ)を受け取って、仕込みをして、数時間かけて仕上げていくといった感じです。

KIQ:仕込みというのは具体的に何をされているのですか。

二宮:すごく説明が難しいのですが、ざっくりいうと、音には大きくセリフ・音楽・効果音の3種類があるので、それらを整えて聞きやすいバランスに調整する作業です。例えば、盛り上げるべき場所は適宜ボリュームをあげたり、セリフが聞き取りづらかったら聞きとりやすい大きさに調整したりとか。

KIQ:それは専用のソフトか何かで作業するのですか。

二宮:はい、音の編集ソフトやコンソール(調整卓)を使います。

KIQ:「素材」と仰っていた、セリフや効果音などのデータは、登場人物がたくさんいたら、その分だけデータのブロックが増えていくということでしょうか?動画の編集画面でよく見るような。

イメージ↓

二宮:そうです。ダーッとたくさんのデータが並ぶ場合もあります。

KIQ:例えば、90秒の予告編の場合は大体どれくらいかかるのですか。

二宮:作品にもよりますが大体5時間ぐらいでしょうか。映画1本だと数ヶ月かかる場合もあります。

KIQ:数ヶ月…!作業は基本的にはお1人でされるのですか。

二宮:1人で作業することもありますが、基本的にはメインの担当者とアシスタントの2人で行います。一方で、ミキサーは、どれだけ長尺な作品であったとしても、メインの担当者を2人以上設けて分業するということは基本的にはしないんです。

KIQ:それはなぜですか?

二宮:ミキサーの作業は、担当者のセンスや好みによって仕上がりが変わるからです。なので、アシスタントがメインの人の好みを理解していると助かるかもしれません。

KIQ:そうなのですね!では、監督さんによってはミキサーの方を指名される場合もあるのでしょうか。

二宮:指名する監督の方が多いと思います。長年一緒にやってきて、お互いの感性がわかっている人と組むのがやりやすいのではないでしょうか。

KIQ:ちなみに、音のバランスって何か基準みたいなものはあるのですか。

二宮:これは本当に難しくて…。聞く人の感性や好みによるので正解はないんです。なので、自分はこれがいいなと思っていても、監督さんとは意見が違うことももちろんあります。

KIQ:なるほど。では作業する人がベストだと思ったものを信じて仕上げていくしかないのですね。

二宮:そうですね。やっぱり、聞いているスピーカーや環境が違ったりするだけでもすごく変わってしまいますし、そういう意味では、テレビと映画でも仕上がりが大きく変わってくるので、本当に音のバランスって難しいんです。

KIQ:へー!テレビと映画だと、仕上がりはどのように変わってくるのですか?

二宮:映画館の環境だと小さい音でも聞こえるのでレンジを広くとって音を作ることができますが、テレビは生活音などの雑音がある環境で視聴する場合が多いと思うので、小さい音は聞き取りづらくなります。だから、聞き取りやすいように、なるべく全ての音量が均一になるように作ることが多いんです。そういった差があるからこそ、テレビで映画が放送された時にセリフが聞きとりづらいという現象が発生してしまうこともあります。対処法としては、テレビ用に調整し直すしかないんですよね。

KIQ:それはつまり、映画は映画館で観るために作っているのだから、映画館で観てください!!ということですよね!?

二宮:そうだと嬉しいな、と思います!

KIQ:そういう意味では、映画の予告編と本編においてもそれぞれ音の作り方が異なるのですか。

二宮:予告編もテレビ用のバランスに近くて、構成的にも音楽や効果音が派手に鳴っていることが多いので、セリフもそれに負けない音量になります。また、予告編は広告でもあるので、やっぱり印象に残りやすいように大きく、聞きやすくという方向性に仕上げることが多いです。

KIQ:確かに、言われてみればそうですね!すごく勉強になります。

 

後半でも、聞けば聞くほど奥深いミキサーの仕事についてさらに深掘り!また、最近、二宮さんがミックスに感動した作品や、日常生活のなかで無意識に音を溜めている(!?)ことについても聞いてみた!

 

 

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