業界人インタビュー

【ENDROLL】「音の記憶を溜める」アオイスタジオ株式会社 二宮沙矢花さん ~後編~NEW

2024-09-20更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。

 

今回も前回に引き続き、映画・TVアニメ・CMなどの録音全般や、ポストポロダクションのほか、様々なサービスを長年に渡り提供するアオイスタジオ株式会社にて、これまで『SING/シング』シリーズ(吹替版)、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(吹替版)』、『若おかみは小学生!』などを担当してきた、ミキサーの二宮沙矢花さんにインタビュー!

後編では、PLF(プレミアムラージフォーマット)で上映する場合には作業が変わるのか?など、さらにミキサーの作業について詳しく聞いてみた。さらに、二宮さんがミキサーであるが故に日頃から無意識に行っていることや、やりがいを感じる瞬間についても教えてもらった。

 

【ENDROLL】「音に正解はない」アオイスタジオ株式会社 二宮沙矢花さん ~前編~

 

録ったセリフは混ぜる!?

映画館で映画を観ることが趣味だという二宮さんが、最近音に感動した作品を教えてもらった。また、撮影時にガンマイクとピンマイクで録ったセリフは、なんと混ぜて使うらしいです…!

KIQ:普段、息抜きにはどんなことをされているのですか。

二宮:私は映画館に行くことが多いです。映画を見ている間は日常から離れられるので、意外と頭のリフレッシュになるんです。

KIQ:映画を観る時に思わず音が気になってしまうことはないですか。

二宮:気になる時もあります。すごくいいな!と思った時にはクレジットをくまなくチェックして「あ、やっぱり担当はこの方だったんだ!」と思ったり。

KIQ:へー!〇〇さんっぽい仕上げだな、みたいなことがやっぱり同業者だとわかるものなのですね。最近、音がすごくいいなと思った作品があればぜひ教えてください。

二宮:最近良いなと思ったのは『コーダ あいのうた』です。セリフや効果音、バランスも含めて本当に好きでした。岩場で主人公の女の子が1人で歌っているシーンがあるのですが、そこのリバーブ(音に残響を加えて空間感や臨場感を演出する効果)を聞いたときはすごく興奮しました!

KIQ:今度音に注目して、映画を見直してみます!

二宮:ぜひ!普段映画を観ていて、このセリフの音がいいなと思ったりすることってないですよね…?

KIQ:すみません、セリフの音をそこまで意識したことはないかもしれないです…。

二宮:いや、全然それでいいんです。違和感がないということは、ある意味でそのミックスは成功なんだと思います。とはいえ、我ながらうまくいったかなと思った時に、同業者の方から「あの作品、すごくよかったよ!」と言っていただけると、嬉しかったりはします(笑)

KIQ:ほとんどの方は、録ったセリフは調整せずにそのまま使っていると思っているかもしれないですね。

二宮:そうですよね、でもそんなことはないんです。(笑)実写の場合は屋外での撮影ももちろん多いので、そうするとどうしても飛行機の音や鳥の鳴き声、サイレンの音とか何かしらの雑音が入るのは避けられないんですよね。なので、それを必死に細々と削ることも私たちの仕事です…!

KIQ:それを2時間分、めちゃくちゃ耳を凝らしながらひたすら聞いて、消して…という作業をされていることを想像すると本当に果てしないですね…!となると、二宮さんにとっては受け取った素材が、しっかりとセリフが録れているかどうかが作業量を左右するというか、特に重要なのでしょうか。

二宮:そうですね。私は現場には行かないので詳しくありませんが、とはいえ、現場の録音部の方もピンマイクを付ける場所や、ガンマイクの当て方など調整してくださったうえでの結果なので、頂いた素材で全力を尽くすのみです。

KIQ:すごく素朴な疑問で恐縮ですが…、あれってガンマイクを当てている時でも、俳優さんはピンマイクも必ず付けているのですか?

二宮:どうしても付けられない衣装や服を着ていない場合を除いては、基本的には付けていると思います。

KIQ:へー!どちらかだけだと思っていました。では、二宮さんはガンマイクとピンマイクのそれぞれの音声を聞いて、良い方を採用しているのですか。

二宮:基本的には2つの音声を混ぜて使うことが多いですね。状態によっては片方だけ使うこともありますが、混ぜると全然音が違うんですよ!

KIQ:え、混ぜるんですか?!その発想はなかったです…!

音の記憶を溜める

様々な音を知っていないと作業ができないミキサー。そのために、二宮さんが日常の中で無意識に行なっていることとは?

KIQ:IMAXやDolby AtmosなどのPLF(プレミアムラージフォーマット)で上映される作品の場合は、PLF用に何か特別な編集をした音のデータを別途作成するのですか。

二宮:はい、そうです。

KIQ:例えば、Dolby Atmosの場合はどのような作業をされるのですか?全体的に音量を上げる、とか…?

二宮:Dolby Atmosの場合は音量というよりは、音がどこから出るのかという音の位置を調整します。そもそもDolby Atmosって音を三次元的に配置して、より臨場感と没入感を楽しむことができるという技術なので、たとえば飛行機が後ろの方に飛んで行ったら、音も前から頭上を通って後ろに移動するなどの調整をします。セリフも同じです。映像と自分の感覚を頼りにそういった作業をしていきます。

KIQ:なるほど!

二宮:ホラー映画の予告編などでも後ろから声が聞こえることがありますが、あれも音の位置を調整しているんです。

KIQ:“音の位置”というのがあるのですね。ちなみに、ミキサーの方って街中を歩いている時など、音に敏感になったりするものなのですか。

二宮:いや、全然そんなことはないです!(笑)でも電車に乗っている時に車内アナウンスの音が割れているのを聞いたりすると、こういう音の加工もあるなと思ったりします。そう考えると、日頃から無意識に音に関する情報収集をしているかもしれません。そもそもどういう音にしたいのかをイメージできないと、作業ができないので。だから、トンネルの中の声の響きはどんな感じだったかな?とか、スタジアムの響きは?とか、無意識に音のイメージを溜めているように思います。

KIQ:へー!どうしてもわからない時はどうするんですか。

二宮:小さい規模なら実際にスタジオ内に同じような環境を作って、その音を鳴らしてみるとか。あと最近は、求めているのと同じ環境のエフェクトができるような音の編集ソフトもあったりします。

KIQ:お話を聞いていると、音ってすごく奥深くて面白いですね!

二宮:そうなんです。この仕事は楽しいんです!

KIQ:特に、ミキサーの面白さを感じる部分ややりがいを感じる瞬間は?

二宮:作業している時は、本当に終わるのかな?と果てしない気持ちになることもありますが(笑)、作業が終わって完成した映画を観ると嬉しいなと思います。公開される度に喜びがあるという点で、楽しく続けられているのだと思います。あとは、やっぱり私はすごく映画が好きなので!

KIQ:なるほど。最後に、今後の目標や展望について教えてください。

二宮:変わらず誠実に仕事をすることです。あとは、私は基本的には撮影現場に行かないので、実写映画に関しては現状メインでミキサーを担当することは少ないのですが、今後は現場に行かずとも、メインを任せていただける機会を増やせていけたらなと思います。

KIQ:憧れのミキサーの方などはいらっしゃいますか?

二宮:憧れとは少し違うかもしれませんが、入社時からずっとお世話になっている久連石由文さんでしょうか。最近だと、ダイアログエディターとして映画ゴールデンカムイ』を一緒にやらせてもらいました。10/6(日)からスタートする「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」では私もメインを担当させていただいているので、ぜひご覧ください!

KIQ:ドラマ楽しみです!音に注目しながら見ます!

 

【ENDROLL】「音に正解はない」アオイスタジオ株式会社 二宮沙矢花さん ~前編~

 

 

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