業界人インタビュー

【ENDROLL】「海外へ、アニメを届ける。」アニメプロデューサー寺西史さん ~後編~

2025-03-21更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

今回は、松竹株式会社でアニメプロデューサーを務める寺西史さんにインタビュー!

後編では、寺西さんが今のアニメ業界に感じる課題や新しい波、海外セールスへの思いなどについて詳しく聞いてみた。

配信時代によって訪れた変化

KIQ前編でパッケージから配信にフォーマットが変わったとお話されましたが、それによって具体的に訪れた変化ってどんな部分にあるのでしょう?

寺西作品の本数がめちゃくちゃ増えましたね。今は1クール80〜90本という、ものすごい数の作品が作られていると感じます。それだけ需要があると言えばそうかもしれませんが、結局そうなってくると消費スピードがめちゃくちゃ早いってことになるんです。

するとスタジオさんは作品をたくさん抱えることになって、何年も先までスケジュールが埋まってしまう。そういう需要と供給のバランスが作品数の多さによってアンバランスになってきていると感じる部分もありますね。配信によって出口が増えてビジネスが広がっているわけではありますが……。弊社も昔はアニメの部署を10人くらいでやっていたのが今は40人くらいでやっているし、各社さんアニメビジネスを拡充していることもあって、ちょっとレッドオーシャン化しているかもしれません。

KIQ: 人手不足やスタジオの労働環境も、視聴者側に透けてくる時代になりましたよね。

寺西一部の人がアニメ好きだった時代から、アニメがどんどん一般化して、いろんな趣味の中の一つにアニメがあるようになりましたよね。昔はアニメを観る人、実写を観る人ってパッキリ別れていたのが全然シームレスになって、だからその分消費スピードもすごく早まって作品が増えて、でも供給が追いつかなくて……。制作しているスタッフ自体は増えているわけでもなく、やはりそれぞれ大変な作業をしながらワンクール作品を納品して作ってくださっています。業界全体が輸出ビジネスとして今、成熟期を迎えている感じの割に環境は変わっていない。

KIQ: 環境のお話になりましたが、業界に対して抱く不満などはありますか?

寺西アニメ業界でいうと、やっぱりもう少し正常な時間に動くと良いなって思います。基本的に昼夜逆転しているので、お昼過ぎ1時か2時くらいに会社に入ってそこから1日が始まるんです。やっぱり夜じゃないとエンジンかからないって人もいるし、それもわかるんですけどね。少しずつ補正していっても良いなと思います。あとは人手不足などの問題も解決していきたいですね。

KIQ: スケジュール調整も大変ですね。

寺西深夜にV編(ビデオ編集)があることもありますね。

KIQ: 小さいお子さんがいる中で大変ですね……。

寺西なんとかやっています(笑)でもV編自体は週に一回なので、そこは家庭内で調整しています。電車で帰れない時間はタクシーで帰っていますね。

KIQ: アニメ制作の現場を描いた『ハケンアニメ』って作品がありましたが、実際あれってどれくらいリアルなのでしょう?(笑)

寺西まさにああいう感じです(笑)でもスタジオはあの三倍くらい酷い感じ。「『SHIROBAKO』(アニメ業界を描いたアニメ)はファンタジーだ」ってよく言われています。やっていることはリアルなんですけどね。ただ、割とみなさん、納品に追われるのが好きなのかな、と(笑)。「毎週深夜だよ」みたいなことをちょっと嬉しそうに言っていて。その気持ちもわかります。アニメ制作をする人たちは物作りに対してピュアで、制作作業は、大変は大変なんですけど作品に対するそのピュアさに、救われるところはあります。

KIQ: ちなみに、現場は若い人が多いんですか?

寺西断然若いです。今の現場では、私が今一番年上ですね。アニメーションプロデューサーは20代の方とかもいます。

KIQ: その若い人たちって年齢を重ねた時どこに流れていってしまうんでしょう?

寺西辞めちゃう人もいますし、独立する方が多いです。夢があっていいですよね。

“役者”であるスタジオと見つめる水平線

KIQ: 元々は実写志望で、キャリアの中でも実写の宣伝など様々な経験をされていますが、実写とアニメの現場で感じる相違点はなんでしょう。

寺西それでいうと、私は、スタジオが“役者”みたいだなって感じるんですよ。実写における事務所とか役者がその立ち位置で。要はどうしてこの作品を観ますか?って時に「このスタジオが好きだから」「このスタッフがやっている作品だから」って声が少なくないんですよね。「この作品をこのスタジオがやる」ことにいま付加価値がついてきている感じがするんです。

KIQ: 確かに、新作発表の時に真っ先にどこのスタジオがやるのか気になります。

寺西そうなんですよ。だからどのスタジオさんとどの作品をやるかってところは一番考えなければいけないですね。アニメ化に際して「どのスタジオさんがやってくれるか」「どこが合いそうか」って考えることも、実写映画におけるキャスティングに近い感覚です。主演によって作品のカラーがだいぶ変わるので。

KIQ: そういう時の決め手ってどんなところにあるんですか?

寺西私たちは「このスタジオとやりたいんだけど」って思っても「2030年までいっぱいです!」って言われちゃうこともあって、スタジオさんに選んでもらう立場ですね。でもやっぱり最終的には、“人”ですね。「この人と一緒にやりたい」ってことでしかないと思うんですけど、なかなかスタジオさんが忙しいので、そこが一番大変です。やりたくてもスタジオがいないっていう。みんな映画を作る時に「主演、菅田将暉さんでやりたいね」ってところから始まるのと同じで、スタジオさんも名前が強いと海外のセールスにも期待できる点で付加価値がつく、ってこともあります。

KIQ: 海外セールスに意識が向くようになったきっかけは何ですか?

寺西去年LAに出張して、「アニメ・エキスポ」というイベントに参加して度肝を抜かれたことがきっかけですかね。日本のアニメファンと海外のアニメファンがあまりにも違うってわかったんです。「アニメ・エキスポ」を日本のファンにも見せたいって思うくらい衝撃でしたし、楽しかったです。とにかく向こうは作り手に対するリスペクトがすごくて、スタジオの人たちのやるパネルディスカッションは5000人規模ですぐ埋まっちゃうし、完全にロックスターみたいな人気ぶりです。やっぱり国内ビジネスが縮小している今、作品を作っている人たちは誰に向かって作っているのか、「海外で売れている」と言っても顔が見えないので想像が難しかった。だから顔が見えることでモチベーションも高まるんですよね。

KIQ: 多くの刺激も受けたようですが、そんな寺西さんが今後考えていきたいこと・やっていきたいことを教えてください。

寺西割とここ20年くらい「作る」ことをやってきたので、「作る」の先の「届ける」ってこともやってみたいなと思います。顔の見える人たちに届けたいというか‥‥それこそ別に日本国内だけじゃなくて、海外に広げる、届けるってことに興味が出てきました。もっと海外との協業とかいろんな矢印がいろんな方向に行くといいなって思っています。

【ENDROLL】「アニメとともに、旅をする。」アニメプロデューサー寺西史さん ~前編~

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