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ファッションのプロが語る「負けることは人生だ。『ケイコ 目を澄ませて』と『百円の恋』」

2023-03-22更新

死ぬまでに一度、誰かと殴り合ってみたい。

それは“喧嘩”ではなく“試合”でありたい。

『ケイコ 目を澄ませて』で主演を務めた岸井ゆきのさんが第46回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した。

本作を12月末にテアトル新宿で鑑賞した帰り道、ふとデジャヴのような感覚に襲われて、というのも9年前に同じ時期同じ場所で同じボクシングを題材にした『百円の恋』を観たからだった。

『百円の恋』

そして『百円の恋』で主演を務めた安藤サクラさんも、第39回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞している。自分が年末にテアトル新宿でボクシングを題材にした映画を観ると、日本アカデミー賞で賞を受賞するというジンクスが成立しつつあるのではないかと思ったが、そんなわけがないし、もう2度と自惚れた発言は控えるので石を投げないでください。

そしてこの映画の共通項はもう1つあって、それは「負ける」ということだ。

それは単純に試合や勝負の結果に限らず、だ。特に私なんかは日々経験しているのだが、あらゆる場面で負け続けて生きてきた。幼稚園生の時の劇の天使役も、小学生の時のかけっこも、中学生の時の副団長(応援団)の立候補も、学生時代の就職活動も、それは運でもあるし能力の問題でもあるのだが、何かで勝てた、という記憶が皆無なのだ。

ここまで読むとさぞ自己肯定感が低いのだろう、という残念な人間感がすごいので言わせていただくが、負けることは悪いことじゃないと自負している。(ここでも負けている)

それは冒頭上げた2作品を観ていただければ痛いほど伝わると思う。

『ケイコ 目を澄ませて』

勝ってこそ手に入れられる感情も必ずあるのだが(あるのだろうが)、負けてこそ手に入れられる感情もある、それもものすごくたくさんあると思っている。いつか”勝つ“その時のために、私はこれからも負け続け、時には泣いて時には怒り、時にはお酒を飲み過ぎて、きっとまた財布を失くすのだろう。

負けることは人生だ。

そんな人生を愛して、いつかボクシングをした時に初めて“勝ち”の感情を味わえればいいな。

 

映画ファッションマニア つみき

 

 

『ケイコ 目を澄ませて』(2022)
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、三浦友和 ほか

『百円の恋』(2014)
監督:武正晴
出演:安藤サクラ、新井浩文 ほか

 

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(C)2014 東映ビデオ
(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS

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