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【ジジイの時事エンタメ斬り!vol.26】 暗号と天才
誰しも「天才」には憧れるものです。
「この子は天才だ!モーツァルトになれるかも」「俺は藤井聡太みたいに将棋プロ目指そう!」なんて、うまくいくかどうかわかりませんが、天才というのは一方、その才能が災いしてか極端な人生を歩むことも珍しくはない。才能も良し悪し、私なんかは負け惜しみも含めて適度にバカでちょうどよかったと思ってます。
ですが、世の中にも「天才」への希求は常にある、大谷翔平なんか見てると、皆が求める形に創り上げていると言ってもいい。
天才がその才能を存分に発揮できる分野として暗号解読があります。暗号も数学的なものから古代の呪文みたいのまでいろいろあります。
第二次世界大戦中、ドイツ潜水艦から自国の船を守るため「エニグマ」というコンピュータの元祖みたいのを作って暗号解読した英国の天才アラン・チューリングや、歴代の超天才たちの挑戦を退け300年間解かれないままになっていた数学界最大の難問「フェルマーの最終定理」を20世紀の最後に見事解いたアンドリュー・ワイルズは震えるほどの天才だったのでしょう。
古代言語もまた、天才の領域です。
ヒエログリフと呼ばれるハンコ絵みたいな古代エジプト文字は長年なんのことやら解らなかったのですが、18世紀末のナポレオン軍によるロゼッタストーンの発見を契機として、フランスのシャンポリオンという10か国語以上を操る若き語学の天才の登場により解かれ、古代ローマ時代の時点で解読不可能と言われたヒエログリフは2,000年ぶりに解読され、古代エジプト研究はその後一気に進みました。
天才は一人の力で状況を一変させるという意味でドラマチックなんですね。
実は日本にもそういう大天才がいました。
「古事記」を解読した本居宣長(もとおりのりなが)さんです。
皆さんご存じないと思いますが、日本という国のはじまりを記した書物として「日本書紀」は漢文なので読めるのですが、それより前の「古事記」は全く読めません。日本語が文字となる前の書物なので、変体漢文といって日本語の音に(意味関係なく)漢字を合わせているだけなのです。
例えば、「見る人」ならば「美留比等(みるひと)」、「知らず」なら「之良受(しらず)」といった具合で、80年代の不良が使っていた「夜露死苦(よろしく)」と基本一緒の構造です。
なぜ「古事記」が、その後仮名などに変換されなかったのか謎ですが、つまり「古事記」は1000年ほどの間、意味が解らない書物になっていたのです。
これを江戸中期の医者であった、“プロ素人”宣長さんが、和歌集である「万葉集」の研究を糸口として、1文字1文字、音と意味を紐解いていきます。これはアテ推量や仮説ではなく「この文字はこうだ」と他の文献や史実に照らして証明していく作業で、全て解読するのに37年かかったそうです。この到底理解できない異常な集中力も天才の特徴です。
そして、宣長さんが他の国の天才たちと違うのは、ストーリーや言葉の表層的な意味を掴むだけではなく、
古代の人間の感情や信念を発見したことですね。
実は、日本人は長らく中国の儒学を支配層の学問であり価値基準としてきました。江戸時代も家康の命により「朱子学(儒教の一種)」が最も学ぶべき教養となっていたのです。
そんな中、千年前の国のありようだけでなく、中国文明が入る前の日本人の根本的な価値基準や気持ち(やまとごころと言ってますが…)を表現する書物を宣長さんは世に出した。
「古事記伝」は大きな反響を呼んだ。世の知識人たちは読むとにわかに立ち上がる“日本の原風景”に目が覚めたと言ってもいいでしょう。それほどのショックがあった。日本におけるルネッサンスですね。
この天才は、暗号を解読して「日本」を発見したわけです。
宣長さんが、日本人が最も重要視する感情としてあげているものが「もののあはれ」でした。私もよくわかりませんが、つまりモノにはいつか終わりが来る、はかなさということでしょうか?仏教の無常とは若干違う、四季が様々な表情をみせる、日本人ならだれでもグッときちゃう、心に突き刺さる感情らしいです。
2024年、共感シアターも「もののあはれ」でさらに多くの人の共感を得られるでしょうか?はかないと言われても困りますかね。実は、宣長さんは「もののあはれ」が最も表現された作品として「源氏物語」をあげてますね。遅ればせながら、放映中の大河ドラマでも見て勉強してみたいと思います。
P.S.
もはや天才の話でもなんでもないですが、それにしてもびっくりするのは、言葉としての日本語が恐ろしく昔から現代に至るまでほぼ一緒ということですよね。これも「古事記」を解明することで、宣長さんが明らかにしてくれたわけですが、王朝交代が一回もない、他国による侵略が一度もない、世界的に珍しい、日本ならではの奇景なのだと思います。
たんす屋(共感シアタースタッフ)
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