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ガン・アクションウォッチャーが語る「撃つ!殴る!魅せる!バレリーナへ続くガン・アクション映画進化の系譜!」NEW

2025-08-14更新

『ジョン・ウィック』シリーズのスピンオフ作品『バレリーナ:The World of John Wick』が、いよいよ8月22日(金)から日本公開となる。

主人公は復讐に燃える暗殺者イヴ・マカロ。舞台は『ジョン・ウィック:チャプター3』と『チャプター4』のあいだ。コンチネンタル・ホテルのウィンストンやシャロン、ルスカ・ロマのディレクターなど、シリーズでおなじみのキャラクターたちが再登場し、ユニバースの世界観を引き継ぎながらも、まったく新しい物語が動き出す。

本作のアクションは、『ジョン・ウィック』を継ぐものとして、実に正統。銃、ナイフ、格闘、そして周囲に落ちているあらゆるもの──使えるものは何でも武器にして、敵を制圧していく。派手な舞いや様式美に頼らず、現場での即応力と殺意で押し切るタイプ。

演じるのはアナ・デ・アルマス。立っているだけで美しい人が、本気で殺りにくる。そのギャップが、とにかく効いている。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で見せた、ドレス姿での華麗なアクションも鮮烈だったが、今回はそこからさらに一段進化。より重く、より鋭く、より冷徹に。ときに痛々しくすらあるその動きに、ただの“見た目”以上の説得力が宿っている。

ただ、この映画の特異性はそこだけじゃない。もっと大きく見れば、『バレリーナ』はアクション映画が積み重ねてきた「撃ち方の歴史」の、ひとつの現在地でもあるのだ。

“撃つ”映画のはじまり──マカロニ・ウエスタンから70年代リアリズムへ

アクション映画の美学は、マカロニ・ウエスタンに始まる。セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』(1964年)や『続・夕陽のガンマン』(1966年)では、撃ち合いそのものよりも、“撃つまでの間”が重要だった。張りつめた空気を一発の銃声が破る。その静と動のコントラストが、銃撃をただの暴力ではなく、儀式に変えた。

70年代に入ると、“悪を倒す暴力”にリアリズムが加わる。『ダーティハリー』(1971年)や『狼よさらば』(1974年)では、正義と暴力が地続きになり、社会への怒りや無力感がスクリーンを通じて放たれた。観客は「撃つ理由」に重さを求めるようになった。

“ワンショット・ワンキル”から“撃ちまくり”へ──80年代の火薬と筋肉/90年代の様式と叙情

80年代は火薬と筋肉の時代。『コマンドー』(1985年)、『ランボー/怒りの脱出』(1985年)、『ダイ・ハード』(1988年)など、それぞれ異なるタイプの“戦う男”が登場し、爆破と銃撃でスクリーンを埋め尽くした。観客はとにかく“派手さ”を楽しみに劇場へ向かった。

しかし、そんな時代に逆行するように、“撃ち方のカッコよさ”に全振りした映画が香港からやってくる。ジョン・ウーの『男たちの挽歌』(1986年)や『ハード・ボイルド』(1992年)だ。二丁拳銃、スローモーション、白い鳩──そこにあるのは美意識であり、詩情だった。ウーの様式は、サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』(1969年)に通じるものがあり、スローモーションを用いた暴力描写にはその影響が感じられる。暴力の瞬間をスローモーションで切り取るやり方が、撃つ行為に「見とれる時間」を与えた。

その美学はアメリカにも伝播し、『フェイス/オフ』(1997年)を経て『マトリックス』(1999年)では「バレットタイム」としてテクノロジーと融合。撃つことそのものが、物語を超えた価値を持ちはじめた。

戦術と身体の融合──2000年代以降の再構築

2000年代に入ると、撃ち方の美学は“戦術”と結びつくようになる。かつては腰の高さで片手撃ちだったものが、しっかり両手で銃を構えて照準を合わせるスタイルへと変化していった。『ヒート』(1995年)で描かれた市街戦はその先駆けで、『ボーン・アイデンティティー』(2002年)では、銃撃、格闘、動線の確保までがひと続きになった。撃つ、かわす、隠れる、反撃する──それをリアルに、しかも魅せるために、撮影もハンディや長回しを取り入れていく。

同じ時代に、『リベリオン』(2002年)の“ガン=カタ”や『ウォンテッド』(2008年)のカーブ弾のように、撃ち方を極端に様式化した異端作も登場。リアルと様式、その両極が同時に育っていった時代でもあった。

『ジョン・ウィック』、そして『バレリーナ』へ

2014年、『ジョン・ウィック』が公開される。主演はキアヌ・リーヴス。監督はスタント出身のチャド・スタエルスキ。ウィックが見せた“撃ち方”は、ジョン・ウーの美学、ボーンの合理性、マカロニの構え、それらすべてを吸収して洗練されたスタイルだった。銃撃と格闘を組み合わせた近接戦闘、ガン・フーと呼ばれる連続攻撃、そして精密なヘッドショット──それぞれが緻密に設計され、ひとつながりの流れとして構成されたアクション。以降、“ジョン・ウィック風”は世界中のアクション映画に影響を与える基準になった。

そして2025年。『バレリーナ』は、その直系に位置する作品だ。

イヴの戦闘スタイルは、基本的にはジョン・ウィックと同じく、銃を撃ち、弾が切れればナイフを投げる、それもなければ近接格闘と、その連続とリズムで押していく。ただ、それをアナ・デ・アルマスがやることで、印象はガラリと変わる。動きは速く、反応は鋭く、動作のすべてが機能として成立している。肩の入り方、踏み込みの鋭さ、そして撃ったあとの静止。そこにひとつの“見せ場”がちゃんと生まれている。

アクション映画は、“どう撃つか”“どう見せるか”を突き詰めてきたジャンルだ。その積み重ねの上で、『バレリーナ』はジョン・ウィック譲りのタクティカルな戦闘を、アナ・デ・アルマスという存在を通して、しなやかにアップデートしてみせた。確かな技術と殺意に裏打ちされた動きが、いまのアクションの“美学”を体現している。

『バレリーナ:The World of John Wick』
8月22日(金) 復讐は伝播する

【ストーリー】
孤児を集めて暗殺者とバレリーナを養成するロシア系犯罪組織:ルスカ・ロマ。裏社会に轟く伝説の殺し屋:ジョン・ウィックを生み出した組織で殺しのテクニックを磨いたイヴは、幼い頃に殺された父親の復讐に立ち上がる。しかし、裏社会の掟を破った彼女の前に、あの伝説の殺し屋が現れる…

監督:レン・ワイズマン『ダイ・ハード4.0』 製作:チャド・スタエルスキ『ジョン・ウィック』シリーズ
出演:アナ・デ・アルマス、ノーマン・リーダス、アンジェリカ・ヒューストン、ガブリエル・バーン、キアヌ・リーブス ほか
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
2025/アメリカ/原題:From the World of John Wick: Ballerina
® TM & © 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

公式HP:Ballerina-jwmovie.jp
X:@ballerina_jw
instagram:ballerina_jw

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