プロが見たこの映画
ファッションのプロが語る「会長の色褪せた帽子に思いを馳せる」
クリスマスイブの夜、1人、テアトル新宿で『ケイコ 目を澄ませて』を鑑賞した。
ああーすごく良い映画を観たなあ、という気持ちでイルミネーションを眩しがり人の波をすり抜けながら、へー。やっぱりクリスマスはみんなカップルで過ごすんですね!と負け犬の遠吠えすぎる雄叫びを心の中でかましつつ映画の余韻にビチャビチャに浸っていた。
何にそんなに浸っていたかって、岸井ゆきのさんの表情や語りかけるような瞳、シーンの切り取り方だったり語り出せば止まらないのだが、三浦友和さん演じるボクシングジムの笹木会長がかぶる帽子の色褪せ具合だ。
あの色褪せ具合はちょっとやそっとでは出来上がらない、太陽光を浴び雨に打たれ汗を吸い込んで、でもただ色が褪せていて汚くてボロいとも違う、哀愁を漂わせた、まさにボクサーのようなその帽子に、監督のこだわりを勝手に感じてしまい、この映画をより好きになった。
実は私が鑑賞した日は上映後に三宅唱監督のティーチイン付きで、幾度も帽子について古着で探したんですか?もしかして監督の私物ですか?時間をかけて汚したんですか?と質問するか悩んだのだが、結局手を上げないままティーチインは終了した。シンプルに恥ずかしかった。
その後、「ケイコ目を澄ませて 会長 帽子」でエゴサしてみると三宅監督が影響を受けた作品としてトニー・スコット監督の作品について言及していることもあり、トニー・スコット監督へのオマージュではないかという考察もあるらしい。(あくまで考察なので真実は三宅監督のみが知る。)
この色褪せ哀愁帽子に監督のこだわりを感じたのも、劇中で会長がケイコに色褪せ哀愁帽子を譲るシーンがあったからというのも理由の1つ。これがもし、買ったばかりのピンピンの帽子だったら?Supremeのボックスロゴキャップだったら?全く違うシーンになってしまうだろう。会長の生涯そのものが体現されたような色褪せ哀愁帽子だからこそ、すごく特別で大事なものを譲る、会長とケイコの関係性により深みをもたらしていると感じた。
たかが帽子、されど帽子。
映画に映る全てのものに意味を、そのものに時間の経過を持たせることで、こんなにも味わい深くなるんだとまた1つ映画の面白さを知ってしまった年末だった。
映画ファッションマニア つみき
『ケイコ目を澄ませて』(2022)
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦友和 ほか
ベスト映画宣伝【ポスタービジュアル】編では、『ケイコ目を澄ませて』が「こだわりの詰まったシンプル賞」を獲得!
ビジュアルを手掛けた担当者のコメントも掲載中!!ぜひ、こちらもチェックしてみてください。
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(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS
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