業界人インタビュー
【ENDROLL】「覚悟と愛」広報兼プロデューサー 神戸麻紀さん ~後編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
今回も、前回に引き続き、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』や、昨年映画も公開されたオリジナルアニメ「オッドタクシー」、櫻坂46のミュージックビデオ「Start over!」など、ジャンルを問わず様々な映像作品を制作している株式会社ピクス (P.I.C.S. Co.,Ltd.)にて、広報兼プロデューサーを担っている神戸麻紀さんに伺った内容をお届けする。
後編では、エンタメ愛に溢れる神戸さんが、これから作りたい作品や、業界の未来のために必要だと感じていることについて語ってくれた。
【ENDROLL】「アニメオタクな私。」広報兼プロデューサー 神戸麻紀さん ~前編~
オリジナル作品の魅力を信じてー。
漫画を自らの手で映像化することを望む人は数多くいるという。その理由について、漫画の魅力を深く知る神戸さんが教えてくれた。また、オリジナル作品に対する想いも語ってくれた。
KIQ:漫画がお好きということですが、神戸さんが好きな漫画の映像化を企画することも可能なのですか?
神戸:不可能ではないですが、漫画やライトノベルの原作って今すごく取り合いになっちゃっているんですよね。そこで勝負するのは他にお得意な方がたくさんいらっしゃるかなと思っているので積極的に取り組みたいとは思っていません。ただ、漫画が好きなので人気の原作ものが取り合いになる理由はすごくよくわかります。漫画って、世に出るまでに数々の編集会議で勝ち残って連載を勝ち取り、さらに連載の中でも人気を獲得しているわけですよね。だから、ストーリーの強さがそこに絶対保証されているというのは映像を企画する側としてはすごく魅力があります。映像化することの良い悪いはもちろんあるとは思うんですけど。
KIQ:確かに、そうですね。
神戸:漫画家さんや小説家さん含め0から1を生み出せる人のパワーってすごいなといつも感じています。ご自身の世界観で作られた漫画や小説は唯一無二だとは思いつつ、そのパワーをお借りして、映像にするために作ったオリジナルストーリーの魅力や強さというのもあるはずだと思っています。その中でP.I.C.S.でしか作れないものを作りたいなというのはずっと考えています。0から1が生まれる瞬間に立ち会えるのがオリジナル企画の1番楽しいところですね。世に出すまでには相当時間がかかってしまいますが。
KIQ:それは企画を立ち上げてから実現するまでということですか?
神戸:はい。例えば、「オッドタクシー」は企画が立ち上がってから世に出るまで5、6年はかかっています。
KIQ:そんなにかかるんですか!?
神戸:はい。今年TVアニメとして放送される「ブルバスター」という作品があるんですけど、それも私が入社した時にはすでに企画がスタートしていたので、7年くらいですかね。立ち上げ当時、映像化するためにいろいろなところに持ち込んだら、「原作ものでないと厳しくて…」と断られてしまったそうです。
KIQ:先ほど原作の魅力を仰ってくれましたが、つまり原作がないということは、出資する側としては不安要素になるんですね。
神戸:だったら、もう原作を自分たちで作った方がいいのではないかという話になり「ブルバスター」の世界観をまとめたコンセプトブックを制作してコミティア( 自主制作漫画誌展示即売会 )やコミケ(世界最大の同人誌即売会「コミックマーケット」の通称)で発表したのが「ブルバスター」の始まりです。全然オタクがいない会社に来たと思ったら同人誌即売会の話が出てきてびっくりしました(笑)
KIQ:さすがですね!(笑)
神戸:作り手の思いをコンセプトブックという形にした事でKADOKAWAさんに見つけて頂いて、アニメ化に結びつきました。ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。
必要なのは、覚悟と愛!
作品作りに対してとにかく熱い想いを抱いている神戸さんが、今後の映画業界に期待する事とはー。
KIQ:今後の映画業界について、こうなったらいいなと思うことはありますか。
神戸:制作や企画の話で言えばチャレンジに投資してくれる人がもっと増えたらいいなと思います。我々も出資する立場になることもあるので安心できるものに出資したいという気持ちは痛いほどわかりますが…。やっぱり韓国やハリウッドの作品を観ていると悔しいなと思います。チャンスがあれば、面白いものを作れるのにと思っているクリエイターたちがたくさんいて、恐らく彼らは今限られた予算の中で全力を尽くしていると思うので、今大きな予算をかけて成功しているものだけではなく、少ない予算でも、面白いクリエイティブを作る新しい才能や文化にもっと出資してくれる人がいてくれたらなとすごく思います。
KIQ:国内だけでなく、海外からもそういった方が現れるといいですよね。
神戸:そうですね、「オッドタクシー」は海外でもありがたいことに評価を頂いて、海外のイベントにもご招待いただきました。そこで感じたのは海外のコンベンションだとやっぱり監督やイラストレーターなどクリエイターが一番前に出てくるんですよね。日本国内のイベントって声優や俳優などのキャストさんが注目されがちで、それはもちろん良いと思いますが、もう少し作り手の人の地位を上げていけたらなというのは強く思います。それを海外へ発信していけば、この作り手に投資したい!と思う石油王が出てくるかもしれないし(笑)
KIQ:それはすごく思います。作品がうまくいっても、うまくいかなくてもそれを一番背負うのは監督ですもんね。
神戸:そうなんです、それだけの重圧を背負いながら作品を作り続ける方々の地位は、しっかり上がって欲しいと思います。そして、ビジネス側の私たちも監督の人生を背負っているということをいつも意識しています。なので、監督と同じぐらい作品について喋れるようにならなきゃいけないなって思うんです。監督からしたら図々しいと思われるかもしれないですが、監督と同じぐらいに作品についての愛と解像度を持って、大声で発信できるのが宣伝を経験した私のプロデューサーとしての強みではないかと思っています。
KIQ:お話を聞いていると、神戸さんは結構仕事に打ち込むタイプですか?
神戸:家の台所で炒め物をしている時もずっと作品のことばかり考えてますね(笑)正直子育てをしながらなので物理的にコミットできる時間が少ない分、起きてる時はだいたい担当している作品のことを考えています。そこしか頑張れるところがないので。今は一緒に仕事をしている皆さんも熱量が高い人ばかりなので、すごく恵まれています。熱量が高くない人がいた時にも引っ張っていける力を今後はもっと身に付けていきたいなと思います。
KIQ:これから、こういう作品を作りたいというのはありますか。
神戸:P.I.C.S.では実写もアニメも、両方手がけることができるのが強みなので全てを横断する企画ができたらすごく面白いなと思いますね。配信もライブも全部1個のコンテンツでやる、みたいなものとか。
KIQ:面白そうですね!
神戸:先ほども話にあがりましたが0から企画すると時間がかかるので、残りの人生であと何本関わることができるのだろうかと考えると、一刻も早く、自分が胸を張ってプロデュースしました!と言えるものを世に出したいなと日々思っています。私よりも若くて、才能あるプロデューサーさんはすごくたくさんいるので、自分が負けないものは何だろうかといつも自問自答しています。
【ENDROLL】「アニメオタクな私。」広報兼プロデューサー 神戸麻紀さん ~前編~
【Information】
https://www.pics.tokyo/
「オッドタクシー」新プロジェクト始動。
コミカライズ『RoOT / ルート オブ オッドタクシー』連載中!
小学館「ビッグコミックスペリオールダルパナ」にて隔週金曜日更新
https://bigcomicbros.net/work/77616/
©P.I.C.S.
アニメ「ブルバスター」2023年放送開始!
https://bullbuster.jp/
小説第1巻&第2巻好評発売中!
©P.I.C.S.・KADOKAWA/波止工業動画制作部
【Back number】
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