業界人インタビュー
【ENDROLL】「アニメオタクな私。」広報兼プロデューサー 神戸麻紀さん ~前編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
今回は、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』や、昨年映画も公開されたオリジナルアニメ「オッドタクシー」、櫻坂46のミュージックビデオ「Start over!」など、ジャンルを問わず様々な映像を制作している株式会社ピクス (P.I.C.S. Co.,Ltd.)にて、広報兼プロデューサーを担っている神戸麻紀(かんべまき)さんに話を伺った。
前編では、P.I.C.S.という会社のこと、現在の業務、そして神戸さんが業界へと導かれたバックグラウンドについて語ってくれたことをお届けする。
ジャンルを飛び越えるプロダクション、P.I.C.S.
MV、CM、プロジェクションマッピング、さらに映画やアニメ。ジャンルを問わず映像を制作するP.I.C.S.の成り立ちと特徴は?そして神戸さんが携わるビジネス・プロデューサーの役割とは?
KIQ:現在はどんなことをされているのでしょうか。
神戸:コーポレート広報とプロデューサー業務を兼務しています。4:6=広報:プロデューサーぐらいの割合ですかね。
KIQ:広報ってどんなお仕事なんですか?
神戸:弊社はMV(ミュージックビデオ)やライブ収録、CM、グラフィック、空間デザインなどの制作プロダクションワークがメインです。なので広報としては、P.I.C.S.のプロダクションとしての魅力を発信するのが主な業務になります。
KIQ:ちなみに、例えばMVはどのような流れで制作されるのでしょうか。
神戸:ケースバイケースですが、よくあるのはレコード会社さんやアーティスト事務所さんから、新曲発売に合わせて、こういうMVを作りたいんですというご相談をいただきます。それに対して、監督提案から始まり、企画の擦り合わせをしていきます。予算やスケジュール等、限られた条件の中で、企画の目指しているビジョンを実現させるために、企画、スタッフィング、撮影準備、撮影、仕上げ、全ての工程をまとめて、納品まで行うのが制作プロダクションです。
KIQ:そういった流れで作られているのですね!
御社のようにジャンルを超えて、様々な映像を制作している会社って珍しいですよね。
神戸:そこが弊社の一番の特徴で強みだと思います。弊社は2000年に創業したんですけど、元々はMTV※という音楽チャンネルがルーツなんです。当時はYouTubeもなくて、MTVは海外含めた最先端のMVが見ることのできるチャンネルでした。そこで尖った遊びをしていたクリエイターたちがスピンアウトしてP.I.C.S.が作られたという経緯です。なので、元々は音楽関係に強い制作会社だったのが、プロデューサーそれぞれ興味のあることを何でもやろうと、様々なコンテンツを作るようになっていきました。
KIQ:MTVが起源だったのですね!
神戸:はい。なので、恐らく弊社はMVやCMを制作している会社という印象が強いと思います。「何でもやろう」の中で「オッドタクシー」のようなオリジナルの企画も手掛けるようになったのはここ数年のことですね。なのでそのことをもっと広く知って頂けるように最近「P.I.C.S. ST」というブランドを作りました!STには(STORY / STRATEGY / STOCK / STEM)という4つの意味があって、面白いストーリーを作るところから見る人に届けるプロモーションまで全てを戦略的に手掛けます、という思いが込められています。自社発信の企画・制作はもちろんですが宣伝も自分たちで仕掛けていく事が多くて、会社の広報に加えて作品宣伝をしているうちにプロデューサー業務も兼任していく流れになりました。
KIQ:ではプロデューサー業務は具体的にはどんなことをするのですか。
神戸:一言でプロデューサーといってもいろいろな種類があるかと思いますが、私の場合はビジネスプロデューサーを見習い中という感じですね。0からオリジナルの作品を立ち上げるときに、クリエイターの方を含め、いろんな方達を巻き込んで一緒に同じ目標に進んでいくための旗振り役になります。
KIQ:調整するイメージでしょうか。
神戸:調整というよりかは、活性剤のようなイメージでいたいなと思ってます。
KIQ:なるほど。
神戸:企画を形にして世に出して、拡げていくために育てていく係ですね。具体的には企画を実現するための制作体制を整えたり、アニメも映画も製作委員会方式が多いのでお付き合いのある会社さんに声をかけたり。今はその手前で、多くの方が一緒に作りたくなるような、企画の背骨となるストーリーやメインスタッフを練っている時間が1番長いかもしれないです。
※1981年に開局したアメリカのケーブルチャンネル。24時間ポピュラー音楽のミュージックビデオを流し続ける音楽専門チャンネルとして誕生した。
「週刊少年ジャンプ」が今の私を作った
業界に入ったきっかけについて聞いてみた。すると、神戸さんの原点が見えてきた。
KIQ:現在は入社されてどのくらいなんですか。
神戸:2016年に中途で入社したので、今年で7年目になります。
KIQ:プロデューサーのやりがいってどんなところなのでしょうか。
神戸:P.I.C.S.に入る前までは映画宣伝の仕事をしていたのですが、宣伝は完成された作品を預かって広げていくお仕事じゃないですか。それはそれでとても楽しかったんですけど、今は作品が生まれるところから最後の宣伝まで見守れることにすごく魅力を感じています。
KIQ:以前は宣伝に携わっていたのですね。そもそも業界に入ったきっかけは?
神戸:子供の時から小説や映画などエンタメがすごく好き、特にアニメが大好きでした。なので、一番初めはアニメスタジオに就職しました。
KIQ:そうだったんですね!どのようなきっかけでアニメが好きになったのですか?
神戸:きっかけは漫画ですかね。子供の頃「週刊少年ジャンプ」を毎週読んでいました。当時のジャンプは「NARUTO -ナルト-」や「BLEACH」、「HUNTER×HUNTER」などを連載していたんです。その派生でアニメを見るようになったのが最初です。
KIQ:すごい、黄金期ですね!
神戸:それこそ最初は自分でも何か作りたいと思って、美大の映像学科に進学したんですけど、そこには自分よりもすごい人がいっぱいいたのでちょっとくじけちゃったんですよね…。かといって、大雑把な性格なので事務職はできるわけもないし、少しでも私も作る側にいたい!という気持ちでフラフラしているうちに今の仕事になりました。結果、やりたい事を出来ているので、仕事はずっと楽しいです!
アニメオタクでよかった…!と心底思った
昨今のアニメ映画の人気ぶりは凄まじいが、数年前までは一部の熱狂的なファンが見るものというイメージが強かった。その転換期を肌で感じていたという。
KIQ:神戸さんって『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがっているんだ。』の宣伝を担当されていましたよね?アニメ映画って一部の熱狂的なファン、いわゆるオタクが見るものだからヒットしないよねという当時あったイメージを、そうじゃなくても見るものにした人というか、それをずっと見守ってきた人というイメージがあります。
神戸:私は宣伝の端っこにいただけなので、そんな胸を張って言えることはないですね。ただ、ちょうど業界に入ったタイミングがよかったんだと思います。当時はまだ劇場で今ほどアニメがかかっていなくて、映画宣伝をされている当時の上司、先輩にもアニメを知っている方ってそんなに多くはいなかったんですよね。私は宣伝マンとしては全くの新米でしたけど、アニメの知識ではお役に立つことができました。それだけが自分が輝ける瞬間でしたし、オタクでよかったと心底思いましたね(笑)
KIQ:今ではアニメ映画は一部のファンだけではなく、皆が見るものというイメージが定着していますよね。
神戸:嬉しい反面、「私だけの楽しみが世間に見つかってしまった…。」というめんどくさいオタク心はありますけどね(笑)
KIQ:(笑)
神戸:ただ、確かにアニメの人気は素晴らしいと思いますが、アニメばかり映画館でかけられると、その分他の作品の上映機会が減りますよね。それによって、今、特に若い人が多様なジャンルを劇場で鑑賞する機会が極端に減っているように感じます。アニメがたくさんの人に見られて人気がでるのはもちろん悪くは無いとは思いますけど、実写を見た人たちがアニメを見るとか、その逆の環境があった方がより面白いコンテンツは生まれてきやすいのではないかなとは思います。
KIQ:なるほど。一方で、ホラーや洋画など、一時的に特定のジャンルが流行していたことって過去にもあったかと思うんですが、そういう意味で今たまたまアニメが流行しているという可能性はないですか?
神戸:確かに!それもあるかもしれないですね。ジャンルに関わらずすごく面白い作品はちゃんとバズりますよね、最近だと『RRR』とか。そういった現象を見ていると、世間のムードもトレンドも、全部なぎ倒していくような力がある作品を私も作っていきたいなと思います。
後編(8/10掲載予定)では、漫画の魅力を知る神戸さんだからこそ感じている、オリジナル作品を作ることへの想いや、業界の未来について語ってくれたことをお届けする。
(後編へ続く・・・)
【Information】
https://www.pics.tokyo/
「オッドタクシー」新プロジェクト始動。
コミカライズ『RoOT / ルート オブ オッドタクシー』連載中!
小学館「ビッグコミックスペリオールダルパナ」にて隔週金曜日更新
https://bigcomicbros.net/work/77616/
©P.I.C.S.
アニメ「ブルバスター」2023年放送開始!
https://bullbuster.jp/
小説第1巻&第2巻好評発売中!
©P.I.C.S.・KADOKAWA/波止工業動画制作部
【Back number】
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