業界人インタビュー

【ENDROLL】 「インド映画愛が止まらない。」松竹株式会社 映像戦略室 亀井稜さん ~後編~

2023-05-19更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界の宝である、業界人の人と成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。

前回に引き続き、今回も松竹株式会社 映像本部 映像統括部 映像戰略室の亀井稜(かめいりょう)さんに伺った内容をお届けする。

後編では、亀井さんのインド映画への熱い愛がさく裂! そして、亀井さんが今の映画業界に対して感じていることを率直に語ってもらった。

★【ENDROLL】 「考えるな、感じろ。」松竹株式会社 映像戦略室 亀井稜さん ~前編~

 

インド映画と松竹映画の共通点とは?

亀井さんが松竹に入社することになったきっかけの一つはインド映画だったという。そんなインド映画への並々ならぬ愛を語ってくれた。

KIQ:現在はジョブローテーション中とのことですが、今後行ってみたい部署や、やりたいことはありますか。

亀井:もともと企画志望なので、できるだけ早く企画にいきたいです!(笑)でも、宣伝を経験してからの方が企画を立てるときに宣伝施策も合わせてしっかり考えられると思うため、まずは宣伝に挑戦してみたいです。実は僕、松竹の新卒採用時にインドとの合作映画を作りたいって言っていたんです。

KIQ:どういうことですか⁉

亀井:当時、選考過程でプレゼンがあったんですけど、インド映画との合作をやりたいです!というプレゼンをしたんです。僕はもう本当にインド映画が大好きで…、ちょっとインド映画について語ってもいいですか?

KIQ:ぜひ、お願いします!(笑)

亀井:ありがとうございます!(笑)インド映画の良さって大きく2つあるんですけど、1つは、とにかく家族を大事にすることです。映画それぞれのテーマは異なりつつも、ほとんどの作品が劇中で家族愛に触れ、それが主人公の成長過程に大きく影響を与える特徴があります。もう1つは、男性はたくましく、勇ましく描き、女性はとにかく美しく、だけど決して弱くは描かないところです。

KIQ:そうなんですね、知らなかったです!

亀井:本当に、女性を美しく描こうという意志がめちゃくちゃ伝わってくるんですよ!あれだけ振り切っていることがすごいなと思って。そういうインド映画的な作り方って、古典的だけど普遍的で、誰もが見やすいエンタメに仕上がっていると僕は思っていて。松竹も家族を大事にする作品が多くて、インド映画と類似する部分があるので、いつかインドとの合作映画を企画したいです、ということを伝えたんです。

KIQ:インドとの合作っておもしろそうですね。

亀井:それをいつか実現させるために、今は頑張ってキャリアを積もうと思っています!

KIQ:ちなみに、亀井さんの一番好きなインド映画は?

亀井:一番好きな作品を選ぶのは難しいですが、インド映画好きのきっかけになった『ミルカ』は特に大切な作品です!僕は陸上をやっていたんですけど、『ミルカ』は1960年開催ローマオリンピックの400m走決勝に出場した実在の人物の話で、すごくお勧めです。ちなみに、僕の好きなインド人女優のソーナム・カプールさんも出演されているので、ぜひ注目してみてください!(笑)

KIQ:亀井さんをここまでのインド映画好きにした作品となると、ものすごく気になります!

亀井:あ!そういえば、TIFFの学生応援団に入ったきっかけもインド映画でした。TIFFの募集時に1分間の動画選考があったんですけど、その動画のBGMに『PK』というインド映画のサントラを使用したんです。そうしたら、それをすごいお褒めいただいて(笑)

KIQ:人生の分岐点にはいつもインド映画が登場しますね。

亀井:本当ですね!あと、僕モンゴルを舞台にした映画もすごく大好きで!あ、話が変わって、すみません(笑)

KIQ:(笑)モンゴル映画って観たことないです…。

亀井:なかなか観る機会がないですよね。僕も知ったきっかけはTIFFのラインナップにあったからで、その時に観た『チャクトゥとサルラ』という作品が忘れられなくて。当時はまだ作品に配給が付いていなかったんですけど、その後に配給がついて『大地と白い雲』という邦題になり、それを岩波ホールがなくなってしまう前に上映してくれたんです!(泣)その時、僕はホールの最前列のど真ん中の席に座って観ていたんですけど、もうあの体験が忘れられなくて…!馬が走る姿が、スクリーンでみるとすごくかっこいいんですよ。この間、モンゴル人の馬の調教師を追うドキュメンタリー作品『馬ならし、タイガを駆ける』も見たんですけど、それもめちゃくちゃおもしろくて!インド映画も、モンゴル映画も、本当に最高です!

映画がトレンドを起こす時代を復活させたい

いつか自分で映画を企画したいという亀井さんが、将来作りたい作品と現在の映画業界に潜む課題について熱く語ってくれた。

KIQ:企画志望ということでしたが、インド合作映画も含めて、どんな作品にしたいかなど具体的なイメージをお持ちだったりしますか?

亀井:一番には、映画を観ることで、夢を届けられるような作品、前向きな気持ちになれる作品を作りたいです。先ほどお話ししたボランティア団体の活動を通して、カンボジアなど途上国の田舎に住んでいる子どもたちは、身近にいる教師や医者など、数少ない職業しか知らないんです。映画は、そういう子どもたちに、こんなに世の中って広いんだよとか、こんな職業もあるよってことを伝えることができます。国や環境、映画を届ける年代等、松竹での仕事は色々なことが異なるかもしれませんが、そういう「映画は常に誰かにとっての、明日へつながる扉になっている」ということを忘れないようにしたいと思っています。

KIQ:素敵ですね。

亀井:あと、とにかく楽しめるエンタメ映画も大好きですが、僕はやっぱり映画を観た後に何かを持ち帰りたいんですよね。メッセージ性があり、人の心にじんわりと来る作品も作りたいです。最近だと、『イニシェリン島の精霊』がとても心に残ったのですが、そういう作品ってやっぱりコアな映画ファン以外にはなかなか足を運んでもらえないため、いきなり300館規模で公開するのは難しいのが現状だと思うんです。

KIQ:そうですね…。

亀井:その一方で、『万引き家族』や『ドライブ・マイ・カー』のように海外の映画祭で賞を獲ることで、公開規模が広がっていくという流れもあります。簡単ではないですけど、僕もいつか海外で評価して頂けるようなメッセージ性のある作品を作って、その結果日本でも興行的にヒットすることを目指したいなと思います。

KIQ:すごい、そこまでイメージされているのですね!そんな亀井さんが、今後の日本の映画業界に対して、こうなったらいいなと思うことはありますか。

亀井映画がムーブメントを起こすというか、映画によってトレンドが生まれたらいいなと思います。というのは、80年代とかってまさに映画がトレンドを作っていたと思うんです。でも今は、人気コミックなどが起点となり映画が後者になってしまう、つまり映画が世の中のトレンドを追いかけている気がして…。今は、興行の二極化も問題になっています。興行の底上げにつながらないだけでなく、良作な小規模作品が埋もれてしまいやすいこの状況は、映画界が抱える大きな問題だと感じています。映画の未来のためにも、他社作品含め、一つひとつの作品としっかり向き合っていきたいと思っています。そしてゆくゆくは、オリジナリティ溢れる作品も着実にヒットするような、日本の映画文化醸成に貢献できたら嬉しいです。

KIQ:埋もれてしまっている、小規模でも素晴らしい作品ってたくさんありますよね…。

亀井:あと、時代の移り変わりもあり仕方のないことですが、今はいわゆる “銀幕スター” があまりいないように感じています。わざわざ映画館へ行って大スクリーンで見たいと思わせる、そんなオーラと風格が漂うスターです。白黒映画も好きで観るのですが、昔の映画を観ると、今の映画ではあまり味わうことのできないある種の迫力を感じることが多くあります。もちろん今活躍している俳優さん方も僕はとても大好きで魅力的ですが、昔と違い、今は世の中に映像作品などが溢れすぎてしまって、いつでもどこでもお気に入りの俳優さんを観ることができてしまうことも、銀幕スターが生まれにくい要因になっていると思います。

KIQ:なるほど。

亀井:もちろん、時代の流れには逆らえません…。しかし、映画館で銀幕スターを観るという体験は、すごく特別な感覚だと思うんですよね。だから、映画館でしか観られない体験や感動を提供して、映画館の価値を上げるという意味でも、近い将来銀幕スターが現れたらいいなと願っています。昔のスターって、本当にかっこいいんですよ!

KIQ:わかります!立っているだけで風格があるというか。

亀井:そうなんです!この間『切腹』という映画を観たんですけど、主演の仲代達矢さんの所作の一つひとつが本当にかっこいいんです!オーラがすごいんですよね。実はそれって、歌舞伎をおもしろいと思う感覚と近いことに最近気づいて。歌舞伎俳優も、ただ花道を歩いているだけですごくかっこいいんですよ。あの身にまとうオーラは、幼い頃から芸を学んできた歌舞伎俳優の持つ大きな魅力だと感じています。なので、歌舞伎俳優が映画にも一層出演して、歌舞伎で研鑽してきたその魅力をより多くの方々に広めていくことも、日本の映画界、しいてはエンタメ業界にとって一つの方法として良いのではないかなと思っています。

★【ENDROLL】 「考えるな、感じろ。」松竹株式会社 映像戦略室 亀井稜さん ~前編~

 

 

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