業界人インタビュー
【ENDROLL】 「目指すは先駆者!」日活株式会社 海外セールス担当 小森景光さん ~後編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界の宝である、業界人の人と成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール~業界人に聞いてみた」。
前回に引き続き、日活株式会社の映像事業部門 版権営業部 国際事業チームにて、海外セールスを担当されている、小森景光(こもりけいこう)さんに伺った内容をお届けする。
映画が好きだということだけでなく、今後の日本の映画業界の発展についても、とにかく熱い想いを持っている小森さん。しかも、どの指摘もとても鋭く、その知識と分析力にこちらも圧倒されるばかり…。そんな小森さんの将来の夢は、やっぱり小森さんにしか叶えられないことだった…!
【ENDROLL】 「毎日、映画館。」日活株式会社 海外セールス担当 小森景光さん ~前編~
今の邦画の評価は、逆輸入的。
小森さんは、これまで世界のバイヤーと意見を交わし、客観的な視点で日本の映画業界を見てきた。だからこそ感じる、今後より邦画の魅力を世界に広めていくために必要なこととはー。
KIQ:現在の、世界における邦画の立ち位置は?
小森:一言でいうのは難しいかもしれないんですけれど、日本はアジアの中でも映画を特にたくさん製作してきた国ということもありますし、有名な監督さんも多くいらっしゃるので、邦画の固定ファンは欧米アジア問わず多いなという印象はあります。
KIQ:邦画の固定ファンというのは、やっぱりアニメ好きなんですか。
小森:そうですね、日本のアニメ大好き!という方はたくさんいらっしゃいますね。あとは日本のクラシック、白黒映画ファンの方も多くいて、みなさんすごく知識も豊富なんです。それこそ、昨年弊社では、鈴木清順監督の『殺しの烙印』という名作を4Kで修復しまして、それが第79回ヴェネツィア国際映画祭クラシック部門で、アジア映画として初めて最優秀復元映画賞を受賞したんですけど、それをヨーロッパやアジアのお客様がすごく喜んでくださって。それで、ぜひその復元版の素材が欲しいと追加でご購入してくださった方もいらっしゃいました。もしかしたら日本よりも、海外のお客さんの方が日本の旧作のバリューをわかってくださっているのかもしれません。
KIQ:それは嬉しい反応ですね。旧作ブームは世界的に起こっているのでしょうか。
小森:はい、すでに世界的に修復の波が来ています。なぜかというと、フィルムって復元する時に当時本当はこうだったんじゃないかという音や色を修復できたり、あと、紛失していたフィルムの一部が誰かの家から発見されて、今まであったものに繋ぎ合わせることができたりするんです。そうやって、復元することで旧作にまた新たな魅力を付随することができるんですよね。なので、弊社では旧作にもかなり力をいれてやっていますね。
KIQ:日々現場にいると、新作ばかり注目しがちですけど、そういう過去の作品という財産をもっていて、それを活かすというか、日本での公開が終わってからも世界中に広げてくださっているっていうことに、すごく映画会社の存在意義を感じました…!
小森:ありがとうございます(照)確かに、旧作が強いというのは、弊社の魅力の一つだと思います。そういう意味でいうと、今後は、旧作と新作の間に溝ができるのではなくて、どっちにもより一層繋げていくような形で売ることができたら、会社としてもさらに飛躍していくのではないかと思う部分はありますね。
KIQ:世界を見ているからこそ感じる日本の映画業界の弱い部分というか、世界基準にまだ追い付いていないと感じる部分ってありますか。
小森:今の日本映画って、映画祭に絡んだタイトルで強いねとか、あるいは海外のこの人が評価してくれたからすごいよねという感じで、海外に評価してもらって初めてその作品の魅力に気づくというか、逆輸入的になりがちな気がしていて。海外の評価が欲しいのであれば、制作段階や売り方、権利の組み方段階でそういったことを意識しておくと、もっと世界的に評価してもらえる日本の作品が増えるのではないかなと思いますね。どんな作品が海外で受けるかというのはすでにある程度データもあり、予想できると思うので。
KIQ:確かに、『ドライブ・マイ・カー』とかもそうだったように感じます。
小森:はい。日本映画の立ち位置の話に戻りますけど、今って、同じアジアだとやっぱり韓国映画の勢いがすごいですし、実は中国も、アニメでも実写でも、検閲とかをくぐり抜ける形で、相当自国の技術を高めているなと感じているので、今後アジアの中で日本映画の立ち位置って大きく変わっていくのではないかなーと個人的には思っているんです。そういう意味でも、そこのところを業界全体で強くしておくというのは、今後のためにも重要なことの一つなのではないかと思いますね。
KIQ:小森さんの映画への熱量って、本当にすごいですね!
小森:完全に映画オタクですね(笑)
KIQ:それほど映画好きだと、ご自身で映画を制作されたいと思うことはないですか?
小森:プロデュースしてみたいっていう気持ちはなくはないです。ただ自分が映画をつくるというよりかは小さい頃から観る立場であったので、これまで観てきたものをどれだけ紹介できるかとか、どれだけバックオフィス側で貢献できるかというような、ビジネスとして映画を扱うことにも日々やりがいを感じていて。それに、自分の好きな原作と俳優さんと監督がいたら、それでもう企画になるんじゃないかって思うかもしれないですが、現実はそう簡単ではなく、実際の映画製作の裏側には、契約書と数字と人間関係があって、これを大事にしないとどんなに夢があってもなかなか作品って出来上がらないんですよね。だから僕は、今は営業サイドやバックオフィスから映画づくりを支えたいですね。
KIQ:バックオフィス側も大事ですよね。一番やりがいを感じる瞬間は?
小森:映画のマーケットって、もう映画ファンの集まりみたいな感じなので、どんな取引であろうと、最終的にどっちも嬉しい気持ちになれるというのは、やっていてすごく幸せなことだなと感じますね。もちろん損得や競争というのはどうしても生まれてはしまうんですけど、お互いに心の深いところでは映画好きということで通じ合っているので、もう絶対にwin-winになるなと。
二刀流の先駆者に…!
様々なことに対して、しっかりとご自身の考えを持っている小森さん。そんな小森さんが抱く今後の目標は、小森さんらしくもあり、前代未聞⁉のことだった…!
KIQ:今後行ってみたい部署や興味がある仕事はありますか。
小森:契約権利関係、著作権って、著作物にとって本当に大事だなってことは売っていても、普段映画を観ていても感じるので、法務系の仕事はやってみたいなと思いますね。それで、最終的にはこれまで学んだことを活かしてやっぱり映画製作に携わりたいなと。例えば、今は昔みたいにお金を集めるだけではなかなかうまくいかなくなっていて、今後はプロデューサーが、自分がつくった作品を自分で幅広く売ることができるとか、あるいは監督との繋がりが前例がないほど特に強いとか、何かプラスアルファのスキルを持っていた方がいいんじゃないかと思うので、その時までに自分は権利関係とか法務系の分野にめちゃくちゃ強くなっていたいなと思っています。
KIQ:やっぱりそういう権利とか法務系の管理について、日本は海外に比べて遅れているのでしょうか。
小森: 例えば、アメリカの会社さんとお仕事していると、ものすごい法務関係をガチガチに固めてきたり、プロデューサーさんや営業のフロントで立たれている方でも、弁護士資格などを持たれていて、契約も全然できます!という方が結構いらっしゃったりするんです。そういう人たちと戦うとなると、今の日本のレベルだとどうしても太刀打ちできないなとは思います。それに、今後はこれまで以上に映画自体がボーダーレスになっていく可能性も考えると、そういう法務や権利関係の処理の知識を身に付けていくというのは、日本の映画業界全体としても必要なのかなと思いますね。
KIQ:なるほど。
小森:僕は、その先駆者になれたらいいなと思っているんです!それって今の海外セールスでの経験も活きてくると思うので。売る立場もわかりながら、法務系の部分で守るべきところはちゃんと守っていく、という二刀流の人材になれたらなーと夢みています!
KIQ:それは、最強ですね!そんな小森さんが今注目している日本の監督やジャンルは?
小森:今は特に、アジアでもヨーロッパでも若手の監督の“登竜門としてのホラー映画”というのがすごくあって。というのは、若手の監督や経験の浅いビジネスの方がいろいろ勉強するのに、ホラー映画ってすごく適しているんですよ。なぜなら、ホラー映画って予算が小さい割に売れるし、ホラーの中で時代劇とか恋愛とか何でもできちゃうからなんです!
KIQ:確かに!
小森:だから、日本で映画監督を目指している人たちも、将来のためにとにかくホラー映画を一回は制作する機会があれば良いんじゃないかと思うんです。弊社では「日活ロマンポルノ」という不朽のレーベルがありますけど、例えば、新たに「日活ロマンホラー」というのをつくってみて、ホラーを撮る機会が増えたらなって (笑) そしたら恐らく、企業人もクリエイターも育つし、若手の俳優さんも育つし、その結果、日本の映画業界全体が育つのではないかと。だから、いつかホラー映画のプロジェクト的なのをやりたいなと思っています。
KIQ:「日活ロマンホラー」いいですね!ちなみに、ここまで映画のお話をたっぷり聞かせていただきましたが、小森さんは映画以外に何か趣味とかあったりしますか?(笑)
小森:映画以外だと、お酒がすごく好きです!2日に1回飲みの会を入れていないと心配になるぐらい(笑)お酒を飲みながら人と話をするのが好きなんですよね。
KIQ:普段も、社内の同期とかと、先ほどのホラー映画の話とかされたりするんですか。
小森:話すこともありますが、同期には心を許して、長々と身の上相談をしてしまうことも多いので(笑)個人的にはもっと社外での同世代の人たちとのビジネス面の繋がりを増やしていけたらなと切実に感じています!そうやって横で情報交換して、それを仕事で繋げて、もっと日本の映画業界がよくなっていったらいいなあって思いますね。
【ENDROLL】 「毎日、映画館。」日活株式会社 海外セールス担当 小森景光さん ~前編~
【Information】
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日活ラインナップ
https://www.nikkatsu.com/
英語版サイト
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