業界人インタビュー
【ENDROLL】 「卒業から続く、新たな道。」 NCW×『少女は卒業しない』×ENDROLL ~前編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そしてそんな面白い人たちを業界に送り込みまくっている
映画学校があるという!
映画・エンタメ業界の宝である業界人の人と成りに焦点を当てた、KIQ REPORTの大人気インタビュー企画
「ENDROLL エンドロール~業界人に聞いてみた」。
今回は、映画業界に携わる人材育成を目的とした映画学校 ニューシネマワークショップ(NCW)と2月23日公開の新作映画『少女は卒業しない』とコラボレーションした前代未聞の特別企画!
お話を伺ったのは、NCWの卒業生 で、映画『少女は卒業しない』で監督・脚本を担った中川駿さんと、同じくNCWの卒業生で、同作の宣伝を手掛ける TAIRA の川口菜生子さん、そして、NCW 主宰の武藤起一さんのお三方。
久しぶりに再会し、会話が止まらない様子で、特に武藤さんは教え子が「つくり」「みせる」作品である『少女は卒業しない』を観て大絶賛しており、現場で大活躍している姿を間近でみてとっても嬉しそう。
前編である今回は、本作を制作するに至った監督の想いや、NCW時代から見守られてきた武藤さんだからこそ気づいた、監督の変化についてお届けする。
★後編:「まるで実家のような学校。」 NCW×『少女は卒業しない』×ENDROLL
前を向くために、挑んだ。
今回、初めて商業長編作品を手掛けた中川監督。本作が生まれた背景にあったのは「チャレンジ」「次のステップ」というキーワードだった。
『少女は卒業しない』監督・中川駿さん
KIQ :『少女は卒業しない』を拝見させて頂きました。あの高校の雰囲気とか、それぞれのキャラクターとか、全てにすごくリアリティを感じたのですが、監督ご自身が学生だった頃を思い出して創られたのですか。
中川 :いや、実は、何もしてないと言えば何もしてないんですよ。というのも、僕の20年前の記憶をたどっても、恐らくそれはリアルにはならないので。僕は余計なことはせず、場作りしかしてないんです。
KIQ :場作りですか?
中川 :はい。キャストたちには、脚本を必ずしも踏襲しなくていいと伝えていたんです。自分が思う言い方や表現があれば全然そのやり方でいいし、もし何か違うなと思ったら提案してもらえるような現場を作ることを心掛けました。なので、こちらから「こうやって欲しい」ということはほとんど言ってないんです。そうやってリアルな年齢の子たちが演じたら、今回のような形になったという感じですね。
KIQ :そもそも、本作を制作することに至った経緯は?
中川 :本作でプロデューサーを務められている宇田川(寧)さんからお声がけ頂いたのがはじまりです。原作を読んでみたら、僕の前作『カランコエの花』(16)(自らが脚本・編集・監督した短編映画。レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でのグランプリ受賞ほか、国内映画祭で13冠を受賞)に通じるものもあったし、何より朝井リョウさんの原作を商業デビュー作としてやれるんだ!っていうことに気持ちが高ぶって、チャレンジしてみたいと思いました。
KIQ :原作が有名な作家さんだとその分プレッシャーも大きいのではないでしょうか。
中川 :プレッシャーはめちゃくちゃ感じました。それに、僕は前作から6年ぐらい映画を撮っていなかったので、本当に僕でいいのか?というのはありましたね。だけど、コロナもあって僕の活動もいろいろ止まっている中で、ここで一歩踏み出さないと次のステップに進めないなという思いがあったので、勇気を持ってトライしてみました。
KIQ :そうだったんですね。原作は、7人の短編集ですが、それを1本の映画にするのは大変だったのではないですか。
中川 :そうですね。原作では7人の少女のストーリーが、それぞれ時間が交わることなくリレー形式で構成されているんですよね。だから、それをそのまま映像化してもオムニバスっぽくなってしまい、一本の映画にはならないと思ったので、まずは直列になっていた時系列を並列に組み替える作業から始め、登場人物も7人のうち4人に絞りました。まあ、組み替えるというよりかは、朝井さんの原作を読んで僕が感じたことを基に、映画として生み直すっていう考え方でやっていましたね。
自分の意志で迎えるわけではない、絶対的な別れ
本作の宣伝を担当する川口さんと、これまでずっと監督を見守ってきた武藤さんが本作について語ってくれた。高校生を描きつつも、幅広い世代の心を動かす本作の魅力とは?
『少女は卒業しない』宣伝・川口菜生子さん
KIQ :本作は4人の少女たちが登場しますが、彼女たちは同級生なので互いに顔は知っているだろうけれども、作品の中では交わらないですよね。こういったストーリーは他作品と比べると宣伝するのが難しいのではないかと感じたのですが、川口さんは宣伝を担当されてみていかがでしたか。
川口 :うーん…、でも、私は難しさとか売りにくさは感じなかったですね(笑)
武藤 :それはもう、川口さんが映画宣伝に慣れているからじゃない?
川口 :いやいや(照)この作品って、一見バラバラなストーリーに見えるんですけど、卒業というテーマに沿って4人の少女たちのストーリーがとても自然な流れで展開されているので、宣伝をしていていわゆる群像劇を宣伝する難しさを感じることはなかったんですよね。作品に力がある証拠だと思っています。
武藤 :確かに、それぞれ形は違うけど、少女たちの心の向きがみんな同じ方向を向いているんだよね。
川口 :そうなんです!
中川 :どういう別れを迎えるかという具体的な部分はそれぞれ違うんですけど、その深い部分では、自分の意思で迎えるわけじゃない絶対的な別れみたいなところで共通しているんですよね。
川口 :だから、河合優実さん演じる山城まなみの視点を通して、他の少女3人が迎える“卒業”はこうだったんだろうなと想像できるんだと思います。なので、私は宣伝する時にもこの作品を「群像劇」という言葉を表現として使わなかったのかもしれません。
KIQ :なるほど。4人それぞれのストーリーのようでありながらも、まとまりを感じたのは、そういうことだったんですね。あと、試写会に来ていた方々(取材日はトーク付き試写会の開催日でした)が、若い人に限らず、年齢層が幅広くて驚きました。
川口 :そうなんです、この作品は本当に客層が幅広いんです!登場人物たちと同世代の方は、今の自分と重ね合わせたりして号泣してくれる子も多いのですが、上の層は上の層で色んな感情を思い出し琴線に触れるようでとても良かった、感動したと嬉しい言葉を頂けます。これほど幅広い年齢層の方に受け入れて頂ける作品はあまりないように思います。
武藤 :それは、少女たちを通して、観客の心の奥深くに伝わってくる何かがあるからだと思いますね。だから、みんな感動し、心を動かされる。それで、広まっていくのではないかと…。
中川 :武藤さんにこんなに褒めて頂けるとは…(笑)
見つけたのは「心の扉を開ける」方法
映画を創るうえでの、自分の指針を見出したという中川監督。一体それはどんなことだったのか。これまで進化し続けている理由とは?
ニューシネマワークショップ主宰・武藤起一さん(右)
武藤 :僕はこれまでの監督の作品を一つの流れで捉えているんですよ。前作で達成した彼の演出や、作家としての世界観が今回はさらにグレードアップして、より多くの人の心を掴んでいるなと。彼が最初にうちのクリエイターコースの方に入ってきた当時は、なんかチャラチャラしていたんですけどね(笑)。最初に撮った作品は特撮だったっけ?
中川 :やめましょうよ…その話は(笑)
武藤 :だから始めは、この子は何を考えてんだって感じでした(笑)その次に書いた作品は、ストーリーはよかったんだけど演出がかなりダメで。
中川 :映画をわかってなかったんですよね。何がいいのかみたいな。もちろん絶対的にいいものってないとは思うんですけど、自分の中での指標を持てていなくて…。だから、どこかで観たことがあるようなありがちな感動ストーリーみたいなのを創っちゃったんです。それが自分的にも悔しかったので、ちょっと勉強しようと思い、ひたすら映画を観ました。それで、自分が好きな作品をピックアップして並べたら、僕はこういう作品が好きなんだ!っていう共通項が見えてきたんです。その指針を信じて創り始めたら、いろんなところで評価してもらえるようになりました。
KIQ :その共通項ってどんなものだったんですか。
中川 :すごく抽象的に言うと、心の琴線に触れるような、深いところに触れられるような作品です。でも、心の深いところまで入っていくためには、お客さんの心のシャッターを開けないとダメなんですよ。そのシャッターを開けるためにはやっぱり信用してもらう必要があって。
KIQ :信用ですか?
中川 :はい。どうやったらお客さんに、この作中で描かれている感情が真実で、心からのものであるということを信じてもらえるのかというのを自分なりに見出したんです。
KIQ :それはどういった方法なのか教えて頂けたりしますか。
中川 :いろんなやり方はあるんですけど、アスガル・ファルハーディーという監督から学んだ印象的な方法が一つあって。彼は、毎回作中に嘘や隠し事をしているキャラクターとか演出を入れるんですけど、そこから得たことは、人ってわざわざ間違っていることを隠さないんですよね。正しいことであり真実なんだけど、知られたくないことを隠すんです。だから、隠すことによって、ある種それが真実であるという証明になるんです。そういった、嘘をちょっと演出技法として使ってみようと思って、『time』という2分間の作品を創りました。
『time』 (第12回NHKミニミニ映像大賞 120秒部門グランプリ作品)
武藤 :あ、そういう背景があったんだ。
中川 :はい。それ以降もそうやって想いを込めていくつか作品を創りましたが、それでもあまり評価されなかったりして…。単に誠実に題材に向き合えばいいっていう話じゃないなっていうのを、そこでまた学んだんです。テーマとしての誠実さを持ちつつ、それをどうエンタメに昇華させるのか、見てもらいやすい形に整えるかみたいなところを一つ課題として見つけて。そこから生まれたのが『カランコエの花』でしたね。そんな感じで、毎回PDCA(Plan<計画>、Do<実行>、Check<評価>、Action<改善>の頭文字。業務改善のために活用されるフレームワーク)を実践しています(笑)
KIQ :毎回きちんと振り返っているからこそ、進化し続けられているんですね。
後編では、NCWが卒業生にとってどんな場所であるのか、そして、今後の映画業界について思うことについて伺った内容をお届けする。
後編に続く・・・
【ENDROLL】 「まるで実家のような学校。」 NCW×『少女は卒業しない』×ENDROLL ~後編~
【Information】
●『少女は卒業しない』2月23日(木)公開
直木賞作家・朝井リョウの同名連作短編小説が遂に映画化。廃校前の高校を舞台に、4人の少女の“最後の卒業式”までの2日間を描いた物語。世界のすべてだった”学校“と”恋“に、さよならを告げようとする少女たち…。新たな青春恋愛映画の金字塔が誕生した。
監督・脚本:中川駿
出演:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望 ほか
©朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会
原作:朝井リョウ『少女は卒業しない』(集英社文庫刊)
公式サイト:https://shoujo-sotsugyo.com/
公式Twitter:@shoujo_sotsugyo
公式Instagram:shoujo_sotsugyo
●映画学校 ニューシネマワークショップ(NCW)
ニューシネマワークショップ(NCW)は東京都新宿区早稲田町にある、映画業界に携わる人材育成を目的とした映画学校。運営は株式会社フラッグ。1997年に開校以来、映画制作のノウハウを教える「映画クリエイターコース」、配給・宣伝を教える「映画ディストリビューターコース」の2つのコースのほかに、映画俳優をめざす人のための短期集中の俳優ワークショップも開催している。2023年で27年目を迎え、映画監督は54人、宣伝・配給をはじめ映画業界へはこれまでに550名以上 のOBを輩出している。
公式サイト:https://www.ncws.co.jp/
公式Twitter:@NCW_JP
公式Instagram:ncw_jp
公式Facebook: newcinemaworkshop
【Back number】
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