業界人インタビュー

【ENDROLL】 「毎日、映画館。」日活株式会社 海外セールス担当 小森景光さん ~前編~

2023-03-31更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界の宝である、業界人の人と成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール~業界人に聞いてみた」。
業界に新たな風を吹き込む20代から30代を中心にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

今回は、日活株式会社の映像事業部門 版権営業部 国際事業チームにて、海外セールスを担当されている、小森景光(こもりけいこう)さんに話を伺った。

3年目とは思えないほど落ち着いていて、日本の映画業界を客観的に見ている小森さん。映画業界を目指した理由や、普段なかなか聞くことができない海外セラーの仕事について熱く語ってくれた。

【ENDROLL】 「目指すは先駆者!」日活株式会社 海外セールス担当 小森景光さん ~後編~

 

留学を通じて、いろいろな価値観を持てた。

小森さんは、子供の頃から映画が身近な存在だったという。また、大学時代の留学先では、現在の仕事に大きく影響を及ぼすことになる、ある経験をしたようだ。

日活株式,小森景光,日活 海外セールス担当

KIQ:今は新卒で入社されて3年目ですか。

小森:はい、コロナ禍真っ只中で入社して、新入社員研修もリモートが中心でした。

KIQ:研修もリモートって大変そうですね(驚)そもそも映画業界を目指したきっかけは?

小森: 両親が文学系の仕事をしていたため、家の中に本や映画のパンフレット、ビデオが溢れているような家庭で育ったんです。だから、子どもの頃から映画ばっかり観ていましたし、文学とかフィクションの世界がすごく好きで。

KIQ:特に影響を受けた作品とかありますか。

小森:物心ついて初めて観た実写長編映画が『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』だったんですけど、衝撃を受けましたね!あと、ジョン・ランディス監督の『ブルース・ブラザース』を観た時には、かっこいいってこういうことなんだ!と。なので、映画に関わる仕事っていいなあって、なんとなくもう子どもの頃から思っていたように思います。あと、僕は昔から運動神経が悪いので、将来は頭と口を使う仕事の方がいいだろうなということも漠然と感じていました(笑)

KIQ:じゃ、本当にもう映画漬けの人生というか?

小森:そうですね、大学時代も平日も休日も毎日映画館に通っていましたね!あと、長期休暇には留学にもよく行っていたんですけど、そこでも同級生とかはみんな授業が終わったら観光に行くなか、僕は現地の映画館に行っていました(笑)

KIQ:どちらに留学されていたんですか。

小森:スコットランドと香港とアメリカです。それぞれ1か月ぐらい行っていました。

KIQ:いいですね!国によって映画館の雰囲気とか映画鑑賞態度とか違ったりするんですか。

小森:全然違いますね!スコットランドではたまたま日本アニメ映画祭をやっていて『君の名は。』が上映されていたんですけれど、思いがけないシーンでなぜか大爆笑が起こったり。あと、アメリカではアカデミー賞に近い時期だったこともあり『万引き家族』が上映されていて、鑑賞後のお客さんの会話を聞いていたら、「え?そこ⁉」っていうシーンにツッコみを入れていたりとか(笑)アメリカでハリウッド映画を観るのもそれはそれでいいとは思うんですけど、向こうであえて日本の映画を観るのもまたいろんな発見があって面白かったです。

KIQ:そこで感じたことが今のお仕事に繋がっているのでしょうか。

小森:そう思います。映画をたくさん観ていると、作品に対してこれってこれぐらい流行るだろうなとか、こういうシーンで感動するだろうって、なんとなく相場のようなものを持っちゃったりすると思うんですけど、外国に行ったらそれが覆されて衝撃だったので、そうやって日本人の受け取り方だけが全てじゃないんだという価値観を持てたことは、今の業務でもすごくためになっていると思いますし、経験しておいてよかったなと思いますね。

KIQ:では、はじめから映画関係の仕事の中でも海外セールスを希望していたんですか?

小森:いえ、そんなことはなくて、僕としてはもう正直映画に携われるんだったらどんなことでもいいと思っていました。入社が決まったときも、大学時代は法律を専攻していたので、恐らく法務とか管理系の部署に配属される可能性が高いだろうなとは思っていたんですけど、いざ蓋を開けてみたら、まさかの海外セールスで(笑) 僕の英語力で⁉と驚きましたが、せっかく配属されたからには英語も頑張ってみようと思い、まもなく3年目が終わろうとしているって感じですね。

海外で人気の日本の監督は⁉ジャンルは⁉

とても楽しそうに仕事の話をする小森さん。セラーという仕事の基本的なことや、海外の人が感じる邦画の魅力について、小森さんが感じていることを交えながら、たっぷり教えてくれた。

日活株式,小森景光,日活 海外セールス担当

KIQセラーって具体的にどんなお仕事なんでしょうか。

小森全体的な流れをざっくりいうと、バイヤーに対して作品を紹介して、契約条件を固めながら買ってもらうというのがメインになります。その上で、前提として弊社で取り扱っている作品には大きく2種類あって、1つは、自分の会社で製作幹事や出資をしている自社作品です。もう1つは、海外セールスの窓口を持っていない会社さんとか、あるいはプロデューサーさんや監督さんから直接お預かりしている受託作品。何百館規模で公開するような大きな作品から、まだ日本での公開も決まってない作品まで様々な作品をお預かりしています。

KIQ結構幅広く扱っているのですね。

小森はい。もう少し詳しく説明すると、自社作品・受託作品のラインナップや調達から始まって、次に今後こういう作品を日活として売っていきますよ、ということを、映画祭に併設されるマーケットの時期に合わせて皆さんにリリースして、それからセラーさんとの交渉を重ねて各国やテリトリーごとにご購入いただき、最後に素材を納品するという感じですかね。基本的には、これらの繰り返しです。

KIQマーケットでのリリースというのは、実際にマーケットに足を運んで「うちの作品どうですか?」とひたすら営業をかけるようなイメージでしょうか。

小森コロナ以前はそれがスタンダードだったんですけど、コロナ禍以降はマーケット自体もほとんどオンラインになってしまって…。やっと去年の後半ぐらいから徐々に対面でのマーケットが再開してきたのですが、実は僕はまだ一度も渡航したことがないんですよ!

KIQそうだったんですね!ということは、普段はメールでやりとりをすることが多いんですか?

小森そうですね、普段はメールでのやり取りがメインで、時々時差を調整しながらオンラインミーティングをしたりもします。

KIQ海外の方は、どういう感じで欲しい作品をリクエストしてくるのですか?

小森これまでどういう作品を買ってきたのかってところが結構大きくて、ずっとこの監督の作品を買ってきているから、その監督の新作があれば欲しいとか。あとは、SF作品が欲しい、バイオレンスものだから欲しいというようにジャンルでご購入頂くことも多いですね。海外のバイヤーさんって、日本みたいにこの俳優さんが出ていて、この作者の原作だからすごいバリューだよねというのとは、またちょっと違う価値観なんですよね。

KIQへー!今、海外で人気の日本の映画監督は?

小森弊社で扱っている作品だと、三池崇史監督、塚本晋也監督、黒沢清監督が人気ですかね。いつもこちらが説明しなくても、海外の方が嬉しいぐらいに語ってくださるんですよ。あとは、弊社では作品を扱っていないんですけど、是枝裕和監督や新海誠監督とかも名前を出しただけで話が通じますね。あと、クラシック作品だと、これも他社さんですが、当然ながら黒澤明監督、小津安二郎監督とか。そうやって、常に新作だけが動いているわけじゃないというのも、海外のマーケットの特色かもしれません。

KIQ昔でいう、ジャパニーズホラーのような、鉄板のジャンルってあるんですか。

小森ホラーは今も強いですね!欧米やアジアを問わず、ホラー作品が欲しいという方って結構いら
っしゃって、僕も個人的にすごくホラー映画が好きなのでいつも嬉しいなと思っています。あと、僕は弊社で扱っているTVアニメのセールスのアシスタントもしているんですが、クールジャパンなんかもありますけど、やっぱりアニメも変わらず人気があるジャンルだなというのは感じます。それから、日本に限った話ではないんですけど、やっぱり映画祭で上映されたとか、受賞したという作品は、フェスティバル系タイトルということでぜひ欲しいという方が結構いらっしゃいます。

日活株式,小森景光,日活 海外セールス担当

KIQやっぱり映画賞とかって強いんですね。バイヤーさんとは、普段から綿密にやり取りされているんですか。

小森セラー・バイヤーともにマーケット期間を重視しているので、その期間を中心にやり取りさせていただくお客様もいますが、それ以外の期間でも新規開拓はしているため、全然やりとりのなかった会社さんに対して、「過去にこの監督のこんな作品を購入されていましたけど、この作品興味ないですか?」みたいな感じで飛び込み営業のように連絡することもあります。もちろん、バイヤーさんからリクエストを頂くこともあります。

KIQバイヤーさんのとの交渉戦術は国によって違ったりするんですか。

小森全然違いますね!アジアだと日本人と感覚が近い部分もあるので結構俳優さんのネームバリューで売ることができたりします。一方で、欧米の方は映画祭的なタイトルが好きだったり、もっと低予算でも尖ったというか個性的な作品が欲しいという方も多いように感じます。なので、本当に国によって好みも様々で、この規模の作品でもこんなに大きな額がつくのか!ということも多くて、おもしろいです。

KIQいろいろな価値観があって、おもしろそうですね!最近だと、配信の影響ってあったりしますか。

小森権利を販売するときに「All rights」といって、劇場の上映権から配信権、テレビでの放映権など全ての権利をまとめて販売するのがスタンダードなんですけど、最近は、配信だけをやっている会社さんとか、劇場の上映もするけど同じくらいの熱量で配信もやるというところも出てきていて、配信権だけを売る機会が増えてきましたね。ただ、それだと単価が小さいので、その分たくさんの作品を積み上げないといけなくって…。そういった点では、海外セールスはひと足早く配信のインパクトを受けていたかもしれないですね。まあ個人的には、配信であったとしても、より多くの人が作品を観られるのなら、それはそれで良い方向なのかなと思ったりもしますが。

KIQちなみに、映画を売るときって、作品をお預かりした後はもう小森さんのようなセラー担当者が主導権を握り、比較的自由に取引できるのでしょうか。

小森実はそこが難しい部分でもあって…。例えば、「こういった映画祭に出してほしい」といった具体的なリクエストを頂くこともあるんですけど、それよりこの作品だったらこっちの映画祭の方が向いているとか、こういうやり方で広めていく方法もあるというような、作品にとってより良い方法を提案させて頂くことはありますね。そのあたりの国内のすり合わせというか、調整も非常に大事にしています。

KIQ任せる方も作品に思い入れがあると思うので、確かにすり合わせは大変そうですね。最近、制作現場含めて、そうやって海外での公開を意識する人が増えてきたなって感覚はありますか。

小森ものすごく増えてきたなっていう感覚はあまりないかもしれないですね。だけど、国内でとりあえず公開できればいいかなと思っていらっしゃる方に、こういう海外展開もできますよってことをお伝えして、ご理解いただいて、作品をお預かりすることに繋がるというケースも結構あるんです。なので、ここは弊社の自慢できる点かと思うんですけど、弊社では作品をお預かりする際に、予算とか公開規模とか、公開からどのくらい時間が経っているかというような、引き受けるにあたっての最低条件みたいなものって数字的にばっさりと設けているわけではないんです。どんな小さな作品であっても、まずは企画書や作品を観るようにしていて、できるだけ海外セールスに繋げられるように検討しますとお伝えしているので、そこはすごく強みだと思いますね。もし、お引き受けできなかったとしても、その監督のお名前を業界の中で広めたりとか、何か少しでも次に繋げていけるようにしたいと思っているので、ぜひ検討されている方がいたら弊社をお勧めください!(笑)

 

次回は、世界での邦画の立ち位置を認識している小森さんが、現在の日本の映画業界について思うことについて。そして、小森さんが描く自身の未来像について、語ってくれたことをお届けする。

 

【ENDROLL】 「目指すは先駆者!」日活株式会社 海外セールス担当 小森景光さん ~後編~

 

【Information】

世界中の人々に面白い作品を届ける。

日活ラインナップ
https://www.nikkatsu.com/
英語版サイト
https://intl.nikkatsu.com/

 

 

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