業界人インタビュー
【ENDROLL】「撮り逃げの美学」スチールカメラマン 内堀義之 さん ~前編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界の宝である、業界人の人と成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
今回は、『愛しのアイリーン』(2018)、『死刑にいたる病』(2022)、『月』(2023年10月公開予定)など、数多くの作品でスチールカメラマンとして活躍している、内堀義之(うちぼりよしゆき)さんに話を伺った。
前編では、意外と知られていないスチールカメラマンの仕事内容と、その魅力について語ってくれたことをお届けする。
スチールは、感覚を頼りに収める現場ドキュメント。
スチールカメラマンとは一体どんな仕事なのか。よく目にするあの小道具も実はスチールカメラマンが作っていた!?
KIQ:スチールカメラマンって、どんなお仕事なんでしょうか?
内堀:一言でいうと、チラシやポスターで使用する写真やメディアに提供する写真などを現場で撮るという仕事です。場合によっては事前に宣伝部さんとかプロデューサーとどういうビジュアルの方向性で作っていくかとかも話し合ったりするので、イメージ作りを背負う仕事というんでしょうか。
KIQ:撮るシチュエーションや俳優の表情など、具体的なことは宣伝側から指示されるのでしょうか。
内堀:指示される場合も、されない場合もあります。宣伝の方としっかり話し合える機会がある場合は一緒に決めていきます。一方で、まだ宣伝担当者が決まっていない時は自分でラフ画コンテのようなものを書いて提案したこともあります。このシーンのタイミングで撮影できると思いますので、こんな印象のポスターはどうですか?とか、インターネットでイメージ画像を探して、例えばこの光、良くないですか?とか。
KIQ:そこまでやるとなると、大変そうですね。スチールは、基本的に1作品につき1人なんですか。
内堀:基本は1人です。だから、宣伝部が早い段階からしっかり稼働してくれていて、すぐに相談ができる環境でしたら非常に大きな力になります。あと、もう1つあまり知られていない仕事がありまして。実は小道具に使用する写真も撮ります。例えば警察官だったら警察手帳の写真や、医者だったら首からぶらさげるIDの顔写真、また、作品中に出てくるInstagramの中の写真も撮影したこともあります。
KIQ:へー!それは知らなかったです。
内堀:これが結構大変でして、過去にはファッション業界を題材にした映画で劇中に出てくる雑誌の中身や登場人物のSNSの素材を撮影するために、撮休の日に1日で3000枚の劇用写真を撮ったことがあります。
KIQ:3000枚!?想像がつかないです…。
内堀:しかも、意外と小道具の写真の方が技術的なことを求められます。現場写真はどちらかというとドキュメンタリー写真の要素が強いので全く違う感覚です。
KIQ:スチールが現場に入るのって結構早いイメージがあります。
内堀:早いですね。僕は衣裳合わせの時から入りますが、普通は衣裳合わせからは来ないですよとよく言われます(笑)でも、そのくらいのタイミングから入っておかないと情報を得られないので。そして、現場で撮影した後も仕事は続きます。大体1ヶ月間くらいかけて色の調整をするんですが、その作業が結構大変なんです。
KIQ:色調整までやられてるんですね!
内堀:しかも、重たい内容の作品を担当した時は、色調整をするためにもう一度、初日からクランクアップまでの写真を振り返っていくので、現場を追体験する感覚に陥り、一人で黙々と作業していると気分が重たくなることもあります。スチールは気持ちの切り替えが上手くできるということが意外と大切な要素かもしれません。自分自身上手く出来るかよくわかりませんが。
KIQ :他にも、スチールに必要な素養などはありますか。
内堀:現場へ入った時に、スチール以外の仕事のことも知ってそこに関わる方々の仕事をきちんと見ることのできる人が良いのではないでしょうか。そうすれば自分にも興味を持って頂けて、結果的に現場で助けてもらえることもあります。ですので雑談でもいいですし、挨拶などコミュニケーションが得意な人は向いている職かもしれません。
KIQ:内堀さんにとって、参加したい!と思うのはどんな現場なのでしょうか。
内堀:やっぱり監督の存在は大きいと思います。個人的に映画を観に行った時に、凄く刺激を受けた作品と出会ったら、この監督と仕事してみたいと思うことがあります。もしそういった監督からお声がけ頂いた場合は何も考えずにとりあえず即決していると思います。なんだか偉そうですみません…(笑)
KIQ:そんなことないです!(笑)
撮り逃げの美学
内堀さんは、スチールカメラマンになって今年で15年目になるという。今日まで内堀さんを惹きつけるスチールの魅力とはどこにあるのだろうか。
KIQ:お仕事として、スチールの魅力はどんなところですか。
内堀:撮って逃げられることかも知れません。制限をかけられた中で、いかに早く撮って逃げるかというのはすごく面白いです。あとは本編のカメラと全く違う位置に入った時に、この映画はこっちの画だなとか、これだ!っていう画が撮れた時は面白いなあって思います。動画と静止画の面白さは決して一緒ではなく、写真だから伝えられることもあると思います。だから、本編の画が写真の場合は正解ではなかったりもします。
KIQ: へー!あと、本編の演技はNGを出して何度もトライできるけど、スチールは常に一発勝負ですよね。
内堀:そうなんです!セットによってはスチールが入る隙間がなく撮る場所がない時は、もうファインダーを覗かず、片手だけ突っ込んでシャッターを切る時もあります。それに俳優さんがお芝居する時に沢山のカメラが自分を狙っている状況はストレスになりますので、撮っていると認識される前に、すぐに撮って逃げていつ撮影したかわからないって言われるようにしたいんです。言っていることとやっていることに矛盾も感じますが。
KIQ:すごいですね、プロの技ですね…。
内堀:あと、結構映画の現場は「はじめまして」の1、2カ月後にはもう「さようなら」ということがほとんどで、幼少の頃家が転勤族でしたので、その記憶なのか意外とそういう出会いと別れに魅力を感じている節があります。自分にあった生き方なのか、そういう刷り込みなのか。ちょっとした旅感とドキュメント性を感じられて、撮ったら逃げるというストリート的な要素もあって、そういうのが写真的だなとふと思って、毎回面白いです。
後編(7/21掲載予定)では、内堀さんがスチールカメラマンになるまでの歩みと、ずっと追い求めている理想の瞬間について語ってくれたことをお届けする。
(後編へ続く・・・)
【Information】
『月』 10月13日(金)公開
『舟を編む』の石井裕也監督が、辺見庸の小説「月」を、主演に宮沢りえ、共演にはオダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみをむかえ映画化。
2023年、世に問うべき大問題作が放たれるー。
監督・脚本:石井裕也
出演:宮沢りえ、オダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみ
配給:スターサンズ
tsuki-cinema.com
『愛にイナズマ』 10月27日(金)公開
石井裕也監督がオリジナル脚本で描いたコメディドラマ。松岡茉優と窪田正孝がW主演を務める。
花子(松岡茉優)は正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たした矢先、騙されて夢を奪われてしまう。花子が頼ったのは、10年以上音信不通だったどうしようもない家族だった…。
監督・脚本:石井裕也
出演:松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、佐藤浩市
配給:東京テアトル
https://ainiinazuma.jp/
【Back number】
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