業界人インタビュー

【ENDROLL】「世界へ届け!日本のIP」 通訳 大倉美子さん ~後編~

2024-06-28更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。

 

今回も前回に引き続き、ジュリア・ロバーツやヒュー・グラント、ジョニー・デップなど、名だたるハリウッド俳優たちが来日した際の通訳をはじめ、映像作品に関する様々な通訳を担当している大倉美子さんにインタビュー!

後編では、次々と海外と日本の取材の驚くべき違いが発覚!大倉さんが日本の通訳であることを誇らしいと感じる理由とは?さらに、アメリカの映画産業の変化や、日本映画の未来に対する希望について熱く語ってくれたことをお届けする。

【ENDROLL】「訳すより解釈」 通訳 大倉美子さん ~前編~

 

世界が日本の取材を絶賛!

世界的には珍しい日本の取材のスタイルとは?また、これまでの経験の中で印象に残っているエピソードについても聞いてみた。

KIQ:昔と比べて、取材のスタイルで変わったなと思うことはありますか。

大倉:コロナをきっかけに来日せずともオンラインで取材をすることにみんなが慣れてきて、取材の数自体は逆に結構多い気がします。

KIQ:やはり今はオンラインが主流になってきているのですね。

大倉:来日もコロナ前ほどではないですが、かなり戻ってきている気がします。でも、ジャンケット(洋画における海外でのタレントのインタビュー取材のこと)にリモートで参加したり、時間を数時間もらってzoom取材をしたり、オンラインでできることも多いですからね。そこでひとつ面白いのが、タレント側がオンライン取材時の日本からの参加人数に驚くことです。日本だと国際部が1人、パブリシストが2,3人、場合によっては6人くらい立ち合って(ビデオはオフにして)話を聞きますよね? 私の知る限り、他の国では立ち会うパブリシストは1〜2人ぐらいで、場合によっては誰も立ち会わないケースもあるんです。なので、「彼らはパブリシストで、この映画をより理解し、届けるために、あなたの言葉を直に聞きたいんです」と伝えたら、感動していた人もいました。

KIQ:へー!それって日本特有だったんですね。他にも日本特有のことって結構あるのでしょうか。

大倉:基本的に日本のイベントや取材の時間は海外と比べると長い気がします。また、日本だと写真は媒体ごとに撮ることが多いですが、欧米では特別な撮りおろしとかではない限り、取材時にそんなに撮影しないんです。取材時間も日本だと雑誌やWebの取材は個別取材で15〜30分が多いですが、海外では長くて10~15分のイメージです。テレビだともっと短くて、5分とか(笑)

KIQ:え、短い!

大倉:あと、日本の場合、イベントのフォトコール(写真撮影)も少し独特です。目線を中央、右、左、そしてもう一度中央に向けてもらって、最後にムービー(テレビカメラ)に向けての撮影を結構長く行いますよね? 欧米でこんなに長く撮ることは殆どないので、我慢し切れずに途中で「Thank You!!」と言って降壇してしまう方もいますね(笑)

KIQ:なるほど…(笑)

大倉:取材の話に戻りますが、担当した監督や俳優にどんな取材や質問が面白かったかを聞くと、多くの方が「いろいろな国の取材を受けてきたけど日本が一番興味深かった」「初めての質問だったり、考えさせられる質問が多かった」と言ってくださるんです。嬉しいですよね。

KIQ:へー!それは嬉しいですね。

大倉:それはやっぱり、先ほどのパブリシストの話もそうですが、日本のジャーナリストが作品について独自の視点で深く考えて取材に来て下さっているからだと思います。また、だからこそ気を付けていることもあります。来日でもリモートでも、タレント側からすると話す相手が次々と変わっていくわけですよね? だから、通訳としては、インタビュアーそれぞれの個性や独自のニュアンスをなるべく反映したいと考えています。最初にできるだけお名前を紹介するのもそういう気持ちからです。少しでも記憶に残るような会話になるといいなと考えているので、「各国回ってきて、そこに気付いたのはあなたが初めてです」とか「それは初めて聞かれたかも」とタレントが考え込んでしまったりすると何だか嬉しいんです(笑) 「日本の取材が良かった」と言われることも素直に誇らしいことだと思っています。

KIQ:日本人としてすごく誇らしいですね!何かこれまでに強く印象に残っている現場や出来事などはありますか。

大倉:たくさんありますが、会話という意味では、『her/世界でひとつの彼女が』(2013)で来日したスパイク・ジョーンズ監督が、「インタビューじゃなく、会話がしたい」と言い出した時には、どうしたら会話っぽくなるのか急遽みんなで考えながら進めましたね。座り位置を工夫したり、ライターさんにも普通の会話をしてもらいつつ、うまい具合に質問を挟んでもらったり(笑)スパイクらしいですよね。クエンティン(タランティーノ監督)もそこまでではないですが、Q&Aというよりは、会話になるように心がけています。

KIQ:さすが、スパイク・ジョーンズですね(笑)

大倉:それから、わりと長く話す方の担当をすることが何故か多いのですが、一番回答が長かったのが『ブラックブック』(2006)で来日した時のポール・バーホーベン監督でした。最初の取材が30分だったのですが、2問で終わってしまったんです(笑)内容はすばらしくて、聞きたいことはすべて網羅されていたので、そこは良かったのですが、そこからは「良かったら聞きたいことから聞いちゃってください」とみなさんにお伝えしました。

KIQ:(笑)

今こそ、日本のIPを世界へ。

配信が広まってきたことでアメリカでは字幕で映画をみることに慣れてきた!?また、大倉さんが日本の映画業界の未来についてワクワクしている理由についても語ってもらった。

KIQ:映画業界に対して、昔と比べて変化を感じる部分はありますか。

大倉:大きな話で言うと、映画産業的に世界で一番大きいと言われるアメリカがまだ過渡期にあるので、そこが落ち着かないと、世界の映画市場も落ち着かないのではないかと思っています。(アメリカの)劇場用映画に関しては、脚色やIP(「知的財産(Intellectual Property)」の略。映画のコンテンツやキャラクター、ストーリー、ブランドなど著作権や商標権で保護される創作物やアイデアを指す)ものではない、オリジナル作品を作るのがいかに難しくなったかというのは良く言われていることですし、大手スタジオがテントポール作品と呼ばれるような超大作か、比較的に低予算で作れる作品を主に作るようになっているので、中規模クラスの、ある程度予算をかけたドラマなどが減ってしまっているという話もよく聞きます。

KIQ:大規模な作品か、小さい作品かの2極化になってきてしまっているんですね。

大倉:一方で配信プラットフォームを抱えている会社は供給も考えないといけないし、これは(配給会社の)営業担当の方々から聞いたのですが、コロナ禍後のアメリカは日本ほど映画館に観客が戻ってきていないそうです。最近のインタビューでも、今は、劇場で観なければ!と観客に感じてもらえるフックが必要だと思うと話す方も多いです

KIQ:コロナによって配信で見ることがより浸透してきたことで、劇場で見る価値を訴えることがより重要になってきたのは、日本でもアメリカでも同じですね。

大倉:だと思います。でも、配信によって思わぬことも起きていて、これまで字幕で映画を観ることに慣れていなかったアメリカの観客が、配信をきっかけに他の国の作品を字幕で見ることに慣れてきたと聞きました。面白いですよね。それと関係があるかはわかりませんが、『ゴジラ -1.0』も「もちろん字幕版で観た」という方も多くて。

KIQ:それは嬉しい変化ですね!

大倉:観る方だけじゃなくて、作る方も、今は日本も含め、多くの国が共同製作をしているし、俳優だけじゃなく、監督が単身海外作品に参加したり、海外作品が日本で撮影されることも増え、国境や文化圏を飛び越えた映画作りが通常になってきているように思います。なので、日本も色々な形で更に積極的に関わっていけたら嬉しいですよね。

KIQ:今、日本の映画業界全体で、世界に日本の映画を発信していくことに本格的に動き始めている感じがしますよね。

大倉:もちろん以前からそういう動きはありましたが、今いろんなタイミングが熟している気がしますそれは実写、アニメに関わらず、様々な企画開発のミーティングに通訳として参加する中でも感じることです。そして、才能あるストーリーテラーやフィルムメーカー、スタッフ、キャストはもちろんのこと、日本はIPがとにかく豊富な国でもありますよね。確立されているキャラクターの数もすごいですが、変幻自在な物語がたくさんある。新しく、オリジナルなものを作る一方で、既存のIPがどうなっていくのか、それも楽しみにしていることのひとつです。

KIQ:これからは日本のIPを世界市場にもっと展開していけたらいいですよね。

大倉:通訳の話に戻ると、日本の監督やキャストが受ける海外取材も、お手伝いしていてやりがいを感じる仕事なんです。去年のカンヌ映画祭では『PERFECT DAYS』で日本媒体向けにヴィム・ヴェンダース監督の、そして海外媒体向けに役所広司さんの通訳をしていたのですが、役所さんの取材に集まった記者さんが熱くて、みなさんも役所さんの受賞を確信しているようでした。最近では映画祭のようなイベントでなくても海外から取材が入ったりして、そういうところでも変化を感じます。そんな風に、何らかの形で日本が絡んだ作品を世界と共有する場に関われるのもとても嬉しいことなんです。

 

【ENDROLL】「訳すより解釈」 通訳 大倉美子さん ~前編~

 

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