業界人インタビュー

【ENDROLL】「訳すより解釈」 通訳 大倉美子さん ~前編~

2024-06-27更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

今回は、これまで、ヒュー・グラント、マッツ・ミケルセン、クエンティン・タランティーノ、タル・ベーラなど、名だたるハリウッド俳優や監督たちが来日した際の通訳をはじめ、映像作品に関する様々な通訳を担当している大倉美子さんにインタビュー!

前編では、表舞台にとどまらない通訳の様々な仕事内容ややりがいについて聞いてみた。また、大倉さんが長年通訳をするにあたり大切にしていることについて熱く語ってくれたことをお届けする。

【ENDROLL】「世界へ届け!日本のIP」 通訳 大倉美子さん ~後編~

 

イベントだけじゃない!多岐に渡る役目

バラエティに富んでいるという大倉さんの日々の業務とは?また、業界に入ってから通訳になるまでの経緯についても聞いてみた。

KIQ:普段はどんな通訳のお仕事をされているのでしょうか。

大倉:映画だけでなく、テレビなど映像作品全般の通訳をしています。最近は、海外との共同製作作品も増えてきているので、そういった海外との企画や脚本開発の打ち合わせの通訳をすることもあります。

KIQ:へー!そういったものもあるんですね。

大倉:それから、これは翻訳になりますが、広告系のお仕事で日本のCMを海外コンペティションに出品するときの英語の字幕をつけたり、英語を使ったコピーに携わったりもします。変わったところでは海外の俳優への出演依頼の手紙を訳したりしたことも…

KIQ:通訳さんのお仕事って想像以上に多岐に渡るのですね。

大倉:そうですね。作品も多種多様なので、日々のお仕事はとてもバラエティに富んでいると思います。

KIQ:そもそも、通訳になろうと思われたきっかけは?

大倉:元々は配給会社にいたんです。そこで5年ほど働いてちょっとお休みをしたいなと思って辞めた後に、知り合いに声をかけてもらい、お手伝いのつもりで通訳の仕事をしたことがきっかけです。それ以来、20年以上この仕事をしています。

KIQ:そういった経緯だったんですね。配給会社へはなぜ就職しようと思われたのですか。

大倉:大学を卒業してから美術史の勉強をするために2年間イギリスに留学していたのですが、帰国してから就職しようと思った時に、映画業界で働いている知り合いから配給会社の国際部で人を探していると聞き、面接を受けに行ったんです。そもそも映画が好きだったのでとても自然な流れでした。

KIQ:では、英語は留学されてる時に学ばれたんですか?

大倉:いえ、12歳になるまで、イギリスとアメリカに8年住んでいたので、帰国子女なんです。

KIQ:そうだったんですね。やはり通訳の方は大倉さんのように帰国子女の方が多いのでしょうか。

大倉:そうですね、帰国子女かインターナショナルスクールに通っていた方がエンタメ界隈の通訳だと多い印象です。

KIQ:あと、通訳の方はフリーでご活躍されている方が多いイメージがあります。

大倉:そうだと思います。でも、エージェントに登録している方もいるし、映像関連だけでなくて医療系や金融系など、他の業界の通訳もやっている方もいらっしゃいます。

KIQ:エンタメの通訳は、他の通訳と比較して何か特有なことがあるのでしょうか。

大倉:想像にはなりますが、インタビューなどは他の作品や俳優の名前をある程度知っていないと文脈がわからないかもしれないので、エンタメへの興味と知識は必要かなと思います。もっとも、それはどの業界でも同じかもしれませんが。

喜びは、通訳の存在感が消えた時

限られた時間の中で瞬時に訳さなければならない通訳。具体的にどのような事前準備をし、どのように訳しているのか聞いてみた。大倉さんが大切にしているtranslator」と「interpreter」の違いとは?

※警察署付近での撮影に伴い、逮捕されたポーズをとってくださった、お茶目な大倉さん(笑)

KIQ:作品に関する情報は事前にどのくらいインプットされているのでしょうか。

大倉:日本語のプレス(媒体に作品情報を提供する際の資料)、英語のプロダクションノート(映画の制作過程に関する詳細な情報を記録した資料)、あとはあればEPK(「Electronic Press Kit」の略で、映画のPRのための映像集。主にキャスト・スタッフのインタビュー、舞台裏映像や予告編などの一式を指す)は必ず目を通します。あとは他にインタビューや記事などがあれば、それもなるべく読むようにします。日本の公開が本国よりも遅い場合だとYouTubeなどに会見やインタビュー動画が結構あがるので、犬の散歩や家事をしながら聞いたりして、できるだけ予習はするようにはしています。声を聞くことでその方の話し方にも慣れることができますし。過去作もなるべくチェックしますね。

KIQ:取材やイベントでは時間が限られていることが多いと思いますが、そう言った場合は役者さんが話したことを全て訳すのではなく、適宜要約されているのでしょうか。

大倉:基本的には端折りたくはないんです。なぜならインタビューされる方も、観客の方も、話し方のクセやジョークを含め、お話は全部聞きたいと思うからです。なので、早口で話したり、同時通訳にしたりして、なるべく全て伝えられるようにはしています。ただ、同じことを繰り返し話していたら、そこは端折ったりはしますが。

KIQ:そもそも通訳するときは、話したことをそのまま訳しているのですか。それとも大倉さんの方でちょっと説明や補足を加えて訳されているのでしょうか。

大倉:基本的にはもちろんそのまま訳しますが、説明を入れることはあります。例えば何度も同じことを答えている中で、(話したつもりになって)説明が抜けたりしてしまって、わかりにくいかなと思ったときには「これは私からの補足ですが」と前置きしてから補足することもあります。

KIQ:その技術は経験を踏まないと難しそうですね。

大倉:いえ、普通のコミュニケーションなので、そんなに難しくはないと思います。通訳って、やっぱり聞いた方に伝わることが大事だと思うので…。通訳はtranslator「interpreter」の2つの言い方があるんですが、「translator」はどちらかというと翻訳で使われる言葉で、そのままをしっかりと訳すというイメージを勝手に持っています。一方で、「interpreter」という単語には、解釈という意味もあるんです。だから映画のようなものに関わる通訳は、字一句言葉を置き換えて直訳するというよりは、伝えたいことをそのままの温度感やニュアンスを含めて解釈し、相手に伝えることが大事なのかなと思っています。

KIQ:なるほど、ただ訳すのではなく、“解釈”することが大事なのですね。
あと、取材の現場でご一緒したときにいつも思うのは、大倉さんはいつも積極的にタレントや海外パブリシストとコミュニケーションをとってくださり、必要に応じて日本のメディアとの調整などもしてくださいますよね。毎度本当に感謝しております!いてくださるととても心強いです。

大倉:そう言ってくださると嬉しいです。やっぱりみんなその場にいながらも、タレント、宣伝、配給、ジャーナリスト、タレントのパブリシストなど、それぞれ少しずつ目的が違うわけですよね。だけど、私はあくまでも配給会社さんに雇われているので、タレント側の方には立ってはいけないと思っています。もちろん快適に過ごせるように最大のケアはしますし、タレントさんの思いも汲み取りたい。また、ライターの方々は、宣伝チームが考えた方向性に共感したうえで、その作品を更に広く届けるために来てくださっているので、聞きたいことをその方のニュアンスに合わせてきちんと聞くことも大事だと思っています。なるべくスムーズに、かつ、映画のためになる取材が一番ですよね。

KIQ:そんな通訳のやりがいや面白さはどんなところですか。

大倉:そもそも映画が好きなので、映画を深堀りできるだけでも楽しいのですが、一番やりがいを感じる時は、例えばライターさんとタレントさんがまるで2人の間には誰もいないような感じで、つまり通訳が存在していないかのように、うまくコミュニケーションが取れているなと感じることができた時です。具体的にいうと、ニュアンスがちゃんと伝わり、深めの話に夢中になったり、ジョークを笑い合えていたりとか。その瞬間はすごく嬉しいですし、快感があります。

 

後編では、海外の役者さんから日本の取材を褒められることが多い理由について迫ってみた。そこから見えてきた、海外と日本の取材の違いとは?また、これからの日本映画の可能性について語ってくれたことをお届けする。

【ENDROLL】「世界へ届け!日本のIP」 通訳 大倉美子さん ~後編~

 

 

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