業界人インタビュー

【ENDROLL】「“らしい” って何?」プレコグ株式会社 関 総一郎さん ~前編~

2024-05-31更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

今回は、エンタメ業界に特化したリサーチ・マーケティング・データ分析や、情報サービスの開発・運営などを担うプレコグ株式会社の関 総一郎さんにインタビュー!

KIQ REPORTでも分析・調査など、日々大変お世話になっているデータ分析のプロ・関さんが、どうやって映画業界にマーケティングの立場から携わるようになったのかや、映画を好きになったきっかけについて聞いてみた。また、商品=映画であるからこその難しさや、マーケティングの必要性について語ってくれたことをお届けする。

【ENDROLL】「キッズアニメからフィンランド映画まで」プレコグ株式会社 関 総一郎さん ~後編~

 

映画マーケティングのラスボス

長年エンタメのマーケティングに携わっている関さんに、大ヒットは予想できるのか?ヒットするのが難しそうな作品もわかるのか?など、あれこれ聞いてみた。

KIQ:普段は具体的にどんなことをされているんですか。

関 :リサーチ・マーケティング業務がメインですが、他にもデータベースのサイトの構築・運営などのシステム的なこともやっています。あとはご依頼をいただいことに対して、企画書や報告書などを作ったりとか。

KIQ:それらの対象は、基本的にはエンタメ関連なのでしょうか。

関 :そうですね、稀にエンタメ以外の依頼を受けることもありますが、9割5分はエンタメです。売り上げのバランスで言うと映画・テレビ・配信で3等分ぐらいですが、一番業務として時間を割いてるのは映画です。映画では劇場公開前の作品のターゲットやポテンシャルの分析や脚本や企画のディベロップメントなどを行っています。

KIQ:エンタメのマーケティングならではのことって、何かあるのでしょうか。

関 :一般の消費財とは売れ方が全然違うと思っています。例えば不動産だったら、同じ立地に建った同じ広さのマンションって、大体同じ値段で売れますし、もし売れなかったとしたら安くすれば大抵売れるじゃないですか。その一方で“0円でも買わないものは買わない”のがエンタメなので、どれだけ多くの人の好奇心を刺激するかが、ほかの商材に比べてより重要になってくるところは特徴かなと思います。

KIQ:なるほど。

関 :あとは、同じ300スクリーンで公開した作品でも、興行収入1億円の作品もあれば100億の作品もあるように、インプットとアウトプットの関係にすごくばらつきがあることですかね。だからこそ、データだけで予測することに限界があり、ある程度、経験や知見を踏まえながら判断していく必要があるところが難しいです!


KIQ:長年蓄積されたデータや知見を持ってしても、やっぱり企画書や脚本を見て、大ヒット作品を見極めるのは難しいものですか。

関 :そうですね…実は作品の弱点を見つけることはそれほど難しくありませんが、大ヒットする要素を見つけることの方が難しいんです。もちろん、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載されている大人気漫画の映画化作品とかは話が別ですが。ヒットまでの道筋はみつけられても、大ヒットを予想するのは容易ではないんです。

KIQ:そうなのですね!でもなぜ大ヒットを予想するのは難しいのでしょうか…?

関 :マーケティングって、過去の傾向に当てはめていく作業になるのですが、映画がヒットするかは最終的には個々の作品の個性に踏みこまないとわからない部分なので、何も参考にできないんですよね。映画館に足を運んでもらうという最後のラスボス級のハードルを突破するための鍵が、作品によって全然違うので。そしてどこまで化けるかは予想がつきません。

KIQ:他の買い物みたいにスマホでポチッとするだけじゃないですもんね!逆に、これはちょっとヒットは難しいだろうな…というのは割と予想しやすい…?

関 :作品とターゲットがずれているとか、何か訴求力に欠けるということは企画書段階のリサーチでわかります。でもそれは僕だけではなく、プロの人の肌感や目利きは基本的には正しいと思うので、みなさんもなんとなくわかった上で依頼して来ていると思うんです。肌感って他の人と共有しにくいので、データを使って共通言語化することが求められていて、それがこの仕事の存在意義の一つなんです。

”らしい“って何?

新卒で業界に入ってから、今日までの様々な経験について聞いてみた。関さんにとって映画=特別なものになった子供の頃の思い出とは?

KIQ:プレコグさんにはどのくらい勤められているのですか。

関 :ちょうど10年ぐらいですかね。

KIQ:それ以前は何をされていたのですか。

関 :元々新卒で映画配給会社のGAGAに入社し、30歳の時に音楽やオーディオ系の雑誌の編集社に転職したんです。そこを4年ほど勤めた後に、マーケティング会社に移ったんですが、そこでいろいろあって…(苦笑)。覚悟と不安を抱えながら今の代表と独立したという経緯です(笑)

KIQ:そういった経緯だったんですね!色々とお聞きしたいことがあるのですが…(笑)、そもそもなぜGAGAさんに就職しようと思ったんですか。

関 :単純に映画が好きだったからですかね。映画を好きになった最初のきっかけは恐らく「ゴールデン洋画劇場」(1971年から2003まで金曜日21時〜(1981年4月以降は土曜日21時〜)フジテレビ系列で放送されていた映画番組枠)や「日曜洋画劇場」で、当時小学校の低学年ぐらいだったのですが、映画を観る時だけは夜更かしを許されていたんです。でも、見て良いのはヘレンケラーの『奇跡の人』(1962)や、ライオンを育てる話の『野生のエルザ』(1966)といった親がセレクトした作品だけだったんですが(笑)

KIQ:ちゃんと厳選されている感じがしますね(笑)

関 :眠いのを耐えて最後まで見ると褒められて、なんとなく映画=特別なものになりました。でも本当に映画に夢中になるきっかけはジャッキー・チェン作品ですかね。

KIQ:ジャッキー・チェンがハマったきっかけだったんですね!GAGAさんでは具体的にはどんなことをされていたんですか。

関 :製作や配給というよりかは、出版系やネットビジネスなどをやっていました。具体的にはビデオ情報誌の編集とか。なので、現在も含めて映画業界の中心からは少し外れたところをウロウロしていました。

KIQ:記事を書いたりとかもされていたんですか。

関 :そうですね、当時から割と文章を書くのは好きだったように思います。文章を書くことを訓練できたのは今の仕事でもとても役立ってます。

KIQ:プレコグさんには10年いらっしゃるとのことですが、長年続けられるほどのリサーチやマーケティングのやりがいや面白さはどんなところなんでしょうか。

関 :難しい質問ですね(笑)。打ち合わせなどで、結局声の大きい人の意見が通る場面ってすごく多いなと昔から思っていて。「今これが流行ってるらしいんです」の、その“らしい”って何だろうと。そういった肌感や直感がデータとして整理されて、シンプルにまとまっていくプロセスが割と好きですかね。

KIQ:なるほど。

関 :マーケティングリサーチって、既に起きてる事象を説明することなので、実は大発見はほとんどないんです。でも、肌感や直感と調査結果に少しずれがあったり、何か意外性があったりするとそこに小さなヒントが隠れてたりするので、そういう物が見つかるとやっぱり嬉しいですね。

KIQ:逆に大変だったり、難しいなと感じることは?

関 :リサーチする作品は必ず見るようにしているので、そこに時間を割くことが正直大変は大変です(笑)とはいえ、映画も配信もドラマも好きなので全く苦ではないのですが。ただ、テレビの帯番組は1回の放送が数時間あり、1週間分あるのでちょっと大変だったりします。

KIQ:へー!帯番組の依頼は、どんな調査なんですか。

関 :出演者について調べたり、番組内のコーナーについて調べたり、視聴者がどこでチャンネルを変えるかを調べたり、テレビを見ながら何をしているかとか。映画と異なり少しずつ改良していけるので、実は圧倒的に調査のニーズがあるんです。

 

後編では、ここ数年の映画の見方や調査内容の移り変わりについて伺った。そこから見えてきた、映画製作者側の意識の変化とは?

【ENDROLL】「キッズアニメからフィンランド映画まで」プレコグ株式会社 関 総一郎さん ~後編~

 

 

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