業界人インタビュー

【ENDROLL】「宣伝マンと言語力」山根匡子さん ~後編~

2024-04-19更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

今回も前回に引き続き、、『パディントン』(2016)、グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~(2020)、『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』(2024)など、これまで数々の映画を担当してきた、映画宣伝プロデューサーの山根匡子さんにインタビュー。

後編では、作品規模による映画宣伝の違いや、この20年間で起きた業界の変化についてあれこれ聞いてみた。そんな変化を踏まえて、いま山根さんが洋画ファンに伝えたいこと、そして、業界の未来のために取り組むべきだと考えていることとはー?

 

★【ENDROLL】「私は超ラッキ・ーガール!」山根匡子さん ~前編~

言葉に敏感な宣伝マンは強い!

映画宣伝は作品の規模によってどう変わるのか?宣伝マンに必要な素質は?など、映画宣伝の基本についていろいろ教えてもらった!

KIQ:山根さんは、これまで規模感もジャンルも様々な作品の宣伝を担当されていますが、作品の規模によって宣伝はどのように変わるのでしょうか。

山根:単純に予算が変わるので、それに伴い広告費が大きく変わってきますね。

KIQ:具体的にはどう変わるのですか。

山根:そもそも作品の規模が異なるとターゲットの考え方も違ってくるので、広告費の使い方も必然的に違ってくるんです。主にミニシアターで上映するような小さい規模の作品の場合は、その劇場自体にお客さんがついていたり、会員の方がいらっしゃったりするので、その人たちにしっかり届けて、興味を持ってもらうことが重要になってきます。かつ、ミニシアター系の映画ってどうしても都市型の興行になりがちなので、都会での認知を高めることをまずは目指す場合が多いです。

KIQ:ターゲットを絞って宣伝していくんですね。一方で、全国で何百館も公開するような作品の場合は?

山根:大規模な作品の場合は、1年に1本しか劇場で映画を観ないような人にも、観に行きたいと思ってもらうことが重要になってきます。また、届ける範囲も、全国津々浦々になるので、地域ごとに宣伝会社に動いてもらったり、広告も全国的に展開します。

KIQ:大規模な作品の場合はやることも多くて大変そうですね…。

山根:そうですね、関わる人も大勢いて、自分の目が届ききらないところでも色々動いてたりするので大変でしたね…。でも、大規模な作品でしか見ることができない景色もあるので、そこはおもしろかったです。

KIQ:大変な分やりがいも大きいのですね。映画の宣伝マンに必要な素質って何かあるのでしょうか。

山根好奇心は大事かなと思います。学生の時に映画をたくさん観たり、本を読んだり、演劇やライブに行ったりした経験が、今活きているなと感じているので、興味を持ったことには知識だけじゃなくて、実際に足を運んで感じたり、体感してみることが大事なんじゃないかなと。あとは、古臭いことを言うようですが、本は絶対に読んでおいた方が良いと思います!

KIQ:本ですか?

山根:ただ文章や活字に触れていればいいとかではなくて、校正を通って世に出ているプロが書いたちゃんとした文章です。なぜなら、宣伝マンってしゃべって作品の魅力を伝えることも大事ですけど、意外と自分で文章を書いたり、人が書いた文章をチェックしたりする機会も多いんです。言葉のチョイス1つで作品のニュアンスってすごく変わってくると思うので、そこに敏感になっておいて損はないと思います!

次は、選挙とスポーツの宣伝!? 

この20年の映画業界の変化について聞いたところ、どうやら動画の配信できる場所が増えたことは、宣伝に大きな影響を与えたようだ。
そして、山根さんが次に挑戦したいことは、選挙とスポーツの宣伝!?

KIQ:昔と比べて、映画の宣伝で大きく変化したなと思うことはありますか。

山根:たくさんありますが、特に最近感じるのは、本編の抜き映像(本編の一部をそのまま切り抜いた映像)やフィーチャレット(本編の抜き映像などを使った短い特番的なもの)など、予告編だけではなく、本編を多く見せないと興味を持ってもらいづらくなったなと。昔は基本的に予告編とメイキングだけだったと思うんですよね。そもそも動画を出す場所が今よりも少なかったので。

KIQ:確かに、YouTubeとかないですもんね!動画を出す場所が増えたことは宣伝にとっては大きいんですね。

山根:そうですね。ただ、監督によっては「こんなに本編を見せてしまうんだ…」と仰る方もいて…。でも、その気持ちはすごくわかるなと!やっぱり作り手としては映画館で観てもらいたいわけじゃないですか。その一方で、予告だけだとお客さんに振り向いてもらいにくいという実情があるので、これでいいのかな?とモヤモヤしています。

KIQ:そこの選択は難しそうですね…。

山根:あと、この仕事を始めてから今までの間で一番変わったと感じるのは、洋画と邦画の立ち位置です。私が新人の頃って、邦画はなかなか取り上げてもらえなかったんですよ…。

KIQ:へー!この20年間でそんなに変わったんですね。

山根:今、洋画ファンの方にこの場を借りて言いたいのは、たまにSNSでミニシアター系の作品を「DVDが出たら観たい」と言ってる方を見かけますが、最近はDVD化しない作品もたくさんあるので、そういったインディペンデント系の作品ほど、ぜひ映画館に観にいってください…!!映画館で公開されているときに観てもらえないとDVDや配信になるどころか、そもそも日本で公開するために買い付けることすら難しくなるので

KIQ:なるほど…それはぜひとも観に行っていただきたいですね!
話は変わりますが、業界に対してもっとこうなったらいいなと思うことはありますか。

山根:お客さんを長い目で育てるために、小さい時から映画館で映画を見る機会を提供するということを業界全体で何か取り組めないかなと昔から思っています。私が子供の頃は、映画館に行って映画を観るという課外授業があったんですよ。

KIQ:それはすごく良い経験になりそうですね!

山根:あと、いちユーザーとしてすごく思うのが、シネコンのタイムテーブルをもう少し早く出していただけないだろうかと…(苦笑)と言うのも、先日X(旧Twitter)で「映画館のスケジュールって、なぜこんなに出るのが遅いの?」ってつぶやいてる人がいて、それに賛同している人が結構いたんです。劇場さんも色々大変なのは理解しているつもりですが、ユーザーとしてなかなか休日の予定を立てられないなど不便に感じることも実際多く、劇場さんにとってもそれは機会損失に繋がるのではないのかなと…。

KIQ:それ、すごくわかります!何か改善策があるのであれば、業界全体で協力してどうにかしていきたいですね。最後に、山根さんの今後の展望について教えてください!

山根:映画の宣伝に軸足を置きつつ、ご縁があれば映画以外の宣伝もやってみたいなと。具体的に言うと、スポーツと選挙に興味があるんです。

KIQ:選挙ですか!?

山根:選挙って雑に言っちゃうと陣取り合戦なので、ちょっとしたスポーツ観戦に近い感覚があって好きなんですよ。選挙プロモーションとか、立候補者の選挙プランナーとか面白そうだなと思っています。それで投票率を高めることにも貢献できたらなと。

KIQ:選挙にはそういった見方もあるのですね。

山根:スポーツは単純に好きだからで、野球かラグビーの広報に興味があります。とはいえ、映画もまだ経験したことのない規模の作品を勉強したいですし、これまでお世話になった人ともう一度一緒に仕事をして、成長した姿を見てもらいたいなと思っているので、これからも引き続き頑張りたいです。

 

★【ENDROLL】「私は超ラッキ・ーガール!」山根匡子さん ~前編~

 

【Information】


密輸 1970』7月12日(金)新宿ピカデリーほかにて全国公開
『モガディシュ 脱出までの14日間』のリュ・スンワン監督が衝撃の実話から着想を得て作り上げた海洋クライム・アクション。舞台は、1970年代の韓国の漁村クンチョン。海が化学工場の廃棄物で汚され、地元の海女さんチームが失職の危機に直面し、リーダーのジンスクは海底から密輸品を引き上げる仕事を請け負うことに。ところが税関の摘発に遭い、ジンスクは刑務所送りとなり、親友チュンジャだけが現場から逃亡。その2年後、チュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸のもうけ話を持ちかける…。巨額の金魂を巡り、騙し騙されの騙し騙されの大乱戦がはじまる!
監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソン、パク・ジョンミン、キム・ジョンス ほか
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