業界人インタビュー
【ENDROLL】「仕事で遊ぶ」スタートレーラー合同会社 横山裕一朗さん ~後編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
今回も前回に引き続き、劇場予告・TVCM・WEB動画・屋外広告などを手がけるスタートレーラー合同会社の横山裕一朗さんにインタビュー。
後編では、マルチすぎる予告編ディレクターの仕事内容や、横山さんが予告編を作るうえで大事にしていること、昔と今の予告編の違いについて伺った内容をお届けする。
★【ENDROLL】「選曲の鬼」スタートレーラー合同会社 横山裕一朗さん ~前編~
異常な作品愛と客観的視点
予告編制作についてシーンの選び方や、編集過程で意識していること、劇場用とWeb用の違いなどについて詳しく教えてもらった。
KIQ:基本的な質問で恐縮ですが、本編の中からどのシーンを予告に使うのかも予告編ディレクターが決めるのでしょうか?
横山:千差万別ですが、僕の場合だと指定されないことが多いです。やはり宣伝に使われる映像は広告の一部なので、どんな映像にしたいのか、どんな感情を引き出したいかを基準に選びます。これはクリエイターの方ならみんなそうだとは思いますが、方向性が事前に明確になっていると目指していきたい所もイメージしやすいので作りやすいです。
KIQ:本編を1回見ただけで、このシーンとこのシーンを使おう!と瞬時にわかるものなんですか?
横山:初見で自分の中に強く印象に残ったものは、やはりキラーカットとして使うことが多いですね。器用なタイプではないので、打合せを経てラフを出すときも一旦は自分がベストだと思う案を出すことがほとんどです。それに対してクライアントさんからご意見をいただき、修正を重ねていくことが多いです。
KIQ:なるほど。お仕事をご一緒させていただく度に感じるのですが、横山さんって作品への愛が異常ですよね(笑)
横山:もしかするとそうかもしれないですね(笑)でも、のめり込みすぎちゃうと客観的な視点を失ってしまうので、例えばみんなで「これは面白い!」とゲラゲラ笑ってる時こそ、一歩引いてみることは常に意識してます。でないと、内輪ウケになってしまっている可能性もあるので。
KIQ:それは横山さんが大好きなウルトラマンの作品でも可能なんですか。
横山:ウルトラに限らず、全然できますよ!もちろんコンセプトにもよりますが、コアファンにも響きつつ、作品をそこまで知らない一般の方々にも届くような映像を目指したりもします。メインタイトルまでは一般の方に向けて作りつつ、その後の公開表記との間には、コアファンだけが「あれか!」と感動や衝撃を覚えるシーンを入れてみたり。音楽もそういう使い方を時々します。あとは、一般の方にもファンの方にも、中毒性が高めで繰り返し見ていただける熱い映像や、拡散につながるネタが入っている映像を目標にしたりもします。何度も動画を見ることで作品が好きになったり、最新作への興味が湧いたりという効果が期待できたらいいなと。(例:HDリマスター版全48話をぎゅーっと凝縮!!『機動戦士ガンダムSEED』スペシャルダイジェストhttps://youtu.be/yOzhctn33-Y?si=mrXdDAbxvGC3FrCv)
KIQ:なるほど。特に昨今はコアファンにもちゃんと響く宣伝をすることも重要になってきていますよね。同じように、今と昔では予告のここが大きく変わったと感じることはありますか?
横山:業界を語れる人間ではないのであくまで個人的意見ですが、劇場だけではなく、Webへの意識は大きく変わったと思います。予告に限らず世の中の広告物への考え方が拡大したというか。もちろん僕自身も強く意識するようになりました。
KIQ: Webを意識するとどんなことが変わってくるのでしょうか。
横山:劇場で流す場合は、基本的には最後までご覧いただけると思うのですが、Webで流す場合は完全視聴してもらうことが簡単ではなかったりします。なので例えば、Web映像の1カットはキャッチーな何かで始めるよう意識しています。これは昔からそうですが品質保証の「全米No.1!」を入れたり、俳優さんの顔で始めるとか、インパクトあるナレーションを置いてみるとか。最近だと年末年始のCMで「筋肉初売り!」とかやりましたね。あとは、スマホだと無音で見る方も多いので必然的に文字量は増えます。
KIQ:そう聞くと劇場用とWeb用って全然違いますね。
横山:先程と少し重複しますが、ネタとして盛り上がったり、拡散してもらうこともやっぱり大事なので、バズってくれ!と思いながらクセのある映像・SNSでネタとして盛り上がる映像を、熟考に熟考を重ねて作ったりしています。(例:『エクスペンダブルズ ニューブラッド』「お願いマッスル」スペシャルコラボ映像https://youtu.be/8Ze79NCmliU?si=VwrQoDwxfg-FQdBM)
KIQ:この動画、最高ですよね!!(爆笑)横山さんってこれまでの過去のお話を聞いていると、仕事が趣味の延長というか、ものすごく仕事を楽しんでいらっしゃいますよね。
横山:そうなんですよ!大体の作業を楽しくやってますね(笑)この職業のままウルトラマン関連のお仕事も色々と担当させていただけて、もう一度夢が叶っています。本当にありがたいことに、良い職業に就かせていただいているなと感じています。
デトックスとしての映画体験
予告編ディレクターのマルチな才能に同業者も驚愕!?そして、映画の新たな位置づけとは?
KIQ:個人的に予告ディレクターってある意味監督業だなって思うんです。作品って普通は音響監督がいて、演出家がいて…とそれぞれの分野に専門的な監督がいますが、予告編って短いコンテンツだけど、基本的には横山さんが1人で全部監督するわけじゃないですか。
横山:会社によって異なると思いますが、僕は仕上げスケジュール管理、声優さん・ナレーターさんの手配、クライアントさんと一緒に原稿やコピーみたいなものも考えたり、編集・演出・音もつけるし、営業もするといった感じです。スタジオの人から聞いた話だと、予告編ディレクターの業務をCM制作現場の方とかに話すと「いやいや一人でそんなにできるわけないから!」と仰られたりすることもあるそうです。
KIQ:本当にマルチすぎると思います!(笑)予告編ディレクターってやっぱり業界の中でもすごく特殊な仕事ですよね。だから個人的には予告編ディレクターが映画を撮るのが実は一番良いものができるんじゃないかなと思っているんです。ある種、総合的に全部わかっている人がやることが一番すごいものができるのではないかと…。
横山:新しい観点ですね(笑)
KIQ:その場合はもちろんお一人で全てやらなくて大丈夫ですが(笑)
話は変わりますが、今後、映画業界に対してこうなったらいいなと思うことはありますか。
横山:業界の隅にいる人間としての意見でしかないですが、シンプルに映画人口が増えたらいいなと。色々と言い訳して映画館へ行くことを諦める自分もいるので、自戒の念も込めて。一昔前は映画が娯楽の王様だったかもしれないけれど、今は遊びの中の一つの手段として選択される傾向にあるのかなと。今日はどの映画を観ようか?ではなくて、今日は何をしようか?という遊びの選択肢の一つに映画があったり、そもそもなかったり。そういう方が増えている気がします。もっと映画を身近な存在にしたり、もっと映画や映画館のハードルを下げて習慣化してもらうためにはどうすべきか。これは1つの課題なのかなと。映画館で映画を観るのって、いろんなことを忘れて、映画の世界に没頭できる特別な体験じゃないですか。
KIQ:その価値は高まっている気がしますよね。
横山:だから違う切り口で、例えば、“デジタルデトックスとしての映画体験”と打ち出してみても面白いかもしれないなと。実はそれを無意識でやってらっしゃる方もいるかもしれませんが、あえて言語化して打ち出す。「スマホ疲れしてませんか?ちょっとだけ別の世界へ行って、仕事やSNSのストレスから解放されませんか?」みたいな。
KIQ:それ、すごく良いと思います!これから映画って、ヨガとかと同じ健康分野に入ってくる気がしてるんです。
横山:そのためにも、映画館での映画体験の効能を、改めてこちらから提示してみるのも良いかもしれないですよね。
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