業界人インタビュー

【ENDROLL】「トレンドはドラマ売り」合同会社Bon 本橋真由美さん ~後編~

2024-01-19更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

前回に引き続き今回も、『市子』『ケイコ 目を澄ませて』『余命10年』など多くの映画宣伝ビジュアルを制作しているデザイン会社である合同会社Bonの本橋真由美さんにインタビュー。

後編では、映画のポスターデザインはどのように制作されているのかについて詳しく聞いてみた。また、本橋さんが最近感じている、求められているデザインの変化とは?さらには、現在の仕事が性に合っていると感じる理由について語ってくれたことをお届けする。

 

★【ENDROLL】「波乱の走り出し」合同会社Bon 本橋真由美さん ~前編~

宣材撮影のジレンマ

作品の顔になるとも言えるポスターデザインは、撮影期間中に宣材として使う写真撮影の機会が設けられているかどうかによって、作業工程が大きく異なるという。撮影がある場合に直面する苦悩とは?


KIQ:現在は多くの映画の宣伝デザインを手掛けられているということですが、例えば、ポスターの場合の作業工程はどんな感じなんですか?

本橋:ざっくり言うと、作品の宣伝担当の人から宣伝コンセプトやターゲットとする年齢層などを聞いたうえで、それを加味してデザインを作っていくという感じです。

KIQ:デザインのイメージはある程度提示されるのでしょうか、それとも1から全てデザイナーである本橋さんが考えていくのでしょうか。

本橋:邦画の場合は、撮影期間中にポスターなどの宣材として使う写真撮影を行うことがあって、“特写”と言うのですが、特写の有無によって大きく異なります。特写撮影がある場合には、大体撮影に入る前から依頼を受けて、台本を元にどの辺りを押し出していくのかを宣伝部の方と決めていきます。次にそれに基づいて、特写のコンセプトとどのような構図で撮るのかを決め、特写撮影に挑みます。撮影が終わったら、その素材を使ってレイアウトを組み始めるという流れになります。

KIQ:台本を元に出来上がる本編を想像して、ポスターの画を決めていくということですが、それって実際に完成した映像を見た時に、あれ、なんか想像していたものとちょっと違うかも…となることはないんですか?

本橋それ!よくあるんです!!そういうときは残念ながら特写で撮ったものは全てボツになってしまう場合が多いです…。ただ、完成した本編では脚本が大幅にカットされていたりすることもありますし、宣伝部もこちらも出来上がりを完璧に想像するのは難しいので仕方ないんですけどね…。

KIQ:では、特写がある場合は宣伝が意図した画にすることができるというメリットがある一方で、出来上がった本編がイメージと違った場合には全部ボツになるというリスクが伴うのですね。ちなみに、ボツになってしまった場合はどうするんですか。

本橋:基本的にはスチールカメラマンさんが現場で撮った写真を使います。特写がない場合も同じで、スチールカメラマンさんが撮った素材から選んでデザインすることが多いです。

役者売りからドラマ売りへ

デザイナーにとっては大規模な作品と小規模な作品、それぞれにメリットとデメリットがあるという。その一方で、作品の規模に関わらず映画業界全体で起きているデザインのトレンドの変化について語ってくれた。

KIQ:求められるデザインは、作品の規模感によっても変わってくるのでしょうか。

本橋規模の大きい作品だとデザイン的に尖りすぎていると通らないとか、出演している役者の顔がしっかり見えるようにするとか、文字をあおっていくみたいな感じのデザインを求められることが多いですかね。単館系とか小規模の作品だと、もう少しチャレンジしたデザインができたりとか、思い切った大胆な構図でも割と通りやすいというのは若干あるかもしれないです。

KIQ:デザインする側としては、やっぱり単館系のチャレンジできる方がやりがいを感じてしまうものですか?

本橋:メリットはどちらもありますね。大作系だと予算がかけられる分、大規模な広告展開や、アイテム作成時に体裁や素材などがリッチなものにできたりすることがあります。一方で単館系はデザイン的にチャレンジができても予算がかけられない分、限られた中でアイテムを作成していく為、モヤモヤっとしたジレンマみたいなのがあったりはします。

KIQ:それぞれに良し悪しがあるんですね。

本橋:はい。でもまた最近求められるデザインがちょっと変わってきている気がしていて。

KIQ:それはどのようにでしょうか?

本橋:数年前だと“役者で売る”じゃないですけど、出演キャストの顔がたくさん載っている分割ポスターとかが多かったと思うんですが、その流れがだんだんと変わってきていて、今は1枚画でちょっとライブ感のある写真とか、もう少しデザイン性があるようなシンプルなものが割りと大作でも受け入れられるようになってきているような気がするんですよね。例えば、弊社の担当作品で言うと『余命10年』とか。

KIQ:それは何かきっかけがあったんでしょうか。

本橋:何がきっかけなのかはわからないですけど、役者売りより“ドラマ売り”という考え方に変わってきているような感覚はありますね。なので、これを機にもっと多様な新しいデザインのポスターがでてきて、その結果、もっといろんな層の人の心に作品が刺さればいいなというのは期待しています!

ハマると突っ走ります!

今と比べてまだMac(PC)の性能が劣っていた頃に、Macが原因で起きてしまった過去一大変だったエピソードとは!?また、本橋さんが今の仕事が性に合っていると感じる理由について人生を振り返って話してくれた。

KIQ:これまでで一番大変だったエピソードなどはありますか?

本橋:昔は今ほどMacの性能が良くなかったので、保存するにも逐一5分以上かかっていたんですよ。特にページものとかパンフレットになると恐ろしいくらい時間がかかっていたのですが、一度徹夜でページものの作業をしていた時に、明け方に保存しようとしたら途中でクラッシュして全部データがぶっ飛んでしまったことがあって!(泣)

KIQ:それ、絶望ですね…!

本橋:「あ”ーっ!!」みたいな(笑)まずは気持ちを整えてからやり直しましたね。Macの進歩のおかげで今はもうそんなことはないのでありがたいです。

KIQ:逆に今はいろいろな技術が発達してきて、AIがオリジナルのデザインを一瞬で出してきたりもしますが、それに対する脅威を感じたりはしますか?

本橋:脅威というよりかは、今のところすごく助かっています。例えば、PhotoshopにAI機能が搭載されて0を1にすることができたことで、すごくできる幅が広がったんです。でも確かにいずれは別にデザイナーいらなくない?みたいな感じになることもあるかもしれないですね…どうなんでしょう…。

KIQ:でも、映画のポスターって1枚で感情に訴えかけなくてはいけないものなので、デザインの中でもやっぱり人がやるべき仕事として残っていくのではないでしょうか。

本橋:確かに、誰に向かって売っていくのかということなども踏まえてデザインするとなると、結局最後に判断できるのは人だと思うので、どこかしらで残っていきそうな感じはしますよね。

KIQ:ちなみに、Macの進歩のおかげで生まれた時間や休日は何をされているんですか?

本橋:趣味に没頭してます!本当にお恥ずかしいんですけど、この年になって今BTSにどハマりしていて。それまではずっと、なんでそんなの好きなの?と言われるような、本当に斜めの趣味しか持っていなかったんですけど、急にBTSが私の人生の隙間にヒューって入ってきて!こんな正統派のアイドルを応援していいのかしら?って(笑)気づいたらもう彼らが生活の一部になっていて、最近はずっと追いかけ回しています。

KIQ:ハマるとのめりこむタイプなんですね。

本橋:突っ走りますね!高校生の時とか、お笑いにどハマりして地下芸人とか追いかけていたんですよ。一人で放課後にお笑いライブを見に行って出待ちしたり、その人が着てたTシャツを調べたりしてました。たまに自分でも自分のこと気持ち悪いなって思います(笑)

KIQ:(笑)お笑いとか音楽とか、結構昔からエンタメがお好きなんですか。

本橋:そうですね、テレビもラジオも昔から好きですし、振り返ると今までハマってきた趣味とか興味を持ってきたものって全部エンタメだったんですよね。だから、結果今の仕事が一番合ってるんだと思います。

KIQ:なぜそう思われたのでしょうか。

本橋映画の宣伝って、テレビやラジオとか他のいろいろなエンタメと繋がっているじゃないですか。例えば何か時代劇の作品だったら、自分が昔好きで読んでいた歴史小説が繋がってきたりとか。そうやっていろんなエンタメの世界に触れられるのがすごく面白いんです。

 

★【ENDROLL】「波乱の走り出し」合同会社Bon 本橋真由美さん ~前編~

 

【Information】


みなに幸あれ』(2024年1月19日)
看護学生の孫(古川琴音)は、久しりに田舎に住む祖父母の元を訪れ、家族と幸せな時間を過ごす。
しかし、祖父母の家で「何か」がいるような違和感を覚える。そして、人間の存在自体を揺るがす根源的な恐怖が迫ってくるー。
総合プロデュースは日本ホラー映画の重鎮、清水崇。

原案・監督:下津優太
総合プロデュース:清水崇
出演: 古川琴音、松⼤航也 他
(C)2023「みなに幸あれ」製作委員会

 


サイレントラブ』(2024年1月26日)
『ミッドナイトスワン』の内田英治監督による最新作。
声を捨て、毎日をただ生きているだけの蒼(山田涼介)は、不慮の事故で視力を失い絶望の中でもがく音大生・美夏(浜辺美波)と出会う。
ピアニストになるという夢を諦めない美夏に心を奪われた蒼は、彼女をすべてから護ろうとする。蒼の不器用な優しさが、美夏の傷ついた心に届き始めた時、運命がふたりを飲み込んでいく。

原案・脚本・監督:内田英治
出演:山田涼介、浜辺美波、野村周平 他
(C)2024「サイレントラブ」製作委員会

 

【Back number】
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