業界人インタビュー
【ENDROLL】「チラシと五感」三映印刷株式会社 平井忠幸さん、佐瀬亮さん ~後編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
前回に引き続き、今回も東映株式会社のグループ企業で、ポスターやチラシなど、映画・映像関連の宣材の印刷物を中心に、様々なものの制作から製品管理まで行っている三映印刷株式会社の平井忠幸さん、佐瀬亮さんにインタビューした内容をお届けする。
後編では、コロナの影響や環境保全のためにペーパーレス化が進む中で、映画業界の宣材物にはどのような変化が起こっているのかについて詳しく聞いてみた。また、世界的にもここまで根付いているのは珍しい映画チラシの存在理由とその効果について、熱く語ってくれた内容をお届けする。
★【ENDROLL】「仕事道具は人柄」三映印刷株式会社 平井忠幸さん、佐瀬亮さん ~前編~
時代が変わっても、変わらない自信
現在、世の中的にはSDGsの影響やデジタル化によって紙の消費削減が進んでいる。そんな中で、映画宣材においても印刷部数は減っているという。
平井忠幸さん
KIQ:コロナやデジタル化の影響を感じる部分はありますか?
平井:宣材物の注文部数は減ってきていますね。チラシを置かない劇場も出てきたりしていますからね。
佐瀬:ポスターもサイネージの広まりによって減ってきていますよね。
平井:ポスターは厳しくなってきていますね。サイネージだと、例えば公開日の急な変更があったとしてもすぐに修正できますけど、印刷物はそうはいかないですからね。
KIQ:やはり印刷数が減ってきてしまっているものが多いんですね。他にも昔はあったけど今はもうないものとか、刷る機会が大幅に減った宣材ってあったりしますか。
平井:昔は洋画のプレスはほぼ毎回作っていましたが、最近作った記憶はないですね。あとは、紙の前売り券も今はムビチケがあるのでほとんどなくなりましたし、駅などの交通広告もサイネージ化されたことで、B倍ポスターはほとんど作らなくなりましたね…。
KIQ:言われてみれば、昔はすごくこだわって作られたプレスもよくありましたが、今はそこまでのものはなくなりましたね。その一方で、増えているものはありますか。
平井:入場者プレゼント(通称:入プレ)は増えていますね。昔は入プレってほとんどなかったので、ここ4、5年でしょうか。入プレは普通の印刷物とは違うオペレーションでやっていかないといけないので、最近は入プレのことで頭を使っているって感じですかね(笑)
佐瀬:そうですね、何ヶ月も前から準備しています。
KIQ:具体的にどんなところに時間がかかるのでしょうか。
佐瀬:普通の宣材物より作業工程が多いので、スケジュールを組むのがまずすごく大変です。
平井:例えば、10種類のポストカードをランダムに封入して配布するとか。やっぱり劇場さんにはあんまり手をかけさせたくないっていうのが配給さんの思いとしてあるので、弊社では劇場の方が届いたものを配るだけでOKという状態にまで必ずしておくんです。
KIQ:なるほど。その梱包とかも全て御社で対応されているんですね。
佐瀬:はい。
佐瀬亮さん
KIQ:最近は作品によってはネット印刷を利用する場合もありますが、ネット印刷にここは負けない!というところは?
佐瀬:やはりクオリティーですかね。
KIQ:それってプロから見たら、これはネット印刷だなってわかるものなんですか。
平井:わかりますね。だけど、求めているデザインの質感によってはネット印刷の方が向いている場合もあります。
KIQ:へー、そうなんですね!
平井:とはいえ、今はネット印刷も進歩していると思うので一概に言えない部分もあるとは思いますが。でも一貫して管理するというオペレーションの部分はうちの特徴だと思いますので、そこは負けないかなと。
チラシは五感に訴える
世界的にみても日本のようにほぼ全ての作品でチラシが作られるのは珍しいという。一体なぜ、日本では映画チラシの文化がこれほど根付いているのだろうか。また、平井さんが長年ポスターとチラシを印刷しながら、気になっていたこととは?
KIQ:映画業界に対して何か改善して欲しいなって思うところはありますか。
佐瀬:個人的にはスケジュールですかね。やっぱりスケジュールがズレると調整が必要になったり、各所とのいろいろなやり取りが発生したりするので。
KIQ:予定通りに進むことの方が稀なんですか?
佐瀬:僕の経験上は予定通り進むことの方が少ないかと思います(笑)仕方ないことだとは思っています(笑)
平井:宣伝の方とお付き合いしていると、ズレていってしまう気持ちもわかるんですよね。他への確認や調整で苦労されていて、紙とか枚数とか、もうちょっと待って!っていう状況なんだろうなと。でも、最近は紙の在庫を仮押さえることが難しくなっていて、数が確定してからではないと押さえてもらえなくなってしまっているので、そこは早めに確定していだけるとありがたくはあります…。
KIQ:紙を確保できなくなっている原因は何なんでしょうか。
平井:コロナの影響などで紙の材料の金額が高騰してきているため、このくらい使うだろうっていう分しかそもそも紙を作らなくなってきているんです。弊社の商売なんてバラまいてなんぼなんですがね…(苦笑)時代と逆行しているなかで、今後どんな立ち位置があるかっていうのは模索していかなきゃいけないと思っています。
KIQ:個人的には、世の中的にペーパーレス化が進んでいるからこそ、逆に今チラシの価値が上がってきている気がしているんですよね。確かチラシって、日本のようにほとんどの作品で作られるのは、世界的にも珍しいですよね?
平井:海外ではほとんどないですね。あと、海外ではパンフレットも稀なので、どちらもこれだけ根付いているのは日本特有の文化です。これはなんなんですかね。
KIQ:日本人ってコレクション好きではありますよね。入場者プレゼントもチラシも集めたい!という思いがあるのかなと。
平井:それはあるかもしれないですね。日本人って1個でも足りないのを嫌がる気質がある気がしますしね。コンプリートしたい!っていう。
佐瀬:あとは、なぜかはわからないけど劇場でチラシが目に入ったらやっぱ手に取りたくなりますよね。
平井:大げさに言うと五感のどこかを刺激するのではないでしょうか。チラシって1つのストーリーとして完結しているものだし、手に持って質感があるってところでの満足感もありますし。
KIQ:確かにそうですね!映画においても配信で見た映画よりも、劇場で見た映画の方がやっぱり記憶に残りますしね。それと同じでネットやスマホで瞬間的に見た内容よりも、チラシで見た方が記憶に残りやすいというのはあるかもしれないですね。
平井:あと、少し話は変わりますが、昔からずっと気になっていたのがなぜほとんどのポスターとチラシの表は同じデザインなんだろうと。B1のデザインをB5サイズに落とし込もうとするとビリングとかすごく小さくなったりするじゃないですか。もちろんデザインを変えたら、その分関係各所の確認が発生して手間がかかるとは思いますが、たとえ画が同じだとしても、文字の置き方などB5用に変えたりするともっと作品の魅力が伝わるのではないかなと。
KIQ:言われてみれば、ほとんど同じですね!でも仰るとおり、同じである必要はないですよね。
平井:まあ、変えるとうちの作業の負担も増えるので自分の首を絞めることにはなるんですけどね(笑)
★【ENDROLL】「仕事道具は人柄」三映印刷株式会社 平井忠幸さん、佐瀬亮さん ~前編~
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