業界人インタビュー

【ENDROLL】「経験が血となる。」Bela Film 代表 宇津野達哉さん ~後編~

2023-10-17更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。

今回も前回に引き続き、『ラストレタ―』(2020)の制作や、Amazon Prime「仮面ライダーBLACK SUN」(2022)や『アンダーカレント』(10月6日公開)のメイキングディレクターなど幅広く映像制作を手掛ける、Bela Film  代表 宇津野達哉(うつのたつや)さんに伺った内容をお届けする。

後編では、宇津野さんが監督や脚本に絞らず、様々なことに挑戦している理由と、現在の日本の映画業界について感じていることついて熱く語ってもらった。

 

【ENDROLL】「映画に、生きる。」Bela Film 代表 宇津野達哉さん ~前編~

全ては、説得力のある演出のため

監督だけでなく、メイキングディレクターや脚本、スチールなど、多方面から映像制作に携わっている宇津野さん。その理由に迫ってみた。

KIQ:日本でも短編を作ろうと思ってフランスから帰国したとのことでしたが、実際に戻って来られてから短編は作られたんでしょうか。

宇津野:はい。それで作ったのが『遠い光』という作品でした。それがShort Shorts Film Festival & Asia 2019 ジャパン部門にノミネートして、 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 短編部門ではグランプリを獲得できたので、とりあえず良い結果になってよかったなと。そんな感じで監督の仕事もやりつつ、メイキングの仕事もやるようになって今に至ります。

KIQ:宇津野さんは、監督、メイキングディレクター、脚本、スチールなどいろいろやられていますが、一つに絞らないのは何か理由があるんですか?

宇津野:僕は部屋にこもってひたすら脚本を書いて、現場行って、監督して…みたいなのはあまり向かないと思っているんです。もっといろんな人と絡めるような仕事もしたいし、あとは自分でカメラやりたいというのもあるのでメイキングも続けているんだと思います。

KIQ:なるほど。

宇津野:あと、映画業界で働く色々な方と話していて改めて感じるのは、僕は本などの情報や知識で作品を作るのではなく、とにかく何でも自分で経験する方がしっくり来るなと。

KIQ:自分でいろいろ経験したうえで、それを作品に活かしたいということでしょうか。

宇津野:そうですね、もちろんその場では楽しいからやっているんですけど、どこかで絶対に映画に活きるよなとは思っています。自分で何か触ったり訪れたりとかしないと、監督として人に何か演出を伝えるときに、説得力がどうしても欠けるというか…。だから、何でもまずは自分でやりたいですね。知っているからこそ、逆にそれが邪魔になる時もあるんですけど、自分はそっちの苦労の方を選んだ方がいいかなと。

KIQ:では、一番というか根本的なところはやっぱり監督をやりたいということでしょうか。

宇津野:最近気づいたのは、もちろん映画監督や脚本もやりたいんですけど、根本は作ったもので誰かと何かを共有したり、コミュニケーションをとりたいんだと思います。

KIQ:なぜそう思ったんでしょうか。

宇津野:やっぱり人にカメラを向けることって、コミュニケーションなんですよね。向け方や、向けるタイミング一つで相手の表情や喋ってくれることって全然違うんです。だから、監督としての仕事の、一つ重要なこととして、コミュニケーションをとるのはもちろん、コミュニケーションとりやすい環境を作ってあげたりするというのがあると思っていて、それがやりがいでもあるのかなと。

日本の映画業界は限界間近…!

他国の映画業界を見てきた宇津野さんだからこそ感じる、日本の映画業界が抱える問題点とは?そして、そんな業界の未来のために宇津野さんは動き始めていた…!

KIQ:今後、業界に対してこうなったらいいなと思うことはありますか。

宇津野:あります!もう、ちょっといろいろ業界自体が限界に来てるのかなと思ってて…。

KIQ:ぜひ詳しく聞かせてください!

宇津野働き方とかいろいろなことを根本から変えていかないと、まずもう若い子たちがついて来なくなっちゃうなって。

KIQ:それは忙しさとかですか?

宇津野:忙しさもそうですし、フランスの場合の働き方でいうと、(人によりますが)スタッフは恐らく年間2、3作品ぐらい入れば、経済的にもう1年間生きていけるんですよ。なので、長くて8ヶ月間くらい働いて、余った時間で、例えば照明部の人がアニメーションの勉強したりとかってことをしているんです。

KIQ:すごく有意義な時間ですね!

宇津野:だから、向こうのスタッフって本当にレベルが高いんですよね。日本ももうちょっと変えていかないとということで、諏訪敦彦監督や是枝裕和監督が「日本版CNC(セー・エヌ・セー)設立を求める会/action4cinema」を立ち上げたりしています。その活動で、その中の知っている監督には僕がやれることは是非やらせてほしい!という事は伝えていて。そうしないと、もう映画業界自体が続けられないと思うんですよね

KIQ:日本の中だけを見ていると気づかなかったですが、他の国と比べると異常さがあるのですね…。

宇津野:最近はもうこれだけ言っても何も変わらないんだから、自分たちで行動するしかない!と思って、まずはこの業界の閉鎖的なところを改善するために、事務所にコーヒースタンドと古着屋を併設することにしたんです!

KIQ:ここにですか!?

宇津野:はい。もうオープンでやってます!みたいな(笑)一つの対外的な表現じゃないですけど、これからは映像以外のこともやっていきたいし、みんなともっとコミュニケーションをとりたいんです!というのを、コーヒースタンドを皮切りにやっていきたいなと思っていて。

KIQ:素敵ですね。日本ももうちょっと国が助成金を出してくれれば改善できるんでしょうか…?

宇津野:それよりかは、まずやらなければいけないのは、日本映画の製作本数の制限をかけることだと思います。量産すればいいというわけではなく、面白い作品を撮る人にもっと予算を割り振って、もっとクオリティが高いものをできるようにしてあげるべきなんだと思います。

KIQ:なるほど。仕組みからの変革が必要ですね。

宇津野命を削ってでもそのワンカットにかける!というのがどんどんなくなってきているように思うんです。正直、もう一般の人たちもそういう映像業界の趣向に飽きてきていると思うんですよね。もっと面白いものを見たいって思っている人が多くいると思うので、そういう人たちのためにも、我々も一つ一つのクオリティを高くしていかないといけないなと思います。

 

【ENDROLL】「映画に、生きる。」Bela Film 代表 宇津野達哉さん ~前編~

 

 

【Information】

『アンダーカレント』(10月6日公開)
家業の銭湯を継いで、夫の悟とともに順風満帆な日々を送るかなえ。しかし突然、悟が失踪してしまう。途方に暮れていたかなえだったが数日後、堀と名乗る謎の男が「働きたい」とやって来て、住み込みで働くことになった堀とかなえの不思議な共同生活が始まる。
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会

 

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