業界人インタビュー
【ENDROLL】「ポンコツ、だから無敵!」Elles Films株式会社 粉川なつみさん ~前編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
以前、松竹株式会社 映像戦略室の亀井稜さんにインタビューをした際、会社を辞めてまで、ウクライナのアニメ映画を配給しようと奮闘している同世代の女性がいると聞いた。なんてすごい人がいるんだ!と気になって仕方がなくなった編集部は、即座に取材を申し込んだところ快諾してくれた。
その方の名は、粉川なつみさん。粉川さんは、ほぼ全財産を費やしてウクライナ発アニメ映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』の配給権を個人で購入。作品を配給するためにElles Films株式会社を自ら設立した。そして、日本で初めてウクライナ発のアニメーション映画を上映することを実現させたのである。(9月22日(金)より公開)
前編では、粉川さんを動かした原動力とは?、そして、26歳という若さでそれを実現させることができた秘密に迫ってみた。
★【ENDROLL】「止められない行動力。」Elles Films株式会社 粉川なつみさん ~後編~
きっかけは、ロシアのウクライナ侵攻
粉川さんが本作を配給しようと立ち上がったのは、“使命感”に襲われたからだという。それは一体どんな“使命感”なのだろうか?
KIQ:今は、独立されてご自身で会社を立ちあげたということですが、その前は何をしていたんですか。
粉川:はじめは新卒で映画宣伝会社に入社して、その後、『羅小黒戦記』(ロシャオヘイセンキ)や『白蛇: 縁起』などのアニメ作品を配給している、中国系の配給会社チームジョイに転職しました。
KIQ:宣伝会社から配給会社に転職したきっかけは?
粉川:宣伝会社ではパブリシティやタイアップ営業などをやっていましたが、もっと映画製作の全体を見ることができるような業務に携わりたいなと思って転職を考え始めました。
KIQ:チームジョイさんのどんなところに惹かれたんですか?
粉川:チームジョイが配給した『羅小黒戦記』が限定上映ながら、スマッシュヒットしていたんです!それで、こういう作品を持ってくる会社って面白いなと思い、調べてみたら映画業界未経験の中国人が集まって設立した映画配給会社だと知って、より一層興味がわいたんです!何か映画の配給に限らずビジネス的なこともいろいろ学べそうな気がして。
KIQ:なるほど!チームジョイにはどのくらい勤めていたんですか?
粉川:1年半ぐらいいて、今回の『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』を配給することになったことをきっかけに辞めました。
KIQ:そうだったんですね。本作とはどういう経緯で出会ったんでしょうか。
粉川:チームジョイにいたときに、中国に限らず全世界のアニメ作品をリサーチするという業務をしていて、その中でたまたま見つけたんです。
KIQ:へー!そこから買付に至るまでの経緯は?
粉川:見つけた時はすぐに何かアクションを起こしたわけではなかったんですけど、その後、ロシアのウクライナ侵攻が始まった時に「あ!そういえばウクライナのアニメがあったな」と思って。取り寄せて試写をしてみたらすごく面白かったので、これは上映したいなと!
KIQ:そういった経緯だったんですね。
粉川:はい。ストーリーは単純で、子供も楽しめるような作品ですが、主人公のルスランが自分に自信が持てないけど、ヒロイン・ミラのために命をかけて戦う感じが、今のウクライナの方々とリンクしているような気がして。あと、本作のオレ・マラムシュ監督と話した時に「ウクライナ人は日本のアニメが本当に好きだから、日本での公開が決まったらみんな喜ぶと思うな」というようなことを言われて、これは私がやらなければ!と謎の使命感に襲われ、気づいたら買い付けてました!(笑)
私ってポンコツ・・・だから無敵!
独立するには経験が不十分だったと本人は話すが、それでも配給を実現した理由は間違いなく粉川さんの愛されキャラにあるだろう。取材中、終始素敵な笑顔で話してくださった粉川さんに、編集部もあっという間に心を奪われてしまった…!
KIQ:本作は、本国ウクライナではいつ公開されたんですか。
粉川:2018年です。制作したのはウクライナ・キーウにあるStudio Animagradっていうアニメーション・スタジオなのですが、本作が初の長編映画だそうです。
KIQ:ウクライナでは、アニメ制作が有名だったり、流行っていたりするんですか?
粉川:そこまで盛んというわけではないみたいなんですけど、オレ・マラムシュ監督が言うには、ウクライナでは日本のアニメがすごく人気らしく、監督自身も好きで、ウクライナのアニメーター志望の方へ日本のアニメを紹介しているそうです。
KIQ:それは日本人としては嬉しいですね!そして、その映画を配給するために、会社を辞めて、ゼロから自分で会社を立ち上げたんですよね?
粉川:はい。はじめはチームジョイで配給できないか相談したんですけど、スケジュールの都合などもあり難しかったので、じゃ自分でやるしかない!と。もちろん、私が経験不足であることは理解していたので、独立するかどうかはすごく迷いましたが、既に起業されている方に相談したら「経験はやりながらでも詰めるよ!」と言われて、「確かに!!」って思ってやめることを決意しました!
KIQ:決断力と行動力、ハンパないですね!
粉川:あと、若いうちだったら大目に見てもらえることもあるんじゃないのかなとも思って。できないことは周りに甘えて助けてもらおう!と(笑) 実際、みなさんがすごくいろいろ教えてくださって、日々ものすっごく助けて頂いています。
KIQ:人徳ですね。
粉川:いえ、私のためというよりかはみなさんウクライナのために!と言って手を貸してくださっているんですよ。なので、ちょっとプロデューサーはポンコツだけど、しょうがないか!みたいな感じでお力添えくださっているのだと思います(笑)
KIQ:いや、きっとみなさん、粉川さんだから手を差し伸べたくなるのだと思います!ちなみに、寄付などではなく、映画上映という形でウクライナを支援しようと思ったのはなぜだったんですか?
粉川:アンプラグドさんが『ひまわり』(1970)を緊急上映し、その収益の一部をウクライナに寄付されていて、そういう支援の形もあるんだ!というのを知ったことがきっかけです。(※有名なひまわり畑のシーンがウクライナで撮影された) 確かに、こういうことは映画業界で働いている自分にしかできないことだなと思ったんです!
気持ちがあれば、なんだってできる
いつだって行動力がすごすぎる粉川さんが、作品をメディアで紹介してもらうためにとった行動とは?そして、あの有名人も粉川さんに手を差し伸べた一人だった!
KIQ:日本語吹替版を上映するにあたり、吹替版の制作費用や宣伝費を募るためにクラウドファンディングを実施したということですが、その情報はどうやって広めていったのですか。
粉川:最初の頃は全然集まらなかったので、とりあえずたくさんのウクライナの方に会ったり、ウクライナ関係のイベントに参加してチラシを配らせてもらったりとか。
KIQ:ウクライナ大使館も後援されていますよね。
粉川:はい、ウクライナ大使館には電話をして、こういうことをやっていますと伝えたら、会いに来ていいよ!って言ってくださって。それで、三脚とカメラを持って大使館に行きました(笑)
KIQ:なかなかできない経験ですね!
粉川:あと、宣伝会社にいた時はWebパブリシティを担当していたので、Web媒体にはリリースを出したり、知り合いのライターさんに声をかけて載せてくださいと頼んだり、コメントをもらったりとかできたんですけど、雑誌・新聞・テレビはどうやって情報を出してもらえるかが全然わからなくて…。なので、とりあえず新聞社やテレビ番組をリストアップして、ひたすらお問合わせフォームに送りました(笑)返事が来ないところには、このコーナーで、こういう切り口で紹介するのはどうですか?みたいなことを書いて、何度も送ったりとか。
KIQ:それは相当大変だったのではないでしょうか⁉
粉川:正直めっちゃ大変でした(笑)そういえば、いろいろうまくいかずに頭を抱えながら街を歩いていた時に、俳優の齋藤工さんに偶然出くわしたことがあって。一度は通り過ぎたんですけど、この出会いも必然に違いない!と思って、走って追いかけて声をかけてみたんです!
KIQ:え!?
粉川:今やっていることを話してみたら、10分くらい話を聞いてくれて!しかも、クラウドファンディングを広めるためのアドバイスまでくださったんですよ!
KIQ: えー!?とても良い方ですね。
粉川:そのうえ、後日、図々しく本作の予告のナレーションまで頼んでみたら、ご了承してくださって!もう、好きになりますよね(笑)
KIQ: それは好きになりますね!
後編(9/22掲載予定)では、持前の行動力を活かした学生時代のエピソードから、今回の経験を通じて感じたこと、そして未来のことについて語ってくれた内容をお届けする。
★【ENDROLL】「止められない行動力。」Elles Films株式会社 粉川なつみさん ~後編~
【Information】
『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』(9月22日(金)より公開)
騎士に憧れている役者ルスランと王女であるミラは、お互いの素性を知らぬまま出会い、やがて恋に落ちる。しかし、悪の魔法使いであるチェルノモールがミラを連れ去り、ミラの愛の力を自分の魔力に変えてしまう。ルスランは、愛するミラを助けるために旅に出るが、そこには多くの困難が待ち受けていた…。
『メカバース:少年とロボット』(2023年11月17日公開予定)
シンガポール発の超大作ロボットバトルムービー。舞台は、人類が宇宙の謎を解き明かし、宇宙空間の自在な移動を可能にするゲート「ヘブンズ」が開発された時代。第二次宇宙戦争が勃発している中で、少年カイは地球を守るためにパイロットを志す。
【Back number】
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