業界人インタビュー

【FRONTIER】「学びが即戦力に変わる場所」ニューシネマワークショップ代表 高田道代さん×宣伝プロデューサー 奥村裕則さん スペシャル対談~前編~NEW

2025-08-22更新

ニューシネマワークショップ代表 高田道代さん
×宣伝プロデューサー 奥村裕則さん
スペシャル対談【前編】

映画業界の最前線で活躍する人々にインタビューする特別企画「FRONTIER 最前線」。

1997年に設立し、今年で29年目を迎える映画学校・ニューシネマワークショップ(以下、NCW)。監督や脚本家を目指す[つくる]コースだけでなく、配給宣伝のプロを目指す[みせる]コースを設け、映画の宣伝も学べる学校として、様々な映画業界を目指す人々を支え、多くの映画業界人を輩出してきた。2016年4月より、映画やエンターテインメント作品のデジタルマーケティングを手がけるフラッグが運営を担い、今年4月から、デジタルマーケティングを一層強化したカリキュラムにリニューアルしたという。

今回、フラッグの執行役員で現NCW代表の高田道代さんと、マーケティングエージェンシーのサーティースリーで宣伝プロデューサーを務め、NCWの講師も務める奥村裕則さんの対談インタビューを実施。

前編では、新たなカリキュラムで進化するNCWについて、そしてSNS黎明期から映画のオンライン宣伝に携わるふたりに、新しいツールとどのように向き合ってきたかを伺った。

学びが即戦力に変わる場所

KIQ フラッグさんがNCWに関わるようになったのはいつ頃でしたっけ?

高田: 9年前に、もともとNCWを主催していた経営者から経営を引き継いでほしいと弊社代表の久保にご相談があったことがきっかけでした。久保もNCW卒業生で、その後ずっと講師もしていてお付き合いもあった縁から引き継ぐことになりました。

KIQ 高田さんはNCWの代表をされながら、映画宣伝に関わる業務もされていますよね。

高田フラッグには映画やドラマから、アニメ、SVODのバラエティ、恋リアまで映像・エンタメコンテンツを宣伝する映画マーケティング事業部があって、その執行役員をしています。宣伝に関しては現場の統括と、映画業界のマーケティングの仕組みをどう変えていくかの取り組みなども行っています。その事業部の中にNCWがあって代表も務めていますが、立ち上げからずっとNCWを主催されていた武藤起一さんが今年の3月末で[みせる]コースのディレクターを引退されたのを機に、この4月から私が[みせる]コースのディレクターをさせていただいています。

KIQ 奥村さんは、NCWの卒業生でもいらっしゃるそうで。

奥村: 僕は、2006年に大学卒業後にすぐNCWに入って、[みせる]コースの[ベーシック]と[アドバンス]に1年間通って、株式会社スキップという宣伝代理店に入りました。今は、株式会社サーティースリーという宣伝のエージェンシーで、ブランドプロダクションという部署で宣伝プロデューサーをしています。

KIQ そして、今はNCWで講師を務められていると伺いました。

奥村: その通りです。

高田配給・宣伝を学べる[みせる]コースは、座学中心の[ベーシック]と実習中心の[アドバンス]に分かれているんですが、奥村さんには、[ベーシック]では宣伝プロデュースとはどういったものかを教えるレクチャーをしてもらっています。[アドバンス]では、受講生たちがグループワークで宣伝戦略を立ててそれをプレゼンする宣伝計画実習やプレスリリース実習、ポスター制作実習などをやっていて、そのレクチャーと講評を担当してもらっています。

奥村: 僕自身、NCWの宣伝計画の実習を通して、実際にどういうものを作っているのかが学べるのは新しかったし、あと、チームで考えていくっていうこともいい経験でした。今は宣伝プロデューサーという立ち位置なので宣伝にまつわる最終的な決定はもちろんするんですけど、そこに至るまで、みんなと会話しながら「なるほど、そういう考えがあるのか」と思ったり、作品のことを考える時間を増やし、テーマや背景などへの理解が醸成されていくような過程がステップとして必ず必要ということは、NCWで学んだ部分だと思います。そこはすごく実践にも活きてるかなと感じています。

ニューシネマワークショップ 授業の様子

KIQ なるほど。そして、4月にはカリキュラムを刷新されたんですね。

高田[ベーシック]は8割ぐらいが座学なんですが、私が引き継いだ4月からカリキュラムを組み替えて、フラッグが得意とするデジタルマーケティング領域のオンラインパブリシティ、ソーシャルメディアマーケ、デジタル広告、マーケティングリサーチの授業を組み込みました。配給や宣伝はもちろん、その他劇場編成や劇場営業の方、映画メディアの方、企業タイアップ担当の方など含め、映画業界に関わる色々な職種のプロの方に講師で来てもらい、その領域のお話を2時間していただいています。宣伝だけを知っていればいいというわけではなく、映画エンタメ業界の視座を高めてマーケティングを深く理解してもらいたいので、映画業界に関わるビジネスの全体像とその連動性、マネタイズの仕組み、それぞれの領域でどんな職種の人が具体的に何をしているのかというのを体系的に学べるようにしたんです。

KIQ いいですね!

高田: そういう知見をつけたうえで映画業界に入れるっていうのは、結構なアドバンテージだと思いますし、業界の活性化にも繋がると思うんですよね。いざ業界に入ってしまうと、逆になかなか学べる機会が少ないので。担当している領域外だと今更聞けないことも山ほどあって、私が聞いていてもすごく勉強になるんですよ。そういうことをきちんと[ベーシック]で学んだ上で、[アドバンス]でアウトプットして自分の中に落とし込んで形にするっていうところまでを1年間でやれるので、映画業界でより即戦力として活躍できるし、中長期的に活躍できるような視座をもてるカリキュラムになっていると思います。

KIQ [ベーシック]であえて色々な分野の話を聞けるような形に変えられたんですね。

高田そうですね、なぜかというと宣伝がしたいかどうかわからなくて受講する人の方が多いんです。「何かしらエンタメに関わりたいけど、宣伝がそもそも何をしているのかも分からない」という人も結構多くて。NCWの授業を一通り受けた結果、配給や宣伝だけでなく企業タイアップの職種に就職する人もいれば、エンタメ系のメディアに就職する人もいます。NCWは映画エンタメ業界で働く夢を掴みたい人を支援する学校なので、幅広く学ぶことでできるだけ選択肢を広げてあげたい、そこから自分の適性ややりがいを見極めて、何か映画やエンタメに関わってもらえたらと考えています。フラッグとしてもNCWとしても、劇場体験を日常の喜びとしてくれるような人たちを増やしていきたいという思いがあって、卒業生が映画エンタメに関わる様々な分野や職種で活躍してくれることで、それが叶えられるとも思っています。

KIQ 何か時代とともに、受講生に変化を感じられる部分はありますか。

高田学生が5割ぐらいいるときもあれば、社会人が7〜8割のときもあったり、期によって全然違うんですけど、全体的に映画に対してライトな気持ちの人が増えている印象ですね。昔はなんとか映画業界に入りたくて来ている人が多かったんですよ。たぶん奥村さんもそっち派だったと思うんですけど。

奥村: そうです、そうです。

高田今はとりあえず学んでみて、業界への就職についてはそれから考えますという人が結構増えていますね。

奥村: 確かにそうかも。選択肢のひとつとして、可能性を感じてるから来てる人も多いですよね。

高田多いですね。NCWで学べるのは映画だけじゃなくて、ドラマもアニメも全部、宣伝手法は割と近しいので、その基礎は学べるんですよ。なので、その後にアニメ業界に行ってもいいし、ドラマの業界に行ってもいい。そもそも就職は目指していなくて、いまの仕事に活かすためにエンタメ、映像コンテンツの宣伝を学ぶために来られる方もいらっしゃいますね。

奥村: すごい熱心ですよね、みんな。色々な世代の人が来るので、受講生同士の刺激もすごくあると思います。質問もいっぱいしてくれるし、逆に受講生と喋ってるとこちらも刺激になるんですよね。

映画宣伝に訪れた黒船

KIQ 映画宣伝についてもお話を伺っていきたいんですが、高田さんは2008年にフラッグの映画宣伝部署の立ち上げメンバーとして加入され、オンラインパブリシティに関わられたと伺いました。そのすぐ後ぐらいからSNSが映画宣伝にも使われていくようになる頃ですね。

左・高田道代さん 右・奥村裕則さん

高田入社当時はまだmixi、Facebook、ブログぐらいしかなかった時代だったんですが、その直後にちょうどTwitterが日本でローンチされて、宣伝としてやっていくべきだとなっていく頃でした。デジタル担当の宣伝マンとして、基本的にはオンラインパブリシティもソーシャルメディアもすべて並行してやってました。

奥村: 今みたいに業務が分かれてなかったですよね。SNSだけの担当っていう人はいなかったと思います。

高田専任がいなかったので、みんなパブリシティの宣伝業務が終わってから遅い時間にツイートしてるような時代でした(笑)。

KIQ 奥村さんが宣伝担当されていた『キック・アス』(2010)は、最初に日本の映画宣伝でTwitterが印象的に使われた作品だったような気がします。

奥村: 当時、Twitterっていうツールはあったんですけど、宣伝でどうやって使っていこうか模索してて、とりあえず「なう」とか呟く、そういう時代でした(笑)。

『キック・アス』が、Twitterを使っていこうってなったのは、当時、本国から映画の主要キャラクターたちのコスチュームが送られてくることになって、じゃあそれを着て宣伝しますっていう話になったことが大きかったと思います。僕はずっとキック・アスのコスプレをしながら、マスコミ試写の前説に出たり、あとは街歩きもやりました。そのときにTwitterが「今」をリアルタイムで出していけたので、その親和性ですよね。自分たちが街歩きをしながら呟いてれば、お客さんが一緒に盛り上がってくれて、なんなら会いに来てくれたりとかして。会いに来てくれた人にはステッカーをプレゼントしたりとかっていうのをやってました。

KIQ なるほど。

奥村: 「何日にこの辺を歩きます」みたいなことだったりとか、「東京マラソンを見学しに来ました」とか(笑)、そういう感じでした。だから、非常にTwitterとの相性がいいというのは感じました。たぶんフォロワー数とかは今の映画のアカウントほどではなかったかもしれないですけど、何かひとつ映画宣伝の指針としてできたような気がしましたね。

KIQ 語尾が「〜〜アス」みたいな感じでツイートされてたのを覚えてます(笑)。

奥村: そうそう!(笑)あれはね、Twitterに熱心な別の宣伝担当の方が(映画に登場するキャラクター、ビッグ・ダディに倣って)「宣伝ダディ」と名乗って、主軸でツイートしながら、僕もアカウントを管理させてもらって、たまにひとりで動きをとっては自分でも投稿してましたね。

KIQ その辺から映画宣伝においても時代の変化を感じるようなところがありましたか。

奥村: 当時はSNSがメディアっていう感覚はあんまりなかったと思います。「広げられる何か」みたいな感じのイメージしかなくて。雑誌やテレビ、ラジオ、新聞がメディアという認識だったんですけど、そこに新しいツールがどんどん生まれて、使い方をみんな試行錯誤していた時期だと思います。

KIQ その象徴的な一本が『キック・アス』という感じですか。

奥村: だと思いますね。本当に自由にやらせてもらってました。

高田確かに当時は自由でしたよね。今と違って、クライアントや配給確認とかも全然なかった(笑)。 宣伝会社が自由にやっていたケースはかなり多かったですよね。

奥村: 当時はまだ炎上とかもあんまり考えてなかったんじゃないですかね。

高田そういう概念もなかったですよね。そういう事象が起きてなかったから。

奥村: 僕だって、テレビ局の前とかにキック・アスのコスチュームを着て行って、職質されてる写真をTwitterに上げてたぐらいなので(笑)。もし今やったら、たぶん迷惑行為になる可能性があるからやめなさいっていう声が出てくると思う。当時はそういう意味ではおおらかでしたね。

後編(8/29UP予定)では、SNSへの意識の変化や、SNS時代における映画宣伝の在り方についてさらにお話を聞いていく。

Information

ニューシネマワークショップ
https://www.ncws.co.jp/
2025年に29年目を迎えるニューシネマワークショップは、映画を「つくる人」と「みせる人」を、どこよりも早く確実に養成する映画学校。
[つくる]コースでは、実習を中心に本格的な映画づくりのノウハウを習得することができ、『愛がなんだ』の今泉力哉監督や「silent」の脚本家・生方美久さんなど、映画やドラマの第一線で活躍しているクリエイターを多数輩出。
[みせる]コースでは、映画業界への就職を目指している人が“映画をみせる仕事”を学ぶことができ、これまでに600人以上の卒業生が映画配給会社や宣伝会社を中心に、興行や映画祭、メディアなどの様々な分野に就職し、多方面から日本の映画業界を支えている。
各コースは全て半年間で修了し、[ベーシック]と[アドバンス]の2クラスを受講しても1年間で自分の目指すところに到達できる。また、どのコースも週1日または2日のため、忙しい社会人や学生の方でも無理なく通えるコースとなっている。

◆10月から始まる新学期に向けて、説明会を順次開催!
オンラインでの参加も可能なため、忙しい方や遠方にお住いの方も気軽に参加可能。https://www.ncws.co.jp/flow/guidance/entry/

▼奥村裕則さん宣伝プロデュース担当作品

映画『九龍ジェネリックロマンス』8月29日(金)より全国公開
懐かしさが詰まった街・九龍を舞台に繰り広げられるミステリー・ラブロマンス。
https://kowloongr.jp/movie/

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