業界人インタビュー
【FRONTIER】「デジタル宣伝の可能性」株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー 芳賀健さん スペシャルインタビュー~前編~
株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー
芳賀健さんスペシャルインタビュー【前編】
映画業界の最前線で活躍する人々にインタビューする特別企画「FRONTIER 最前線」。
今回は、オンライン・プロモーションを手掛ける株式会社ガイエの芳賀健さんに話を伺った。
前職ではプログラマーだったという芳賀さんは、映画業界に入る前から、個人で映画サイトやTwitterアカウントを運営するほどの映画好き。映画業界に最初に携わったのは実はその映画サイトがきっかけだったという。前編のお話からは、そんな芳賀さんがユーザーの立場に立ち、データを重視していることがひしひしと伝わってきた。
広告の可能性とお客さんの受容態度
KIQ:気がついたら芳賀さんは長らく映画業界にいるなっていうイメージなんですけど、経歴的にはどういう感じでしたでしょうか?
芳賀:ガイエの前身のデジタルプラスに入ったのが2006年です。2006年って、まだSNSもなくて、本当に一生懸命、公式サイトを作ったり、広告のバナーを作ったりしていた時代ですね。当時デジタルの宣伝が始まったばっかりで、いろいろできることは増え始めているけど、まだ高度なことは何もできていない時代でした。あれから今までの間にこれだけ変わるのかと驚いています。
KIQ:本当驚きですよね。最初はホームページを作って、バナーを作って、他には何をやられてましたか?
芳賀:公式サイトにプラスアルファでちょっとおもしろいことをやろうって、スペシャルコンテンツを作ったり。今は大概SNSを使って投稿キャンペーンをしましょうっていう流れなんですけど、当時は公式サイトにきた人にゲームで遊んでもらったり、それこそBBS(電子掲示板)を作って書き込んでもらったり、公式サイトに来ていただいた人達にご奉仕する施策をやっていましたね。
KIQ:芳賀さんはこの仕事を始めてからそれなりにデジタルに可能性を感じてたんですか?
芳賀:当然世の中の流れ的にデジタルは主流になっていくでしょうし、まだデジタルの宣伝が確立されていない時代だったので、やれることはいっぱいあるなと思ってました。それが具体的に見えてきたのはSNSが台頭したくらいからですかね。
KIQ:SNSの台頭って、Twitterですか?
芳賀:はい。映画宣伝に使われ始めたのが2010年くらいですね。Twitterは2008年か2009年くらいから日本に来ているはずなので。ガイエの前身であるデジタルプラスとスターキャスト・ジャパンがそれぞれ担当した『キック・アス』と『テッド』が、SNSで初めて跳ねて、興行に影響をもたらしたといえる規模の作品だったかなと思います。僕個人としては『デッドプール』のSNS戦略をお手伝いできたのがとても思い出深いですね。
KIQ:芳賀さんは、新しい映画のプロモーションとか、映画を広げていく仕組みとか、具体的にはどんなお仕事をやってるんですか?
芳賀:制作ディレクターから入って、その後広告にいったんですけど、いかに情報を発信するかというところを担ってきました。広げるという意味で、公式サイトで限界を感じていたことが、広告にお金をかけることで、これだけたくさんの人に届けられるんだって、一気に視界が広がった気がします。広告はあまりにも奥が深くて、やれることがたくさんあり過ぎるので、未だに試行錯誤しています。
KIQ:今、SNSを見ていると、公式からだろうが、どこから情報が出ていても、お客さん的にはどうでもいいというところがありますよね。
芳賀:僕が重要だと思ってるのが、ユーザーがその情報を受け取る時の心理状態なんですよ。受容態度ってよくいうんですけど、受け容れ体勢が整っているかどうかがすごく重要で。特に広告は、悪く言えば押し売りじゃないですか。求めてもいない情報が勝手にやってくる。例えばスポーツの情報を求めている時に映画の広告が出てきたら、うっとうしいですよね。その情報を求めている人に、適切なタイミングで情報を届ける、すなわち受容態度を高くもっていくためにはどうしたら良いかっていうのをとにかく考えなければいけない。
KIQ:確かに。
芳賀:そのために、年代、性別でターゲティングをしたり、興味関心っていうアフィニティでターゲティングをするんですけど、それはざっくり映画が好きそうな人っていうターゲティングでしかない。全然映画館に行かないで配信だけ観てる人かもしれないし、その人の気持ちは情報がリーチしたその瞬間、別のところにあるのかもしれない。今、メディアから提供されている広告のターゲティング手法には限界があるんですよね。
KIQ:わかります。
芳賀:その中で受容態度をどう上げていくか。それは広告のフォーマットにもよります。例えば、YouTubeのインストリーム広告だったら、観たい動画の前に挟み込まれるので、うっとうしいと思われてしまう可能性が高いんじゃないかとか。そこを邪魔せずにすごくインパクトを持って飛び込んでくるようなフォーマットを開発するのが、受容態度を上げるための方策のひとつですし、いろいろやれることはあるかなと思っています。
KIQ:クリエイティブもすごく関わってきそうですね。
芳賀:クリエイティブはとても大事ですね。
KIQ:コミュニケーションの方法をクライアントなり、作る人が理解していないと全然違うのが出てきちゃいますよね。
芳賀:受容態度って数字で表れにくいところがあって。我々も受容態度を高めよう、高めようってすごくいってるんですけど、実際にこういうクリエイティブをやったから、こういうフォーマットにしたから受容態度が上がりましたっていうデータは取りづらいんですよね。もっと根本的なことを言えば、広告自体がどれだけチケット売上に貢献しているかの具体的なデータもまだちゃんと検証されていないんです。インプレッションがどう、エンゲージメント数がどうっていう数字を眺めているだけで答えは出ないので、別の要素を合わせて分析することで、少しずつその解を導き出したいと試行錯誤しているところです。
KIQ:あと配信のサブスク寄りになっちゃって、どうやって映画館で観てもらうのかっていうのもありますね。
芳賀:業界の底上げですよね。作品の宣伝一つひとつに関わらせてもらっているのは有意義で全力投球なんですけど、一方で映画業界全体で、映画を鑑賞するってことに対するプランディングをする必要があるかなと思います。ジェームズ・キャメロン監督やデイミアン・チャゼル監督がいってるんですが、映画館で映画を鑑賞するのって、ある種の「契約」なんじゃないかと。要するに映画というアートに対して支配権を委ねる、その時間は鑑賞しかできない状態になるということが、映画館で映画を観る一つの醍醐味なんだと、名匠たちは言ってるんですね。家で、配信で映画を観る時って、まわりに誘惑が多くて集中して鑑賞しづらいじゃないですか。何でもできる時代だからこそ、限定された、映画のためだけに時間を預けますっていうことは、他ではなかなかないのかなって。決してスクリーンが大きいとか、音響が良いとか、ただそれだけではない魅力があると思うんですよね。そういった価値をいかに発信していけるかが重要だと思っています。
KIQ:映画を底上げしたいというのは、芳賀さんの根底にあるものなんですね。
芳賀:そうですね。でも、映画館至上主義で配信はダメだというつもりもないですし、広く作品を楽しんでいただけるような環境を作るお手伝いができたらと思います。
後編では、芳賀さんが考える、日本の映画市場の今と未来についてお話を伺う。
★【FRONTIER】「映画市場活性化の2つの鍵」株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー 芳賀健さん スペシャルインタビュー~後編~
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