業界人インタビュー

【FRONTIER】「映画市場活性化の2つの鍵」株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー 芳賀健さん スペシャルインタビュー~後編~

2023-10-02更新

株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー
芳賀健さんスペシャルインタビュー【後編】

映画業界の最前線で活躍する人々にインタビューする特別企画「FRONTIER 最前線」。

前回に引き続き、オンライン・プロモーションを手掛ける株式会社ガイエの芳賀健さんに話を伺った。

では、中国やハリウッドの映画市場にも話が及んだ。さらに芳賀さんは今の日本の映画市場をどう見ているのか、映画宣伝という立場でこれから何をすべきなのか、話を伺った。

★【FRONTIER】「デジタル宣伝の可能性」株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー 芳賀健さん スペシャルインタビュー~前編~

映画市場活性化の鍵はデータドリブンとファンカルチャー

KIQ最近、映画宣伝で大きく変わったなというところはありますか?

芳賀SNSの誕生によってウソがつけなくなったというのは、大きな変化かもしれません昔こんなすごい宣伝をやったみたいな書籍を読んだり、お話を聞くと、時に大ボラと呼びたくなるような、とんでもないことをやってましたよね。

KIQ『Mr.Boo!ミスター・ブー』とか1、2,3ってあるけど、全然違う映画ですからね(笑)。昔はそういう宣伝もありましたよね。

芳賀:そういう宣伝が武勇伝としてはすごくおもしろくて羨ましいなと思いつつ、今はそういうことができないじゃないですか。洋画は本国で作品の評判が知れ渡っちゃうと、仮にイマイチだった時に、「全米が大絶賛」とか宣伝してもバレちゃうし。そういうなかで宣伝って何をすべきなんだっけっていうのは大きく変わったと思います。

KIQそういう変化も踏まえて、芳賀さんが今やっていること、おもしろいと思っていること、問題だと思っていること、チャレンジしようと思っていることはありますか?

芳賀業界内のあれこれを調査、分析してレポートにまとめて、それを各配給会社さんにレビューするっていうのをここ数年やっています。最近まとめたのは中国の映画市場が今どうなっているのかっていう内容で。中国の映画市場ってとにかく検閲されまくって、政府が完全に牛耳っていて、遅れてきた市場だからどうせDX(デジタルトランスフォーメーション)も進んでないんだろうって、そんなイメージだったんですけど、全く違ってたんですよね。

KIQえ〜っ!

芳賀DXされまくっていて。よくよく調べてみたら、中国の映画市場って2010年代くらいからなんですよ、上がってきたのが。遅れてやってきた分、最初からDXを前提に市場が形成されていて、中国では宣伝にしろ何にしろ、全部データドリブンになってるんです。それがすごく衝撃的で、日本は相当おいてかれたなって。

 

KIQそれはショックですね。

芳賀ただ身近にそういう成功事例があって、良いところはどんどん取り入れていきたいなって。具体的にはまさに我々がやっている宣伝を今まで以上にデータドリブンにするために、環境をどういう風に整えるかっていう話です。日本にもまだ活用されていないデータがあって、そのたくさんある資産を掘り起こしたいなという気持ちでいます。それは宣伝だけじゃなくて、もっと大きな市場のシステムにも活用できると思っていて。中国では、時間とか作品によって料金が変わるダイナミックプライシングが普通になってるんですけど、じゃあ料金の適正値ってどこなのって時に、感覚で決めるわけにはいかない。そこが全部データ化されてるんです。過去の作品でこういう人達が来てるので、この時間帯はこのくらいの人達がくるっていうデータがあるから最適な料金割り当てられるんです。データ活用がそこまでいくと業界全体の売上にも影響してくるので、どこまで何ができるかっていうところで、まずは我々が挑戦して提案したいなって思っています。

KIQおもしろい!

芳賀映画宣伝を17、8年やってきて、実は業界についてまだまだ知らないことばっかりだなっていうのをここ数年で痛感しているんです例えば、2022年の映画市場がどうだったかというレポートをまとめた時に、そもそも今日本に劇場が何館あって何スクリーンあって、座席数は何席あるのかって、ざっくりとしか認識できてなかったことに気づきました宣伝して市場に送り込む作品が何スクリーンで何回上映されているのか。ブッキングによって興行収入が変わってくるわけですから、そもそものパイがどれくらいあるのか、そのあたりの情報をぼんやりとしか捉えていなかったのは本当に不勉強だったなと。

KIQなるほど。

芳賀もっと大きな話をしていくと、日本の映画人口ってどれくらいかというのも、不可欠な情報なんですね。そこで、総務省が5年に一度やっている社会生活基本調査をベースに試算をしてみたり。総務省の調査だと、映画館で年間1〜4回鑑賞する人、年5〜9回の人…という具合にセグメントが分かれているんですけど、それぞれの層に何人くらいのユーザーがいるのか、それぞれの層の人達が生み出す年間興行収入のシェアってどうなのかっていうのをシミュレーションしていくわけですそこから、映画人口を底上げしようとするなら、どの層を何人くらい増やす必要があるのかっていう話を考えていく。

 

 

KIQこの層だったら結構いけそうとか、実際に見える化するって、すごく大事ですね。

芳賀例えば、2022年って100億円コンテンツが4本あったので、年間1本しか観ない人でも来やすい映画がたくさんあったんです。逆に年5〜9回、年10~19日鑑賞する人達がちょっと減ってしまっている。その層が観に行く映画って、コロナ前だったら興収10億円台の作品なんですよ。事実、10億円台の作品が2022年には激減してるんですよね。コロナ前から半分くらいまで数が減っています。

KIQ洋画ですか?

芳賀世間的には洋画の勢いが衰えているように見えていると思いますが、実は邦画実写が1番苦戦してるんです。2022年に拡大公開された洋画は全部で37本ありましたが、そのうちヒットの目安とされる10億円を突破した作品は14本ありました。一方、邦画は57本中11本とヒットの確率が洋画よりもかなり低くなっています。ただ、洋画も邦画実写も、10億円台の作品がとても少ない。

KIQメガヒットか、そうじゃないかってところで、二極化しちゃってるんですね。

芳賀北米の市場も2022年1年間を分析すると似たような傾向なんですが実は日本よりずっと両極端なんです。元々ハリウッドって、オープニング週でどれだけ稼ぐかっていう文化なので、インパクトがある作品でないとなかなか成功っていいづらいところはあるんですよね。だから、『ジュラシック・ワールド』とか見た目も派手で知名度もあるシリーズ作品がどうしても強くなる。その傾向がコロナ後、より顕著になりました。さらにインディペンデント系の小さいアート作品にお客さんが全然入らなくなってるのも問題なんです。昔はニューヨーク、ロサンゼルスの5館だけでやってるような作品でも1館あたりのアベレージが何万ドルっていう大ヒット作品がたくさん出ていたんですけど、そういった作品が集客に苦戦している。ウェス・アンダーソン作品とか、本当に極一部の超ビッグネームの作品しかヒットしなくなったんです。

KIQ日本以上にミニシアターがやばいですね。

芳賀そうなんですよ。配信の影響も多分にあると思います

KIQでも逆にそのごく一部の頑張って映画館で観てる人達に何かできそうな気がしますよね。最近の人って何回も同じ映画を観る人がいるじゃないですか。

芳賀ファンカルチャーですねこれって映画業界だけじゃなくて、日本全体がファンカルチャー市場化していますよね。以前はこれがごく一部の人達によるムーブメントでしたが、今やどんな市場でも多数派になっている気がします。映画館で100億円を超える大ヒット作が生まれるのも、こうしたカルチャーとは切り離せないと思います。それも時代の流れの一つですし、彼・彼女達にどう寄り添うのか、その欲求をどう満たしてあげるのかも重要な課題だと思っています。

KIQでは最後に、映画業界はこうなるっていう予言をお願いします(笑)。

芳賀僕は楽観的にいえば、映画館で映画を鑑賞する魅力ってちゃんと伝わって、お客さんはもっともっと増えると思うんです。そのためにはいろいろな魅力を業界全体でブランディングして発信していくってことも必要だと思うし、ちゃんと発信すべき魅力が間違いなくあります。そこをちゃんと伝えていくことが、我々の使命かなと。自分の子ども達もちゃんと映画館に足を運ぶように育っているので、若い子達にもそれなりに伝わっているっていう手応えもあります。配信ともうまく棲み分けて、両者ともうまく成長していける未来を僕は信じています。

 

★【FRONTIER】「デジタル宣伝の可能性」株式会社ガイエ常務取締役/プロデューサー 芳賀健さん スペシャルインタビュー~前編~

 

 

【関連記事】
ガイエ主催「映画サイト オンラインカンファレンス2023」レポート

【Back number】
【第3回】ジョーカーフィルムズ代表取締役/プロデューサー 小池賢太郎さんスペシャルインタビュー「人の本質が問われる時代にー」~後編~
【第3回】ジョーカーフィルムズ代表取締役/プロデューサー 小池賢太郎さんスペシャルインタビュー「ピンチは挑戦の好機」~前編~
【第2回】全興連 /佐々木興業(シネマサンシャイン) 佐々木伸一会長スペシャルインタビュー 「語り部文化を伝承するー。」~後編~
【第2回】全興連 /佐々木興業(シネマサンシャイン) 佐々木伸一会長スペシャルインタビュー「生き残るためにはー。」 ~前編~
【第1回】藤井道人 監督×石山成人 宣伝P スペシャル対談「世間知らず、だから出来たこと。」~後編~

【第1回】藤井道人 監督×石山成人 宣伝P スペシャル対談「宣伝をこだわり尽くす」~前編~

 

すべてのバックナンバーはこちらからご覧いただけます!

不明なエラーが発生しました

映画ファンってどんな人? ~ライフスタイルで映画ファンを7分析~
閉じる

ログイン

アカウントをお持ちでない方は新規登録

パスワードを忘れた方はこちら

閉じる