業界人インタビュー
【ENDROLL】「映画の人格」ぴあ編集部 中谷祐介さん ~前編~
この業界、とにかく面白い人が多い。
そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!
今回は、映画・音楽・スポーツ・演劇などのイベントのチケット販売を中心に、ライブ・エンタテインメントの領域にて幅広い事業を展開しているぴあ株式会社のぴあ編集部 中谷祐介さんにインタビュー。
前編では、業界に入る以前から大の映画好きだという中谷さんが、仕事を通じてどのように映画と向き合っているのかについて語ってくれたことをお届けする。また、幅広い知識をお持ちの中谷さんが、情報過多な社会で生きていくうえで大切にしていることについて教えてくれた。
★【ENDROLL】「業界の存在危機」ぴあ編集部 中谷祐介さん ~後編~
作品の人格を探る
長年「ぴあ」の編集に携わっている中谷さんに、仕事のやりがいについて聞いてみた。すると、人生の価値観もみえてきたー。
KIQ:ぴあさんにはどのくらい勤められているんですか?
中谷:入ったのが2007年の6月なので、もう16年くらいですかね。
KIQ:どういった経緯で入社されたのでしょうか。
中谷:元々は大学を出てから10年間、システムエンジニアとして自動車保険のシステムを作る仕事をやっていたんです、車の免許は持ってないんですけど(笑)。子どもの頃から映画はすごく好きで、働きながら年間350〜400本ぐらい映画を観ていたので、それであれば1度映画関係の仕事をしてみるのもいいんじゃないか、と思ったのがきっかけです。
KIQ:へー!今とは全く違うお仕事をされていたんですね。現在はどんなことを担当されているんですか。
中谷:今はぴあのアプリとWebの記事を作るのがメインですね。編集者の方の中には記事を書かない方もいらっしゃると思うんですけど、僕の場合は自分でインタビューもするし、文章も書くし、掲載作業もします。
KIQ:コンテンツ周りは全て担当されているのですね。元々ライター業務にも興味があったのですか。
中谷:入社当初から管理系や運用系より、コンテンツを作ることがやりたいっていうのはあったので、そこはずっと変わらないという感じですかね。
KIQ:コンテンツを作るやりがいは?
中谷:映画は作品ごとに魅力が異なるので、その固有の面白さは何だろうって?考えることがすごく楽しいんです。それは同時に“映画を作っているのは一体誰なのか?”を考えることでもあったりします。
KIQ:それはどういう意味でしょうか?
中谷:映画って、監督が一人ですべてを作っているわけではなくて、プロデューサーや脚本家、俳優もいれば、現場で台車を動かしている人も広い意味では映画を作っている人ですよね? そう考えると、この映画を作ってる人間は一体、誰なんだろう?って思うわけです。世の中には「法人」って言葉がありますけど、会社という組織は社長だけでなく、いろんな人が集まって成り立っていて、それを社会で動かしていく上で、一人の人間として見立てているわけですよね。本当は人ではないけど法“人”なわけです。
KIQ:はい。
中谷:映画も同じように、いろんな人が集まって生まれた一つの人格みたいなものがあるのではないか?取材をしたり作品が紹介される際には監督が代表者として出てくるわけですけど、たぶん映画は監督の意志だけでは成立していない。だから、映画そのものと向き合うっていうことが僕の仕事なのかもしれない、と思っています。監督が考えてもいないことが、多くの人間の関わりの中で作品に宿ることがあると思うので。
KIQ:なるほど!
中谷:あと、僕はプライベートの時間も仕事と同じぐらい大事だと思っているので、別に仕事に対してやりがいとかはあんまり考えないようにしています。仕事にやりがいがないとダメだとか、仕事とアイデンティティが結びついていないといけないと言う人はいらっしゃいますが、僕は全くそんなことはないと思います。
KIQ:この業界にもそういった考えの人は多いですよね。
中谷:暮らしていくためにキッチリと仕事をして、仕事が終わってから自分のしたいことをする、楽しみが待っている、という方はたくさんいらっしゃると思います。そういう人がもっと報われる社会であってほしいと思います。
“無駄”が財産になる
中谷さんがハマっているという、仏像の魅力について力説!また、多くの引き出しを持っている秘密に迫ったところ、情報をインプットする時に意識していることを教えてくれた。
KIQ:大切にされているというプライベートの時間は何をされているんですか。
中谷:趣味って程ではないですけど、本を読むのが好きなので、その時間は毎日ちゃんと確保したいと思っています。あとは、寺とか仏像を見に行くことがずっと好きで、多い時は年に6回ほど京都に行ったりしてましたね。
KIQ:6回も!寺と仏像の魅力は何ですか?
中谷:ヨーロッパでは何百年経ってもまだ残っているアパートがあったりしますけど、日本はそういう発想はほぼないですよね。どんな建物も街もすぐ建て替わってしまう。それにも関わらず、“残っている”ということに興味があるんです。あと、仏像を見るとフィギュアの元祖だなと思いますし。
KIQ:フィギュアの元祖、ですか?
中谷:フィギュアというのは、あるモノだったり、何かしらの概念や想像を作り手が解釈や誇張を込めて圧縮したものですよね。それはガンダムのプラモも今のフィギュアも仏像も同じだと思うんです。仏像ってよく見ると、頭の上にさらに複数の頭が載っていたりするんですけど、解説を読むと「2つの眼では世の中のすべて、救う人すべて見切れないので複数の頭で四方を見ている」とか書いてあったりする。各パーツにはちゃんと意味が込められているんです。だから、仏像っていうのは見て楽しい、単純にカッコいいというのもあるんですけど、一種の読み解きとか解釈ができる物としても見れるんですよね。
KIQ:なんだか仏像がすごく見たくなってきました!
中谷:なので正直、信心とかは全くなくて、宗教的な興味というよりかはどういう意図を持ってそれが作られたのかを見に行くのが面白いんだと思います。
KIQ:中谷さんって、お仕事においてもそのようにいろいろな知識をお持ちという印象があるのですが、普段どうやって知識を蓄えられているんですか。
中谷:いや、普段はめちゃくちゃボンヤリしてますけどね。気づくと1時間くらい猫や「ちいかわ」の動画をみてたりすることもありますし(笑)。ただ、僕は日々入ってくる情報を、大きく2つに分けるようにはしています。
KIQ:どうやって分けているんですか?
中谷:一つは、1年後にはもう役に立たくなる情報。例えば、来年何月何日に〇〇って映画が公開されます、という情報は公開日が過ぎたらもう不要な情報ですよね。もう一つは、何年経とうと変わらずに役立つ情報です。例えば、フランス革命はどうやって始まって、その結果どうなったのか?とか。
KIQ:そのように区別するとどんな効果が得られるんですか。
中谷:二つのバランスがとれていないと、その瞬間はいろんなことを知っているんだけど、振り返ってみた時に自分の中に積み上がっていくものが何もないことになりますよね。だから、僕は何かを調べる時は“可能な限り遠回り”するようにしています。
KIQ:具体的にどのように情報を得ているのでしょうか。
中谷:例えば、ヘレンケラーに関する映画が公開されるとなった場合、まとめられた資料ではなく、まずヘレンケラーの手記か伝記を読むんです。でもそれって取材したり、仕事をする際にはほぼ役には立たないです。仕入れた情報の95%は無駄で、はっきり言うと全然効率的ではないです。でも、95%の情報は頭の中に一度入っているわけで、数年後に別の話題が出た時に、パッとその情報が役に立つということがたまにある。
KIQ:ちょっと手間をかけて本から情報を得ることが、後々大きく役立つんですね。
中谷:いろいろ話せるのは過去にどこかですごく無駄なことをしていたからかもしれません。基本的に調べ物をするときは、とにかく遠回りすること、可能な限り原点にあたることが原則です。
後編では、『RRR』のヒットを通じて中谷さんが感じたことから、現在のメディアの役割、そして仕事をするうえで常に忘れないようにしていることについて語ってくれたことをお届けする。
★【ENDROLL】「業界の存在危機」ぴあ編集部 中谷祐介さん ~後編~
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