業界人インタビュー

【ENDROLL】「私は超ラッキ・ーガール!」山根匡子さん ~前編~

2024-04-12更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

 

今回は、『パディントン』(2016)、グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~(2020)、『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』(2024)など、これまで数々の映画を担当してきた、映画宣伝プロデューサーの山根匡子さんにインタビュー。

前編では、映画の宣伝を20年近くされているという山根さんに、業界へ進むきっかけとなった素敵な出来事や、就職当初からこれまでモチベーションを維持することができている理由など、過去から今日までたっぷりと伺ったことをお届けする。

 

★【ENDROLL】「宣伝マンと言語力」山根匡子さん ~後編~

映画宣材が私の世界を色付けた

悶々としていた大学生活の中で、たまたま立ち寄ったのがミニシアターだったという。そこでの出来事が、山根さんの運命を変えたー。

KIQ:どのくらい映画の宣伝をされているんですか。

山根:業界に入ってから基本的にはずっと宣伝をやっているので20年くらいになります。今はフリーでやっていますが、2番目に就職した会社が元々出版社だったこともあり、そこで書籍の宣伝を少しだけ経験しました。

KIQ:長年映画の宣伝をされているんですね。映画業界には新卒で入られたんですか。

山根:厳密に言うと新卒じゃなくて…。元々は、ミニシアターで上映されているようなインディペンデント系の映画の買付けをやりたかったので、そういった作品を扱っている配給会社への就職を希望していたんです。でも、そういう会社は毎年新卒を雇っているわけでないので、卒業後はとりあえず英語力を身につけた方がいいかなと思い、9ヶ月ぐらいイギリスに留学していました。今思えば安易な考えですが…(笑)

KIQ:学生の時から明確に配給会社に就職したいという思いがあったのですね。そう思うようになったきっかけは?

山根:私は法学部出身なんですけど、とにかく法律の勉強が全然ダメで…(苦笑)悶々としていた時に、フラッと立ち寄ったミニシアターで見た予告編やチラシにすごくワクワクしたんです!こういう表現をすると少し恥ずかしいんですが、目の前にある窓がパタパタッと全部開いて世界が広がり、見るもの全てに色がついたような感覚がしたんです…!

KIQ:へー!映画宣材にすごく惹かれたんですね!

山根:それ以来映画館に通い詰めるようになり、次第に映画を広めることがしたいなと思い始めました。

KIQ:そういった経緯だったのですね。

山根:なので、帰国後はいろんな配給会社に「雇ってもらえませんか?」と履歴書を勝手に送ったりしてました(笑)でも、そんなやり方ではうまくいかなかったので、最終的には伝手を通じて、なんとか最初に就職した配給会社に拾ってもらったという感じです。

私は超ラッキー・ガール! 

異動によって一時期映画宣伝から離れざるを得なくなった山根さんは、なんと転職をしてまで再び映画宣伝の道へ!それほど惹きつけられる、映画宣伝の魅力とは?

KIQ: 5年ほど映画の宣伝をされた後、2社目に転職されたということですが、そこではずっと書籍の宣伝をされていたんですか。

山根:いえ、元々引き続き映画の宣伝をやりたくて転職をしたんですが、2社目はパッケージ(DVDやBlu-ray)がメインの会社だったので初めは1社目とあまりやることは変わらず、作品のリリース(媒体に作品の情報を掲載してもらうために提供する、情報をまとめた書面)を出したりとか、TVやほかの媒体での露出を狙ったインタビューを仕込んだりなどをしていました。途中で書籍の宣伝に異動にはなったのですが、やることはあまり変わらなくて、そこでも著者のインタビューを仕込んだりなど、基本的にパブリシティをしてましたね。

KIQ:そこから、再び配給会社に転職しようと思ったのは何かきっかけがあったんですか?

山根:書籍の宣伝をしている間、また映画の仕事がしたくてたまらなかったんです…!映画を観に行っても、「悔しい!私もこんな映画の宣伝をやりたい!」という思いでいっぱいになってしまって…。それで、転職を決めました!

KIQ:本当に映画宣伝がお好きなのですね!そこまで惹かれる映画宣伝のおもしろさってどんなところなのでしょうか。

山根:どの作品でも基本的な部分は同じではあるんですが、その作品をきっかけにいろんなことを知れることがおもしろいです。例えば、実話だったらその事件についてとか、洋画だったら舞台となる国についてとか。私は基本的に浅く広くの好奇心があるので、それを日々できることがおもしろいし、飽きないんです。

KIQ:とはいえ結構ハードな部分もあると思いますが、続けられているモチベーションはどこにあるのでしょうか。

山根:ハードっていうのは学生時代からなんとなくわかっていたので、はじめからこんなもんだろうという感じでした(笑)それよりも自分の運に対する感謝の方が優っているんです。私は興味がないとモチベーション上がらないタイプなので、そんな自分が「仕事にしたい」と思えるくらいに好きな映画というものに出会えて、それを仕事にできたことはすごくラッキーだなと常に感じています。

KIQ:映画業界で働くことに本当にやりがいを感じていらっしゃるんですね!ちなみに、映画の宣伝マンって、結構フリーで活躍されている方が多い印象があるのですが、フリーになった場合のメリットってどんなことがあるのでしょうか。

山根:フリーになってからはより一層いろいろな人とご一緒させてもらえる機会が増えたので、その結果いろいろな人の仕事のやり方を見て学べることがおもしろいです!

時代を超えて、作品の魅力を届ける

現在、旧作のリマスター版の宣伝をしているという山根さんに、旧作を宣伝する難しさとおもしろさについて聞いてみた。

KIQ:現在は何の宣伝をされているんですか。

山根『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』です。

KIQ:旧作の宣伝は新作の宣伝とはやっぱり違うんですか。

山根:私は旧作を宣伝するのは今回が初めてだったのですが、旧作の宣伝の場合は「新作ではなく、なぜいま旧作なのか」という決定的な理由があることが大事になってくるのではないかなと思いました。

KIQ:なるほど。

山根:『ピアノ・レッスン』に関しては、現代の感覚や価値観で見ると抵抗を感じる人もいるだろうと思ったので、キャッチコピーやチラシを考える時は「2020年代に公開することを」意識した上で、作品の核となる部分を表現することを心がけました。あと、(公開当時を知らない)2、30代向けにトークイベント付き試写会をやった時には、物語の舞台となる時代の価値観や公開当時の映画界がどんなだったかという解説をしたりとか。

KIQ:旧作だと、上映当時の価値観との違いによって作品の捉え方が変わってしまうリスクがあるんですね。

山根でも、そこが旧作の宣伝のおもしろさなんだと今回知れた気がします!

 

後編では、この20年間で業界や映画宣伝がどう変化したのかについて詳しく聞いてみた。また、山根さんがこれまでの経験を活かして、映画業界以外で挑戦してみたいと思っている意外なこととは!?

★【ENDROLL】「宣伝マンと言語力」山根匡子さん ~後編~

 

 

【Information】


密輸 1970』7月12日(金)新宿ピカデリーほかにて全国公開
『モガディシュ 脱出までの14日間』のリュ・スンワン監督が衝撃の実話から着想を得て作り上げた海洋クライム・アクション。舞台は、1970年代の韓国の漁村クンチョン。海が化学工場の廃棄物で汚され、地元の海女さんチームが失職の危機に直面し、リーダーのジンスクは海底から密輸品を引き上げる仕事を請け負うことに。ところが税関の摘発に遭い、ジンスクは刑務所送りとなり、親友チュンジャだけが現場から逃亡。その2年後、チュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸のもうけ話を持ちかける…。巨額の金魂を巡り、騙し騙されの騙し騙されの大乱戦がはじまる!
監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソン、パク・ジョンミン、キム・ジョンス ほか
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