業界人インタビュー

【ENDROLL】「映画好き女子の居場所」トーキョー女子映画部 武内三穂さん ~前編~

2025-04-11更新

この業界、とにかく面白い人が多い。

そんな気づきから、映画・エンタメ業界で働く人とその成りに焦点を当てたインタビュー企画「ENDROLL エンドロール ~業界人に聞いてみた」。
業界の最前線で働く方にインタビューを行い、現在業界で働いている人はもちろんのこと、この業界を目指している人にも刺激を与えていきたいと思う!

今回は、ウェブメディア「トーキョー女子映画部」を運営する傍ら、大学で心理学を学び、教育における商業映画の活用を研究する株式会社TSトーキョーの武内三穂さんにインタビュー!

前編では、武内さんが映画を好きになったきっかけや、「トーキョー女子映画部」誕生までの道のりについて詳しく聞いてみた。

エンタメとの出会いと憧れ

KIQ: 武内さんが映画を好きになったきっかけは?

武内 父がとても映画が好きで、子供の頃から映画館によく連れて行ってもらったり、家でも地上波放送を隣で観ていたりして、「映画って面白いな」って思ったんです。『ドラえもん』の映画とかも観に行ったし、中学生になると周りもアイドルとかにハマるから感化されて邦画のアイドル映画とかも勿論観てきました。ハリウッド映画がきっかけで映画好きになったので、ハリウッド映画はずっと変わらず好きですが、洋画・邦画、ホラーやドキュメンタリーも含めてジャンル問わず好きですね。

KIQ: お父さんの影響が大きかったんですね。

武内 はい。幼稚園の頃から洋画も含めていろいろ観ていた記憶があって、小学生の頃にはすでに「エンタメ」の世界で仕事がしたいって気持ちはありました。大学生の時は英文学科で、演劇系のゼミで「ゴドーを待ちながら」という不条理演劇を観たんです。確か先生がビデオを貸してくれて、解説なしに宿題として観たんですけど、2人の男性がただゴドーさんを待っているという内容で、「なにこれ全然わからない」「なんでこれが名作なんだろう」って思って(笑)でも、次の週に先生から複数の学説を聞いて「わーっ!すごい面白い!」と思ったんです。そこでストーリーの解釈の仕方がすごく広がりました。それは演劇だったんですけど、映画にもっと没頭するきっかけにもなりましたね。

KIQ: そういう体験って大きいですよね。

武内 ここまで没頭できるものって自分の中でそもそも希少なんです。他のことはすぐに飽きるのに、映画だけ全然飽きないから「もう私は絶対に映画の仕事じゃないと続かないな」って思いました。

やりたいことは必ず叶える行動力

KIQ: 最初から書き手というか、今のようなウェブメディアを作ることを目指していたんですか?

武内 実はちょっと俳優を目指した時期があったんです(笑)小さい時から映画の世界に入りたいと思っていたけど、まだ子供なので映画の仕事にはいろいろな仕事があるなんてわかってなかったんですよね。パッと見てわかるのは監督と俳優という職業だけで、人数的に監督って1人しかいないから難しいでしょって思って。それに対して俳優って人数が多いから「俳優のほうがなれる確率が高い」という浅はかな魂胆で、演技が好きだからという理由からではありませんでした。実際に学校では演劇部じゃなくてバスケ部に入ったので(笑)

KIQ: でも体力も必要になってきますからね(笑)

武内 当時はハリウッドスターに会えるんじゃないかってところにワクワクして、俳優になること自体の難しさや、俳優になったとしてもハリウッドスターに会えるのは相当遠い話ということに気づかずそのまま突き進んじゃって。ただ、長年それをやりたいって思い込んでいた部分もあって、やったことがないからやってみたい、何もしないで終わるるのも気持ち悪いと思って、本当は大学に進学せずに高校を卒業したら東京に行こうとしてたんです。でも、母に大学までは行ったほうがよいといわれた時に、自活できないのに親に頼って東京に行くのは違うと思い、大学までは行くと約束しました。なので就活をせずに大学卒業を機に上京して、柄本明さん主宰の「劇団東京乾電池」に研究生として入ったんです。

KIQ: 凄まじい行動力!

武内 ただ、オーディションを受けたり、劇団に研究生で入っても収入はほぼないので、上京前に貯めたお金だけでは足りないし、やはりバイトはしないといけないじゃないですか。それに映画も観たい。だからいかに映画をたくさん安く観るか考えて、レンタルビデオ屋さんしかないと思って、某大手のレンタル店でバイトしていました。その店舗の近くに中華料理屋さんがあって、昼はそこで賄いつきのバイトをして食費を節約して、夕方はレンタル屋さんでバイトしていましたね(笑)

KIQ: 掛け持ちしていたんですか!?

武内 はい、ご飯はお昼しっかり食べられるから朝と夜は適当でした。レンタルも、フルレンタル(貸し出しが多い人気作)じゃないタイトルは当時タダで借りて良かったので、食費含めて色々な面で節約ができました。しかも、一緒に働いているスタッフも同世代で映画好きな子が集まっていたから、「これ観た?」「ちょっとまだ観てない」って良い意味で競う感覚もあったんです。

KIQ: 劇団の方も順調でしたか?

武内 やってみたら全然違いましたね。私がやりたいのはこれじゃないと思いつつ、上京する際に途中で嫌になっても3年間は我慢して続けると決めていたので、一応色々試したんです。本当にやりたくないのかどうか確かめるためにオーディションも色々受けたり、舞台にも出たりして。売れるまでにはすごく努力しなきゃいけないけれど、「(努力してまで)私はこの仕事をやりたくないな」って明確に思って考え直した時に、振り返ってみると映画を観ることが好きな自分がいました。中学から高校生くらいまでの私って、映画雑誌に載っている場面写真とか俳優の写真を切ってノートに貼って、コメントをつけて雑誌みたいなものを作っていたんです。

KIQ: わかります、私もやっていました(笑)

武内 そうそう(笑)私、多分“あれ”が好きなんだと思って。求人誌を見た時にレンタルビデオ屋さん向けの販促物やフリーマガジンを作っている会社で編集者を募集していたんです。ただ私は俳優を目指していたこともあって、それまでパソコン作業とか、編集部がやりそうなことは何もやっていませんでした。

KIQ: なるほど。

武内 応募が多くきていたようで経験者優遇とされるなか、私はレンタルビデオ店でバイトをしていた経験をかわれて、営業職でどう?と言われました。編集部に応募をしたものの、とりあえず入社すれば何とかなると思い、営業ってどんな仕事なのかも知らず、自分に務まるのかすら何の保証もないのに「わかりました。営業で入りますけど、編集部に空きが出たら入らせてください」って、今考えると何様なんだという図々しいことを言って入社させてもらいましたね(笑)

願いは、映画好き女子の“居場所”

武内 自分は営業部だったけど、編集部が何をしているのかは横でいつも見ていて。そしたらある時、編集部に空きができて。だから、穴を開けないように営業の仕事もちゃんとやるので、編集もやらせてくださいってお願いしたんです。当時その冊子はほぼ“カタログ”で、一定の役割は果たしているけど読み物としては物足りなかった。なので経験のない中で、「こうしていいですか」って色々変えていきましたね。今はデータでやりとりしている映画の写真とかも当時はポジフィルムで、宅配で送ってもらうこともできるんですけど、敢えて映画会社まで取りに行って関係性を築いたりもしました。冊子には広告も入っていなかったので、その関係性を生かして自分で協賛や広告営業も始めました。

KIQ: 武内さんがどんどん開拓されていったんですね。

武内 そうですね。内容に関しても新作の紹介だけじゃなくて旧作も取り上げたかったんです。私はやはりレンタルビデオ屋さんに思い入れがあって……キャリアのスタート地点も言ってしまえばそこだし。だから、最新作に合わせて旧作を紹介するような特集を積極的に組むようにしたんです。あと、その媒体で主催するスニークプレビューのイベントもやったことがあります!

KIQ: へー! 何の作品を扱ったんですか?

武内 『テキサス・チェーンソー』です!

KIQ: ホラー映画の。

武内 初のイベント、しかも何を上映するかわからない、それなのに女子限定でやりました(笑)

KIQ: ええ!? 強すぎる!(笑)

武内 一応ヒントとしてメイキング写真を募集ページに載せてはいたんです。でも怖くないような写真を選びました(笑)調べられる人は調べられるような感じで、ただ、「何の映画かわかった後でクレームは受け付けません」とか「途中退場も可」などは書いていました。実際、2人くらい途中で抜けたけど、クレームはありませんでした。最後まで観た方々は「やられた! って思ったけど最後まで観て良かったです」とか、「自分だったら選ばないから観て良かった」って言ってくれて。そんなこんなで、前職では結構自由にやりたいことはさせてもらえていましたね。ただ、自分は会社勤めに向いていないと最初からわかっていたので、5年か10年で辞めると決めていました。結果10年を経て離職しました。本当にお世話になったので前の会社にはすごく感謝しています。

KIQ: 有言実行したんですね。

武内 その後は、フリーになるか会社を作るかで迷っていたんですけど、 “女子向け”の媒体をやるっていうことは決めていました。前職は老若男女の全方位に向けた仕事でしたが、常々「女性向け映画ってラブコメでしょ」みたいな風潮にフラストレーションが溜まっていたので、それだけじゃないってことを発信したかったんです。ただ、最初は1人でやっていたので、情報発信だけだと大きい媒体には及ばないし、同じようなことをやってもつまらないと思って。そこでふと、「映画好きな女子って他にどんな人がいるんだろう」とか「集まって交流できたらおもしろそう」と考えたんです

KIQ: そこはもしかして、『テキサス・チェーンソー』の経験がルーツになっていたり?

武内 そうですね(笑)どこか無意識に「あれがありなら……」って思っていたのかもしれません。ただ、前の会社で出していた冊子は全盛期で50万部発行していたし、歴史を重ねているから、そこが主催でイベントをやるってなった時に読者も安心して参加できたと思います。でも、個人が立ち上げたばかりのウェブメディアで急にイベントをやろうとしても警戒されるかもしれないと思ったんです。私も警戒心が強い方なので、そういう女性が大丈夫って思える状態にしないとダメだと思って。そこで個人じゃなくて会社にしなきゃいけないって自分の中で答えが出ました。それに、事務的なことではありますが、会社じゃないと映画の素材が借りられなかったり、広告や協賛の契約も直接できず仲介を入れなければいけないってこともあるので……そうなったら動きづらいと思って。

KIQ: そうして「トーキョー女子映画部」が生まれ、座談会も始まったんですね。

武内 はい。映画のPRのために座談会を行うっていう構造で始めたんですが、根本では“居場所”を作りたかったんですよね。部員さんが参加するモチベーションが試写を観ることだともわかっているんですけど、私の願いとしては映画を観なくても来てほしい。コミュニティとして成立させたいと思っています。

後編(4/18UP)に続く>

 

【Information】

トーキョー女子映画部」ウェブサイトにて【映画でSEL】の情報発信中!
https://www.tst-movie.jp/category/learning/movie-sel/

【映画でSEL】は、教育における商業映画の活用を研究をしている武内三穂が独自に考え、名付けたもの。もともと、社会情動的スキルを向上させる目的で開発されたSEL(Social Emotional Learning:社会性と情動の学習)において、商業映画を教材として活用できると考えて、研究している。今後、ワークショップの開催や学習プログラムの開発、リリースを予定している。

武内三穂 研究者プロフィール
https://researchmap.jp/miho-takeuchi2025

下記の学術論文(査読付)を掲載中。
武内三穂・向後千春(2025)映画鑑賞における態度と人生満足度の関連性.教育メディア研究,31(2): 1-14
武内三穂・向後千春(2025)商業映画の機能と価値—ユーザーが挙げた一番好きな作品と理由の分析—.人間科学研究,38(1) : 33-46

 

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