調査レポート

映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.5イベント編

2025-02-17更新

KIQ REPORTの5周年を記念し、宣伝という観点から2024年の映画を総括する「映画宣伝スペシャル座談会」。お笑い芸人/映画紹介人のジャガモンド斉藤さん映画宣伝ウォッチャーのビニールタッキーさん「ぴあ」編集部の中谷祐介さんの3名に参加いただき、2024年に日本で劇場公開された作品を対象に、①ポスター、②予告編、③キャッチコピー、④イベントの4つをそれぞれの見地から語り合った。全5回。

第5回は、イベント編!2024年も正攻法のものから奇をてらったようなものまで、数多くの様々な映画のイベントやキャンペーンが行われた。しかし、映画と乖離して面白だけが先行し、ただ衆目を集めるためだけのものでは、作品やファンを裏切る逆プロモーションにもなりかねない。座談会の最後は、宣伝をする上でも最も大切な心構えで締め括られた。

ファンをざわつかせる予想外で斬新なコラボ

──最後のテーマは、映画のイベントや企画についてです。

斉藤: ビニールタッキーさんが一番得意とする分野なので気になります!

ビニールタッキー: 珍しくて印象に残ったものを3つピックアップしました。まず1つ目は「最凶相棒秋祭2024」ですね。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版』と『ヴェノム:ザ・ラストダンス』が公開時期が近く、どちらも‟人間ではない相棒”と一緒に戦う話ということでコラボ映像が公開されたんです。これ面白かったのが、この映像が作られたことが発表されなくて、映画を見に行った一部の人の間で「あれなんだったんだろう?」と噂になった(笑)。

斉藤: 口コミで広がって(笑)。

ビニールタッキー: 当時はYouTubeに映像も公開されてなくて、劇場だけで見れる特別感があった。ソニーさんは毎回アニメや漫画とコラボもやっているのでその流れもあるとは思うんですが、ファンたちをざわざわさせる面白いやり方だなと思いましたね。

──次は、話題になったデンマークのホラー映画『胸騒ぎ』と配信ホラーゲーム「新幹線0号」のコラボを挙げられました。これはどういったものだったんでしょうか。

斉藤: これなんですか(笑)。知らないです。

ビニールタッキー: 「新幹線0号」は新幹線の中でいろいろな怪異が起きるゲームで、その中に実在の映画のポスターが貼ってあるというものなんですが、こんなのは聞いたことがない(笑)。単純に考えてみてください。例えば、マリオの中に何かの映画のポスターが出てくるなんていうのはまずないわけじゃないですか。

斉藤: 世界観おかしくなりますもんね(笑)。

ビニールタッキー: もしこれがソフトを販売するゲームだった場合、すごい前から準備しなければいけませんが、配信のゲームだからこそできたスピード感の宣伝だなと感じました。怖いゲームの中に怖いポスターが貼られていて、よく見てみると、本当に公開される映画だっていう。

斉藤: なんかちょっとメタ的な感じもありますね。

ビニールタッキー: いまホラーゲームってYouTuberとかVTuberの人がよくやっていて、実際にゲームやっている人以上にそういうファンの人たちが一緒に見てるみたいで。その層にも広げられて、実は宣伝効果が結構あるんじゃないかなって気がしましたね。

殺人鬼が安全祈願!ホラー映画の新たな定番キャンペーン

──3つ目は、殺人鬼ピエロの凶行を描く人気ホラーシリーズの第三弾『テリファー 聖夜の悪夢』ですね。

ビニールタッキー: アイコニックなホラー映画のキャラクターがお参りに行くみたいなやつが大好きで。

斉藤: 『アナベル』とかもやっていましたよね。

ビニールタッキー: 『アナベル』は人形のお祓いをしていましたね。『ハロウィン』のブギーマンも浅草寺に行ってたり、これはもう僕の中では年中行事みたいな感じで、『テリファー』のアート・ザ・クラウンも御多分に漏れず行ってくれました。

斉藤: 不謹慎なキャンペーン(笑)。

ビニールタッキー: (笑)。各地にアート・ザ・クラウンが出没するというのはよくあるホラー映画の宣伝なんですけど、個人的には『テリファー』のアドトラックが好きなんですよね。例えば『デッドプール』とかもよくアドトラックやっていますが、R-18のホラー映画のアドトラックが練り歩いているのはなかなか気合が入ってるなと思うと同時に、もっとこういうのやってくれたら嬉しいなと思いましたね。

斉藤: なに乗せて走らせてんだって感じですよね(笑)。

ビニールタッキー: あと、とにかく明るい安村さんが出られたイベントもすごいよかったですね。「全世界が吐いた。」というキャッチコピーに引っ掛けて、「安心してください、“はいて”ますよ」っていうダジャレ(笑)。考えた人は超嬉しいだろうなと思って。実現して素晴らしい。

芸能人のイベント起用はタイミングが要!

──斉藤さんは、研ナオコさんの衝撃的な特殊メイクで話題になった『エイリアン:ロムルス』の公開直前イベントを選ばれました。

 

この投稿をInstagramで見る

 

研ナオコ (Naoko Ken)(@ken.naoko)がシェアした投稿

斉藤: タレント、特にお笑い芸人さんが登壇する映画のイベントっていっぱいありますが、僕自身の立場としてはいつもすごい複雑で。僕は芸人でありながら映画大好きだから、芸人さんが出るのはもちろん嬉しいんだけど、「でもそれ映画と関係なくない?」みたいに思っちゃうイベントもある。でも、研ナオコさんがここまで振り切って、爆笑させられちゃったらねじ伏せられちゃいますよね。極端かもしれないですけど、やっぱ面白いがあれば勝ちになるなと思って。それを強烈に感じたので、2024年を振り替えるなら、これは触れとかなきゃなと思いました。

ビニールタッキー: これ、2024年で重要な宣伝ですよね。やっぱりイベントでタレントの方がいろいろな扮装をされるのはよくあることだと思うんですけど、研ナオコさんは『101匹わんちゃん』のクルエラとか異様に気合の入ったコスプレをご自身のSNSに上げられたりとかしてて、その文脈があるわけですよね。

斉藤: つまり、研ナオコさんのコスプレ最新作ってことですよね。ただ単に研ナオコさんにやらせたら面白いよねじゃない。

ビニールタッキー: そうそう、まさに研ナオコさんの作品のひとつみたいな感じになっている。

中谷: しかも、これ確かやった日が、映画公開の前日だったと思うんですよ。

ビニールタッキー: 公開のすごいギリギリだったと思います。

──仰る通り、公開前日ですね。

中谷: つまり、もう映画の内容の宣伝はもうちゃんと全部やって、最後にダメ押しとしてこれをやっているっていうところも映画ファン的には結構納得度が高くて。

斉藤: なるほど。

中谷: 例えば8月とか7月とかもっと早い段階でやっていたら、たぶん見え方は全然違いましたよね。それまで宣伝を正攻法でやってきて、映画ファンの中にしっかりと信頼を築いた上で、最後にもっと広げるためにやったというところに、何か宣伝する人たちの一種の誠実さみたいなものを感じました。

ビニールタッキー: その指摘は素晴らしいですね。確かにここに来るまで誠実というか、実直すぎるぐらいの宣伝だったんですよね。本国版とほぼ同じぐらいの渋い予告編だったり、ポスターも基本的には本国に寄った感じで、元の世界観を大事にした感じの宣伝でやってきた最後でこれですからね(笑)。

中谷: そうなんですよ(笑)。信頼できる人が面白いことを最後にやったっていう文脈がある。それをいつやるかみたいなところは見過ごされがちだけど、実は結構大事なのかなと。

ビニールタッキー: まさに大事な視点ですね。ここに来れば、もうお祭り感というか、そんな感じがします。

斉藤: 確かにこれを7月ぐらいにやられちゃうと、出オチ感があるかもしれない。

ビニールタッキー: 僕もそう思います。

中谷: ファンは、「お前そういう態度でこの映画を扱うのね」みたいに感じるかもしれないですよね。

斉藤: ですよね、舐めてんのかみたいなね。トドメが研ナオコさんだったっていうことですよね。

映画の一番の宣伝=忖度しないファン

──中谷さんは、2024年の興行収入ランキング2位の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』と6位の『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を挙げられていますが、どういった部分で印象に残ったのでしょうか。

中谷: 僕はこの話を実は今日したくて参加したと言っても過言ではないぐらい。もし、2023年にこの座談会があったら、我々は間違いなく『君たちはどう生きるか』の「宣伝しない宣伝」がどれほどの効果を生んだのか、について盛り上がったと思うんです。2024年を振り返ってみると、あれに匹敵するようなインパクトはなかったと思う。でも、映画を届けるために最も貢献した人って誰だろう?と考えたときに、僕の中にふと頭をよぎったのは『ハイキュー!!』と『ガンダムSEED』のファンだったんです。

──それはなぜですか?

中谷: 街でファンの人たちがポスターや巨大な看板の前で記念撮影したり、盛り上がってる場面を何度も見たんですよ。日本で映画を宣伝することって、まずは“その作品の存在を知ってほしい”というのが一番で、『忍たま』みたいな人気作なら、すでに知名度があるので大胆なポスターもできますけど、そうでない作品はとにかく目立つよう、誰かの目に留まるような露出になって、結果として目立ちはするけど、その映画の魅力から離れてしまったり、何かを失ってしまうことがあると思うんです。でも、『ハイキュー!!』と『ガンダムSEED』は、何も失うことのないまま大きな盛り上がりを生んだと思うんです。それを成し遂げたのは、ファンが作品を広めていったから。例えば新宿に『ハイキュー!!』の大きなポスターがあると、みんなが並んで順番に写真を撮ってはコメントと一緒にSNSに投稿して、それがまた次のお客さんを呼び込む、みたいな好循環を一番感じたんですよ。ファンの作品に対する愛とか、広い意味でのマナーのあり方をすごく感じた。なので、2024年を通して、映画を1番広めるのに貢献した人は誰だろう?って振り返ったときに、 僕は別に『ハイキュー!!』と『ガンダムSEED』の熱心なファンじゃないんですけど、両作品のファンが映画宣伝のMVPなんじゃないかと思いました。

ビニールタッキー: 推し活じゃないですけど、自分の推しているものをもっと世に知ってほしいっていうのは、やっぱりこういう固定のファンが多いところだと特にいい方向に動いていきますよね。シンプルにいいことだなと思いますね。

中谷: 『鬼滅の刃』と『THE FIRST SLAM DUNK』と『ハイキュー!!』って同じジャンプの漫画原作で、映画がメガヒットしましたが、それぞれファンのあり方は違いますよね。『鬼滅』は、僕は“いい事故”だったと思うんですよ。興行収入100億円を超える映画はすべていいアクシデントだと思っていて。『THE FIRST SLAM DUNK』は、複数の世代を導いたことでヒットになった。でも『ハイキュー!!』はそれとも全然違う。一種の推し活の勝利なんじゃないかと思うんです。『ハイキュー!!』を愛する人たちが、過剰な消費とかじゃなく、純粋に作品を愛して、語って、それが広がることで結果として大ヒットになった。

斉藤: 『コナン』もずっと興行収入が100億円に届かなくて、2023年にようやく行った。そのときもやっぱり一人一人が何回もリピートして、写真アップして、推し活で100億にどうにか行かせようみたいなムーブメントがあった気がして。映画の一番の宣伝って、忖度しないファンなのかもしれないですね。一番信頼できる宣伝媒体が、ある種そういうファンダムなのかもといまお話を聞いて思いました。

中谷: 以前、KIQ REPORTでインタビューしていただいた際にもお話したんですが、『RRR』をヒットさせたのは、配給会社でもなければ、映画館でもなければ、媒体でも評論家でもなくて、やっぱりお客さんでしたよね。『ハイキュー‼』のポスターをスマートフォンで撮ってる人とか見ると、やっぱりこの人たちも映画を広める一員なんだなと思うんです。その結果でこれだけヒットしたというのは忘れたくない出来事でした。

斉藤: 以前よりも「オタク」って言葉がいまライトじゃないですか。昔は“オタク=電車男”みたいなイメージで、男ばっかりで避けられるものだった。でもいまは女性が気軽にオタクと言える時代になって、彼女たちのオタ活・推し活が、日本の映画業界、日本の経済を動かしている感じがすごくします。

中谷: そうですよね。少し前ではそういう人たちは「カッコいいものにキャーキャー言ってるだけの人たちでしょ」みたいな偏見があったと思うんです。でも、実際はそんなことは全くなくて、彼ら、彼女たちはすごく真剣に作品を見ているし、自分なりに考えたり、各キャラクターについて考察したり、愛情を注いでいる。次から次へと映画を見て流れていく人たちよりも、実は作品に対する向き合い方がよっぽど深い気がするんですよね。 オタク=イケメンキャラがいるから好きなんでしょ、みたいな偏見って間違いで、ファンの愛情や真摯な姿勢はすごく重要で忘れてはいけないと思います。

ビニールタッキー: まさに仰る通りで、昔から「イケメンが好き」とか「アニメのかわいい女の子が好き」みたいな偏見で思われてきたけど、その人たちも作品をちゃんと見てて、何回も見てるから自分の考えや考察がしっかりある。ずっと昔からそういう人たちはいたと思うんですけど、SNSが出てきたことによって、それが可視化された。感想や投稿を見た人がまた作品に興味を持つっていう好循環が生まれてる感じがしますよね。いまの『ハイキュー‼』のお話もその象徴だなと感じます。

<完>

★ジャガモンド斉藤さんが選んだイベント/キャンペーン
『エイリアン:ロムルス』 の研ナオコさん
『グラディエーター2』予告編のビートたけしさん
HPを駆使した『踊る』プロジェクト 再始動

★ビニールタッキーさんが選んだイベント/キャンペーン
最凶相棒秋祭2024:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』と『ヴェノム ザ・ラストダンス』のコラボ
『胸騒ぎ』:ゲーム「新幹線0号」とコラボ
『テリファー 聖夜の悪夢』:神社お参り、各地出没、アドトラック

★中谷祐介さんが選んだイベント/キャンペーン
『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

【PROFILE】
ジャガモンド斉藤
お笑いコンビ『ジャガモンド』のツッコミ担当。年間約300本鑑賞する映画好き。テレビではテレビ埼玉の情報番組「マチコミ」にて映画紹介コーナーを担当。『ジャガモンド斉藤の映画宣伝にアレコレつっこむラジオ 』( K-MIX ) に出演中。YouTubeで『シネマンション』に出演中。

ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。

中谷祐介
スマートフォンアプリ&WEB「ぴあ」編集部所属。映画ジャンルのインタビュー、記事執筆、情報取材などを担当。Youtube番組「ぴあ映画コンパス」を配信中。好きな食べ物はかまぼこ。

【関連記事】
映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.1ポスター編~前編
映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.2ポスター編~後編
映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.3予告編
映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.4キャッチコピー編

不明なエラーが発生しました

映画ファンってどんな人? ~ライフスタイルで映画ファンを7分析~
閉じる

ログイン

アカウントをお持ちでない方は新規登録

パスワードを忘れた方はこちら

閉じる