調査レポート

映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.3予告編

2025-02-03更新

KIQ REPORTの5周年を記念し、宣伝という観点から2024年の映画を総括する「映画宣伝スペシャル座談会」。お笑い芸人/映画紹介人のジャガモンド斉藤さん映画宣伝ウォッチャーのビニールタッキーさん「ぴあ」編集部の中谷祐介さんの3名に参加いただき、2024年に日本で劇場公開された作品を対象に、①ポスター、②予告編、③キャッチコピー、④イベントの4つをそれぞれの見地から語り合った。全5回。

第3回は、予告編!ポスター編で話題になったポスターのテンプレート化。予告編もパターン化してきている?その中でどういったものが印象に残るのか。時代とともに変化する予告編の役割まで話は及んだ。

>>>映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.1ポスター編~前編
>>>映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.2ポスター編~後編

予告編もテンプレ化!?逸脱してこそ目に留まる?

──ポスター編に続いて、次は2024年に印象に残った映画の予告編について伺っていきたいんですが、斉藤さんと中谷さんはオカルト系YouTuberがいわくつき物件の謎に迫っていくホラー映画『変な家』を挙げられました。

中谷 映画の予告編も専門の予告編屋さんが作っているわけですが、その功罪もあると思ってて。ポスターの話とちょっと似てくるんですけど、予告編屋さんが作る予告編って綺麗でうまいんだけど、全体的に予告編自体のテンプレ感もめちゃくちゃ感じてしまうんです。そんな中で、僕は『関心領域』『変な家』の予告編を挙げたんですが、この2つはどっちも専門の業者が作っているんだろうけど、明らかにそのテンプレを逸脱することをやっている。そこに取り込まれないという点で印象に残りました。

『変な家』の予告編のすごいところは、変な間取りの家の話なんだってことしかわからないこと。『関心領域』にいたっては、「何かヤバい」ってことしかわからない(笑)。でもそれでいいんだっていうのがこの2本ですよね。予告編のテンプレ感って、ポスターに比べるとまだあまり言われないですが、ミュージックビデオのテンプレを岡崎体育さんが「MUSIC VIDEO」──監督は「寿司くん」こと、ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやさん──のミュージックビデオで暴いたように、誰かがそろそろ予告編のテンプレ感を一種の法則として見つけ出すんじゃないかという気すらしています。

──予告編も確かにテンプレあるんですよね。予告編屋さんによっては、この映画をこういう風に売りたいですと提案すると、そのパターンだとこの 5種類ぐらいありますよという風にプランを出してくれて、それから選ぶケースもあります。

斉藤: なるほど。Aコース、Bコースみたいにコースができちゃっているんですね。

ビニールタッキー: ちょっと関連するんですけど、僕は『エストニアの聖なるカンフーマスター』っていうとんでもない映画の予告編を入れたんですが、これもある意味ちょっと似てて。本国版の予告編ではストーリー順に作られているんですが、日本版はしっちゃかめっちゃか。もう時系列もバラバラになっているし、 何の話なのかも全然わからない。でもとにかくインパクトがすごいっていうことだけは伝わってくる。この映画のいいところはわけわかんないところだっていう風におそらく考えたのか、よりそのカオス感を出すような感じの予告編になっているんですよね。実際、世界観的には日本の予告編の方が合っているんじゃないかと思いました。予告編内に引用されているIMDb(世界の映画情報がまとまったオンラインデータベース)の推薦コメントがすべてを言い表していて最高なんですよね。「合わない人には合わないが、好きな人は100回観るだろう」(笑)

斉藤: 最高ですね、これ(笑)。

損をしないための保険

中谷 予告編って、それを見ることで観客が自分の中に一種の保険をかけるみたいな行為になっているんだと思う。僕は、2009年に公開された『余命1ヶ月の花嫁』が、日本の予告編史の中では、そのひとつの転換点だと思ってて。あれはもう予告じゃなくて、ダイジェストなんですよ(笑)。

斉藤: へー! ファスト映画みたいなことになってる?

中谷 そうなんです(笑)。もう予告で全部を見せている。たぶん観客にとって、それがいいという時代が来たんだなと思ったんです。内容がわかっているものを見に行く、とにかく見に行く映画をハズしたくないんだと。タイトルの通りに、嫁に余命が来て亡くなるわけですよね。治ってよかったというのはみんな求めてないわけだから、あの予告が成り立つ。それを見たときに、一種のテンプレ化というのは観客側にもあって、何かを見に行くときに損したくないから、そのマインドを測るときに予告という存在がもはやあるんだと思いました。『エストニアの聖なるカンフーマスター』とかはもう真逆なわけですよね。見に行く側が損するかもしれない(笑)。

ビニールタッキー: 全く保険ではないですよね(笑)。

中谷 『関心領域』も『変な家』も「もしかしたら損するかも」って思わせて観客が見に行っているんですよね。その「損するかも」に賭けられる尊さっていうか。

ビニールタッキー: 実際、『変な家』はヒットしてるわけですもんね。

──2024年の興行収入ランキング第8位ですね。

中谷 そうですよね。ある種それって博打だと思うんですよ。『変な家』は“置きに”行かずして勝っているっていうところにかっこよさがある

斉藤: 保険っていう意味で言うと、『変な家』は僕も挙げさせていただいたんですが、あの予告編って原作者の雨穴さんのナレーションで成り立っているじゃないですか。そのことによって、本編の感想は別としても、いい意味で公式感がちゃんとあって、原作の世界線のまんまの感覚を味わえるんだと期待させてくれた。そういう意味では雨穴さんを知っている層、YouTubeとか小説で知ってて映画を楽しみにしていた客層にとっては、それが結構保険にもなっているんだろうなと思って。その結果、Jホラー史上で一番ヒットとしている状態になったので、メディアミックスとしてすごく成功しましたよね。

中谷 その話に引きつけて言うと、2024年は、例のドラマの問題(編集部注:2023年に日本テレビ系列で放送された『セクシー田中さん』をめぐる問題)があってからだと思うんですけど、映画の宣伝の中に、その原作者がちゃんと支持していますっていうことを入れることがマストになっている印象があります

斉藤: なるほど。安心して見たいですもんね、みんな。

中谷 僕らみたいな媒体にはプレスリリースが送られてくるんですが、2024年になって映画化発表と原作者の肯定的なコメントが完全にセットになった。基本的には原作者にとって創作物は本当に自分の命みたいなものだと思うので、ちゃんとリスペクトされて映画化されていくっていう点では、ファンの人にとってもいい傾向なんじゃないかなと思います。

ビニールタッキー: 面白いですね、それ。

斉藤: 僕も雨穴さんのYouTubeからリアルタイムで追っていたタイプだったので、予告編で雨穴さん自身が出てきて、ナレーションをしているってことで安心して見れました。

──ありがとうございます。ほかに予告編に関して、言い足りていないことはありますか。

中谷 以前は、映画館の予告編って客席が暗くなってから流れていたじゃないですか。でもいまってシネコンでは、客席の電気が点いている状態でもう流れている。観客がお菓子やジュースを持ちながら客席を行き来したりしている中、言うほど鮮明ではない画質で予告編が流れているシチュエーションがあるということですよね。映画の予告編を作る人たちがどれぐらいそういうことを意識しているのか、2025年の宿題としてちゃんと考えた方がいい気がします。

<キャッチコピー編に続く>

ジャガモンド斉藤さんが選んだ予告編
『ゴジラxコング 新たなる帝国』予告編
『サユリ』予告編
『スオミの話をしよう』予告編
『変な家』予告編

★ビニールタッキーさんが選んだ予告編
『ランボートリロジー4K』予告編
『悪魔と夜ふかし』予告編
『エストニアの聖なるカンフーマスター』予告編

★中谷祐介さんが選んだ予告編>
『関心領域』予告編
『変な家』予告編

【PROFILE】
ジャガモンド斉藤
お笑いコンビ『ジャガモンド』のツッコミ担当。年間約300本鑑賞する映画好き。テレビではテレビ埼玉の情報番組「マチコミ」にて映画紹介コーナーを担当。『ジャガモンド斉藤の映画宣伝にアレコレつっこむラジオ 』( K-MIX ) に出演中。YouTubeで『シネマンション』に出演中。

ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。

中谷祐介
スマートフォンアプリ&WEB「ぴあ」編集部所属。映画ジャンルのインタビュー、記事執筆、情報取材などを担当。Youtube番組「ぴあ映画コンパス」を配信中。好きな食べ物はかまぼこ。

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