調査レポート

映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.1ポスター編~前編

2025-01-21更新

KIQ REPORTの5周年を記念し、2021年から6回目の開催となる「業界人が選ぶベスト映画宣伝」を特別に座談会形式で開催!
2024年に日本で劇場公開された作品を対象に、①ポスター、②予告編、③キャッチコピー、④イベントの4つのトピックスを設け、有識者がそれぞれの見地から記憶に残ったものをざっくばらんに語り合う座談会を行った。

今回、選者として参加したのは、独自の視点とユーモアを武器に映画の魅力を親しみやすく伝える映画紹介人&お笑い芸人のジャガモンド斉藤さん、ユニークな切り口と鋭い観察眼で「映画宣伝」を見守り続ける“映画宣伝ウォッチャー”のビニールタッキーさん、そして映画への深い愛情と確かな知識に基づいて日々情報を発信する「ぴあ」編集部の中谷祐介さんの3名。トピックスごとにあらかじめ最も印象深かったものを選んでいただき、宣伝という観点から2024年の映画を振り返った。全5回。

初回は、ポスター編! 映画愛が満ち溢れるお三方だからこそ、ポスターへの深い洞察に満ちた意見が交わされた。ポスターの役割からそれを受け取った観客への効果まで、業界人も必見の気づきの嵐をご堪能ください!

ファンに向けたひとつの暗号? 多様化するポスターの役割

──今回、2024年で印象に残った映画のポスターをみなさんに3~4本、選んでいただきました。まずは、ジャガモンド斉藤さんから伺っていきたいのですが、国際的に評価される黒沢清監督が菅田将暉さんを主演に迎えた『Cloud クラウド』のティザーポスターからですね!


 (左)ティザーポスター (右)本ポスター

斉藤: もともと黒沢清監督は好きなんですが、僕が注目したのが、『Cloud』のティザーでの菅田将暉さんの銃の持ち方。人差し指と親指でつまんでいる感じ、それに漂う社会との距離感込みで、何か一発で黒沢清イズムをめちゃくちゃ感じたんですよね。後に発表された本ポスターの方では、菅田さんが銃をこちらに向けているデザインになっていましたが、『Cloud』という映画自体が暴力とは疎遠だった主人公がだんだん後半になるにつれて、銃をしっかり持ってアクションに移っていく映画だったので、ティザーと本ポスターで、劇中の前半と後半のスタンスの変化自体をも表している感じがして、僕はちょっとグッときちゃいました。

中谷 やっぱり日本映画で銃を撃つということはどう考えても嘘になってしまうので、それをいかに映画的にやれるのかを黒沢監督はフィルモグラフィーの中でずっと考えてこられたと思うんです。過去にインタビューさせていただいたことがあるんですが、これまでもバイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパーに言及されたり、映画でしか成立しないことを描く痛快さや豊かさがあるのではないかとお話されていて、今回はそれを堂々とやってみせた。映画全体でプラスチックの銃をいかにプラスチックに見せないかっていう画作りや照明にこだわっていたと思うので、銃の持ち方も含めて、いま仰っていたところはある意味で本質を突いていると思います。

斉藤: 確かに黒沢清映画の中でも一番銃撃戦がよかったですもんね。

中谷 僕は『Chime』のポスターを挙げたんですが、2024年は黒沢監督は『蛇の道』含めて計3本映画が公開されて、どれも中身もすごいし、ポスターもかっこよくて、こういう言い方が正しいのかわかりませんが“確変”みたいな状態でしたね。

ビニールタッキー: 僕は、すりガラスの方のティザーポスターもめっちゃ好きでした。実際に劇中にある一番ギョッとするシーン。顔の見えない誰かが何かわからないけど狙ってくるような恐怖をこれ一枚で表している感じがして。

中谷 このシーンからギアが明らかに変わりますよね。極端な言い方すると、違う映画が始まったように感じる。そういう瞬間を切り取っているように思えるので、まさに仰る通りですね。

──続いて、人気アニメ「忍たま」映画史上最大のヒットを記録した『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』もティザーポスターを選ばれました。

斉藤: ちょっと変わり種ですが、忍術学園で一番ポピュラーな土井先生が描かれたティザーなんですが、その横には「迫る、白き闇。」とキャッチコピーがあって、これまでの僕らが知っている「忍たま乱太郎」とは何かちょっと違う、「大人の耐えうるアニメをやります」っていう宣言のようにぱっと見て感じたんですよね。「名探偵コナン」の劇場版のティザーって、いつも青山剛昌先生が手書きの絵でバーンと出すじゃないですか。それに文脈がちょっと似てる感じがして。もちろん土井先生が劇中でキーパーソンになるんですが、テレビシリーズが現役で続いているアニメの劇場版って、レギュラーのキャラクターを成長させたりとか、葛藤させたりとかできないじゃないですか。要はキャラクターが成長して変わっちゃうとテレビシリーズに影響が出てしまうから。そういうシリーズなのに、劇場版でちょっと土井先生やばいんじゃない?って空気をどうやって出すんだろうって思って気になって見に行ったら、かなりうまいことやっていた。劇場版としてのうまさも含めて、このティザーはインパクトがありました。

中谷 基本的にポスターって何のためにあるのかっていうと、その映画を知らない人のためにあるものだと思うんですよね、告知物だから。これだけの人が出ていますとか、こういう話の内容だとわかるようにするのが基本的なポスターの扱い方だとすると、「忍たま乱太郎」とか「名探偵コナン」とかのティザーは、つまりポスターというよりも、ファンに向けたひとつの暗号なんですよね。全員に向けて何かを言っているんじゃなくて、作品をよく知っている人に向けて、サインというかクイズみたいなものを出している。ファンと作品の間でひとつの共犯関係が生まれるツールとして、このティザーがあるっていうのは、いまっぽいなと思います。本ポスターはあまり知らない人でもなんとなくわかるようにして、二枚看板になっているところが面白い。

斉藤: じゃあ、僕はその暗号を受け取っちゃったってことですよね(笑)。

中谷 そういうことです(笑)。ティザーを見て想像が膨らんでいるわけじゃないですか。「忍たま」のことを何も知らない人から見たら、下手したら、彼が主人公なんじゃないかと思ってもおかしくない。でもそうじゃないところに気づく人が一定数いるっていうことに、このポスターの意義があるっていうか。

斉藤: そうかもしれないです。本ビジュアルだけでは僕たぶん見に行こうと思ってないんですよね。ティザーがあったから興味を持ったので、仰る通り、まんまといい観客ですね、僕は(笑)。

ビニールタッキー: やっぱり僕もこのティザービジュアルを見たときに、何かいままでとはちょっと違うことをやろうとしているなというのは感じましたね。最近はレギュラーでテレビ放送しているアニメが劇場版でシリアスなものをやる傾向もありますが、その流れで「忍たま」が来たかと。

斉藤: 仰った通り、最近だと「ゲゲゲの鬼太郎」とか、劇場版ではみんなが知っているものを何か違う角度から、シビアなものとしてやるんだっていう傾向がありますが、「忍たま乱太郎」でそれをやるのはちょっと衝撃でしたね。

半分真っ黒!? ホラー映画なのに白!? 映画ポスターの斬新な色使い

──3つ目は、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞も受賞した『関心領域』のポスター。アウシュヴィッツ強制収容所の隣の家でさも何事もないように暮らす一家を描いて話題になりました。

斉藤: 映画の内容をほぼ何も知らない状態で見たときに、ポスターの半分が真っ黒というデザインはたぶん初めてだったので、結構衝撃的で。真っ黒な部分でアウシュビッツ収容所で怖いことが起きているんだという意味にも取れますし、自分たちの関心の領域自体はもうこのカラーがついているところまでで、黒いところは関心のターゲットに入っていませんよみたいな、ダブルミーニングのように受け取れました。僕、『関心領域』を見て、目に映ってないところ、画面の外に意識を集中させなきゃと思った初めての映画体験だったんですよね。見終わった後に改めてこのポスターを見ると、より深く鋭利な角度で入ってきたポスターでした

ビニールタッキー: 僕もこのポスター、かなり好きで。まさに仰る通りで、このカラーの部分に住んでいる人たちにはここしか見えてない。でも、実は劇中でもここに住んでいる人たちはあの外をちゃんと認識しているんですよね。あそこに何かがあって、それによって自分たちが何か恩恵を受けているっていうのは意識の中に必ずある。だから逆に言うと、 この映画を見て何も感じない人はこのポスターの状態になっているよってことなんですよねこの黒いところに山ほどいろんな情報がある。このポスターみたいな状態にならないようにしないとね、みたいな感じの映画かなっていう風にも感じましたね。

──最後に人気ホラーシリーズの最新作『ソウX』ですね。

斉藤: 出オチみたいな感じですが(笑)、『ソウ』シリーズが10作目であるっていうことが視覚的にがっつりわかるのがいいですよね映画に出てくるアイテムがシリーズのナンバリングも兼ねているっていうのが最高だなと思いました。語りすぎないでこれだけインパクトがある。

中谷 『ソウ』のポスターって、映画のポスター史的には結構革命的で。要はサスペンスホラーのポスターの色って基本は黒で、それまで白は御法度だったわけですよ。ところが、『ソウ』って一作目から白なんですよね。なんでだろうと思って、『ソウ ザ・ファイナル 3D』のときに一作目からポスターを担当しているデザイナーさんにインタビューしたら、その人がホラーがすごい苦手だったからだと判明した。「ポスターを黒にしたら怖いじゃないですか」と真顔で仰っていて(笑)。

斉藤: 可愛い話だ(笑)。じゃあ、デザイナーさんが自分を守るための防御だったんですね。

中谷 『ソウ』がめちゃくちゃヒットしたから、ホラーの白系ポスターってその後に一気に増えたじゃないですか。でもその人はホラーが苦手で見ないから、しばらくそのことを知らなかったらしいんです(笑)。ホラーが怖い人が作ったポスターのデザインが結果的にここまで広まったというのもちょっと面白い。

斉藤: しかも一作目は白い部屋から始まるからズレてはないですもんね。やっぱりホラーって、ホラー好きじゃない人が広めていく節あるじゃないですか。ホラー好きの人ってやっぱりドス黒いものをどんどん求めてしまう。ライトな層に届くとホラーはすごく広まっていくから、ポスターにもそれが言えるって面白いですね。

後編に続く>

【PROFILE】
ジャガモンド斉藤
お笑いコンビ『ジャガモンド』のツッコミ担当。年間約300本鑑賞する映画好き。テレビではテレビ埼玉の情報番組「マチコミ」にて映画紹介コーナーを担当。『ジャガモンド斉藤の映画宣伝にアレコレつっこむラジオ 』( K-MIX ) に出演中。YouTubeで『シネマンション』に出演中。

ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。

中谷祐介
スマートフォンアプリ&WEB「ぴあ」編集部所属。映画ジャンルのインタビュー、記事執筆、情報取材などを担当。Youtube番組「ぴあ映画コンパス」を配信中。好きな食べ物はかまぼこ。

(c)2024 「Cloud」 製作委員会 (c)尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会 (C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television (C)2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

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