調査レポート

映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.2ポスター編~後編NEW

2025-01-27更新

KIQ REPORTの5周年を記念し、宣伝という観点から2024年の映画を総括する「映画宣伝スペシャル座談会」。お笑い芸人/映画紹介人のジャガモンド斉藤さん映画宣伝ウォッチャーのビニールタッキーさん「ぴあ」編集部の中谷祐介さんの3名に参加いただき、2024年に日本で劇場公開された作品を対象に、①ポスター、②予告編、③キャッチコピー、④イベントの4つをそれぞれの見地から語り合った。全5回。

第2回は、ポスター編の後編!ビニールタッキーさん、中谷さんの選んだポスターのお話から、日本だからこそできる個性的なデザインや仕掛け、そして日本の映画ポスターの課題が浮かび上がった。

>>>映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.1ポスター編~前編

日本だからこそできるユニークなポスターの試み

──ビニールタッキーさんは、『ツイスターズ』の4種類の竜巻にフィーチャーした“キャラクター”ポスターを選ばれました。巨大竜巻に立ち向かうアクションアドベンチャー映画ですが、確かにこれはちょっと珍しいですね。

ビニールタッキー: 最近、オールスターキャストの洋画なんかで人物ごとにポスターを一人一人作るみたいなものが結構ありますが、『ツイスターズ』のこれは竜巻をキャラクターとして捉えたのがシンプルにすごいなと思って(笑)。もともとキャラクターポスターは好きだったんですが、その流れでまさか竜巻が来るとは想像してなかったので、これはかなり好きでした。

斉藤: 誰もやってないとは思うんですけど、どの竜巻を推すかみたいな推し活もできそう(笑)。『ツイスターズ』を見ながら、1人の女の子を男性2人と竜巻で取り合う四角関係みたいな話にも見えたので、そういう意味でも“キャラポス”になっている意味がすごいある気がしますね。

ビニールタッキー: 最後もまるで恋愛関係のようにも見えましたよね(笑)。「襲来」とデカデカと書かれたティザーもよかった「襲」の中に「龍」という字が入っているので、まさにモンスターが来るみたいな感じを彷彿させ、これは日本ポスターじゃないと味わえない感覚な気がして大好きでした

斉藤: 言葉選ばずに言うと、ちょっとバカっぽいとうか、思い切ってフルスイングしてくれてるのがいいですよね。

──次は、1988年のホラー・コメディ映画『ビートルジュース』の35年後を描いた続編『ビートルジュース ビートルジュース』の全身吹替版ポスターですが、これはどういったものでしょうか。

ビニールタッキー: 『ビートルジュース ビートルジュース』の宣伝で、吹替声優陣のみなさんが実際にその扮装をして、全身で吹き替えますよみたいなことを打ち出していたんですが、なんと本国ポスターに合わせるような感じのポスターまで作られたのにびっくりしました(笑)。この全体のノリの良さがすごいいいなと思って。36年前の映画『ビートルジュース』の続編を売り出すときに、いまは声優さんも集客力がある時代ですし、しかも公開時期がハロウィンシーズンということも絡めたよくできた企画で、面白いポスターだなと思いました。

中谷 この前史として、ワーナーさんって、そのほかのメジャースタジオが、吹替版のボイスキャストにタレントを起用したり、ポンコツな人を連れてきているときに(笑)、DCとかも含めて、全部声優の人だけを起用するような方針を取ってきたことがあると思うんですよね。それで映画ファンの間で信頼を勝ち取ってきたみたいなところもあったりして、その流れも汲んでいるのかもしれない。

ビニールタッキー: 確かにDCの吹替とかまさにそうですね。

中谷 それに全員、舞台も活動のベースにある方々の人選にもなっていますよね。

斉藤: みなさん出役として経験値が高い分、再現度が高くて、扮装に違和感もないですもんね。

ビニールタッキー: 全然着せられている感がないですね。

想像力を刺激する“ファントム・メナス影“とは?

──もしかしたらこの企画をやることを前提にキャスティングしている可能性すらあるかもしれないですね。3つ目は、犬とロボットが織りなす友情を描いて大ヒット中のアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』のポスターです。

ビニールタッキー: 『ロボット・ドリームズ』はそもそも映画自体が好きなんですけども、このポスターが好きなのはとにかくこの影ですよね。全部の海外版ポスターを見たわけではないですが、影はこうなってないんですよ。たぶん日本独自だと思うんですが、見たときに(その後の展開の)予感があるんですよね。このポスターをだんだん見てれば見てるほど、じわっと伝わってくる感じがたまらなく好きで。

中谷 僕、勝手にこういうデザインを「ファントム・メナス影」って呼んでいて(笑)。

ビニールタッキー: 言われてみれば、確かに「ファントム・メナス影」ポスターって結構ありますね(笑)。

斉藤: ロボットが一歩踏み出している感じも先を予感させますね。

ビニールタッキー: これ、よく見るとロボットの方は振り返っているんですけど、犬は振り返ってないんですよ。実際に映画の中でも最後にロボット側は犬のことを認識しているわけじゃないですか。でも犬側はロボットがいたかもしれないみたいな感じの影になっている。

斉藤: そっか、本当に映画のエンディングと一緒ですね。

ビニールタッキー: 見終わった後にこのポスターを見るとまた泣いちゃうんですよね。

斉藤: だっていま完全に頭の中に(劇中で流れるアース・ウィンド・アンド・ファイアーの)「セプテンバー」流れてますもん。

ビニールタッキー: ですよね(笑)。見た時にじわっとくるし、噛めば噛むほど涙腺に来るようなポスターで僕は好きですね。

脱「ブロッコリー型」「切手型」!潔いアプローチが観客の心を掴む!?

──最後に中谷さんは『Chime』『ザ・バイクライダーズ』『オーメン:ザ・ファースト』の3つのポスターを挙げられました。

中谷 ここ数年だと思うんですけど、映画のポスターで「あるある」だと思うパターンがふたつあるんです。ひとつは、俳優で映画監督の斎藤工さんが、 「ブロッコリー」と名づけた、出演者みんなの顔がブロッコリー状に並んだもの。もうひとつは、僕が勝手に「切手」と呼んでいるんですが、ポスターの下にちっちゃい粒々で出演者の顔写真が並べられたポスター。大体、日本映画のポスターってもう「ブロッコリー」か「切手」のどっちかで(笑)。

斉藤: 二択なんだ(笑)。

中谷 知らない人に映画を伝えることに対する「不安」を突き詰めていくと、結果的にこういうデザインになってしまうんだと思う。

斉藤: 情報過多になっていく。

中谷 ですね。でもこの3つのポスターは、どれも「ブロッコリー」とか「切手」から最も遠いところにありながら、映画自体の持っている価値観とか世界観をすごいシンプルに伝えていて、なおかつほかのポスターにも決して競り負けない。いまの時代、ポスターが単体で貼られることってないじゃないですか。映画館だと必ず隣には全然関係ない映画と競い合って並ぶ。そのことを意識してデザインされているポスターが果たしてどれぐらいあるのか。この3枚はそれぞれ方向性は違いますが、どれも安易な「あるある」ではないデザインで、これは見たいねと思わせてくれる。痛快でお見事なポスターだと思いました

ビニールタッキー: 痛快っていうのはまさに僕も感じるところで、やっぱりこういうポスターを見ると、普段、日本映画のポスターをいっぱい見ているからなのか、思い切ったなっていう風に思うんですよね。その映画の世界観を大事にしているとか、これが伝わる人に見てほしいみたいな感じの勇気や信念を感じて、いいなとシンプルに思うんですよね。気概を感じるというか。

中谷 仰る通りで、観客として信頼されているな、と思うんですよね。最近は「これだけの有名な人が出ていますよ、これだけ泣けるんですよ」みたいなポスターが多すぎて、その不安もわかる一方、手を引かれてどこかに誘導されているような居心地の悪さがある。

ビニールタッキー: ポスターなので、多くの人の目に届いてほしい、映画の情報を見られてほしいということは当然だとは思いますが、だからこそ、逆にこういうのを見ると、本当に観客として信頼してもらっていると思いますね。

<予告編に続く>

★ジャガモンド斉藤さんの選んだポスター
『cloud 』ティザーポスター
『劇場版忍たま乱太郎ドクタケ忍者隊最強の軍師』ティザーポスター
『関心領域』
『ソウX』

★ビニールタッキーさんが選んだポスター
『ツイスターズ』キャラクターポスター
『ビートルジュース ビートルジュース』全身吹替版ポスター
『ロボット・ドリームズ』

★中谷祐介さんの選んだポスター
『ザ・バイクライダーズ』
『Chime』
『オーメン:ザ・ファースト』

【PROFILE】
ジャガモンド斉藤
お笑いコンビ『ジャガモンド』のツッコミ担当。年間約300本鑑賞する映画好き。テレビではテレビ埼玉の情報番組「マチコミ」にて映画紹介コーナーを担当。『ジャガモンド斉藤の映画宣伝にアレコレつっこむラジオ 』( K-MIX ) に出演中。YouTubeで『シネマンション』に出演中。

ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。

中谷祐介
スマートフォンアプリ&WEB「ぴあ」編集部所属。映画ジャンルのインタビュー、記事執筆、情報取材などを担当。Youtube番組「ぴあ映画コンパス」を配信中。好きな食べ物はかまぼこ。

(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS,WARNER BROS.ENT.& AMBLIN ENTERTAINMENT,INC. [c] 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved © 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E.,Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL (c)2023 Roadstead (C)2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. (C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

【関連記事】
・映画宣伝スペシャル座談会 2024年版 Vol.1ポスター編~前編

不明なエラーが発生しました

映画ファンってどんな人? ~ライフスタイルで映画ファンを7分析~
閉じる

ログイン

アカウントをお持ちでない方は新規登録

パスワードを忘れた方はこちら

閉じる