プロが見たこの映画

宣伝のプロが語る「嫌いじゃないも、好きのうち」

2022-01-26更新

 

映画の宣伝をする際に、ターゲットや売り方を確認するために、リサーチをする事がよくある。しかし、リサーチをしたところで、必ずヒットするとは限らない。

さらにSNSの出現により、テレビ一極集中だったマスメディアが無くなり、大量に同じ情報を拡散するのが難しくなった状況では、ユーザーのニーズに合わせた宣伝展開を実施するにも限界がある。

そして、映画は嗜好性の強いものなのだが、ホラーが好きな人が365日ホラーが観たいとは限らない。「今日は観たくない」という日も存在するからだ。アンケートに答えたときは観たかったとしても、<映画公開中に観たくなるか?>それが問題なのだ。

 

変化するニーズと、コロコロと変わる気分の中、どうやったら映画館で観たい気持ちを作れるのだろうか?

「絶対に映画館に行く!」と宣言していた人が、実は「配信で見た」という多くの人たちに接していて思うのは、「その映画が好き」という気持ちはもしかしたら存在しないのではないか?ということだ。恐らく、「好き」ではなく、「嫌いじゃない」という微妙な気持ちが本当のところなんだと思ったりする。

世の中の映画観賞意欲の5段階は、きっとこんな感じなのではないだろうか?

・嫌いじゃない
・そんなに嫌いじゃない
・普通
・そんなに好きじゃない
・嫌い

そうなると映画館に来てもらう宣伝の決定打となるのは、なんなのだろう?

実は、身近な友人の「あれ観た?」という一言だったりする。僕らが散々寝ないで考えたキャッチコピーも、身近な友人の「あれ観た?」には敵わないのだ。では、「あれ観た?」と言った人はどうしてその映画を観に行ったのだろう?
映画コアファンだから?キャストが好きだから?いろんな理由があると思うが、それも大多数が「なんとなく面白そうだったから」だったりするのだ。

そんなことを考えていると、我々宣伝プロデューサーという職業の人間は、「何をすればいいのだ?」という気持ちになってくる。
そしてこの「なんとなく面白そう」のムードを作ることが仕事だとしたら、なおさらリサーチしてターゲットを絞り込む意味などなくなってくるのだ。

 

しかし、時々世の中が大きく動く時がある。予想以上の大ヒットをすることがあるのだ。振り返ると、大ヒットできた映画は、リサーチはしつつも、ニーズに合わせるのではなく、腹を括って<ある方向>に突き進むと決めた作品が多いような気がする(全部ではないが)。ニーズを超えた先にある潜在意識を刺激し、想像を超える「驚き」と「感動」が与えられたとき、その驚きが口コミになり、そこから議論が生まれ、共感を生み、ブームとなっていく。今までこれを何回か体験してきた。偶然では生み出せないが、仕掛けなければ決して生まれないうねりである。

 

失敗するリスクを減らす宣伝は、宣伝ではないと僕は思っている。それは、ただの告知である。言葉は悪いが奇襲をかけるテロ攻撃こそ、一番効果のある宣伝なんじゃないか。奇策が良い策ということではなく、予想もしないアプローチは相手に与えるインパクトが大きいということ。このインパクトが記憶に残り「なんとなく」や「嫌いじゃない」の枠を超えるエネルギーに変化してくるのだと信じている。

よし!やるぞ!と面白い企画を考える闘志が湧いてきつつも、まずはリサーチ準備からはじめよう。石橋叩いて確認してこそ、良い企画が生まれると信じて前に進みたいと思う。

 

「映画の宣伝って楽しそう」とよく言われますが、僕はいつも、乾電池みたいなもんですよと答えます。乾電池って動いてて当たり前、だから「動いててくれてありがとう」とは思わない。切れたときにだけ「ち!」と思い出すのが乾電池の存在なのである。
それと同じように、映画は当たって当たり前、こけた時に思い出すのが宣伝なのである。

いろんな感情と向き合いながら、今日も企画を考えている。
絶対に当たる楽な道は存在しない、だからあえてイバラの道を行く覚悟をし、充電満タンで頑張りたい。

リサーチでは測れない想定外の面白さを伝えていきたいのだ。

 

宣伝プロデューサーちくん

 

 

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