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映画分析家が語る「韓国ドラマに隠されたヒット秘密」
KIQ REPORTでは今年5月に実施した調査をもとに、韓流エンタメについての調査レポートを3回にわたり展開しました。本記事ではその際に取り上げた韓国ドラマの魅力についてさらに考察したいと思います。
*参考:KIQ REPORT 「韓流エンタメ徹底調査」
梨泰院クラスでも?ヒットの秘密は「対立構造」
韓国ドラマの物語にはある特徴が共通して見られます。近年の韓国ドラマブームの筆頭である『梨泰院クラス』を例に取って説明します。
大まかなあらすじは、頑固で実直な青年パク・セロイが無一文から飲食店を立ち上げて成功させることで、飲食業界最大手企業の会長であり交通事故で亡くなった父の仇でもある人物チャン・デヒに復讐しようとする話です。
あらすじからもわかる通り、主人公の青年パク・セロイとその敵となるチャン・デヒの間には、はっきりとした「対立」が描かれています。この対立構造はドラマ全体に散りばめられていて、登場人物同士の恋愛関係や家族関係にまで見られ、彼らは立場だけでなく価値観までもが対立しています。
なぜ、こんなにも対立構造を用いるのでしょうか。
一つ目の理由は、各登場人物及びドラマに共感しやすくするためです。対立する相手には、必然的に自分の考えや感情をぶつけることが多くなります。それは、登場人物の感情を可視化することになり、視聴者が理解しやすくなるのです。
二つ目の理由は、物語を劇的に展開させやすくするためです。ドラマは人間の感情を描くものです。そして、対立構造においては、登場人物がもつ感情は他者の存在に依拠することが多くなります。その場合、どちらか一方に不測の事態が起こり関係性が揺らぐと、ドラマに感情移入している視聴者の感情も大きく揺さぶられます。『梨泰院クラス』の場合は敵対する人物によって偶然引き起こされる死亡事故や、登場人物同士の思わぬ血縁関係などがそうです。
このようなあまりありえない展開は韓国ドラマ全体で多く見られますが、これらに共通するのは、「登場人物の意思が関与しない」ということです。交通事故や思わぬ血縁関係などは登場人物の決断・行動では避けられない運命的な出来事です。このような展開の仕方は、物語の均衡やリアリティを失わせる可能性があります。しかし、それ以上に視聴者を退屈させないことを重要視しているのだと考えられます。
そもそも韓国ドラマは多少の不自然さを顧みずに、登場人物の感情をセリフや演出などによってはっきりと視聴者に提示する傾向があります。「対立構造を基軸にして物語を大きく展開させるシナリオ」を、韓国ドラマならではの「わかりやすい演出」によって、視聴者の感情移入を積極的に促す作風はある意味では異質とも言えます。しかし、実際このような大胆な作り方は、「視聴者の感情を大きく揺さぶる」韓国ドラマの魅力の一つにもなっています。
下図は過去のアンケート結果のグラフになります。韓国ドラマを魅力的に感じる理由の2位として「物語展開にハラハラドキドキするから」が挙げられています。
※参考:KIQ REPORT「韓流ドラマにハマる理由」
非現実的な設定も理解しやすく
また上図の結果では、物語の「展開」以上に「設定」に魅力を感じる人が多くいるということがわかります。
実際、大ヒットする韓国ドラマには風変わりな設定が数多く見受けられます。死神や幽霊が登場する恋愛ドラマ『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』や、南北朝鮮間の恋愛を描く『愛の不時着』、その他よくある恋愛物語でも、財閥と庶民だったり、ある種「漫画的なキャラクター形成」がよく見られます。
これらは一目で視聴者の興味を惹きつけるためのものですが、このような非現実的な設定はどうしても感情移入が難しくなります。しかし、先ほど述べた登場人物の感情をはっきりと描いたり、対立構造を用いることで、物語への没入感を高めているのです。
韓国ドラマが追求するもの
韓国ドラマの大ヒットに隠された構造について説明しましたが、それらは全て「大衆性」を獲得するためのものです。恋愛ものが多いこと、俳優のビジュアルやイメージを重視していることなどから、女性をターゲットとして作られていることが概ね想定できます。さらに、その展望は韓国国内だけではなく、日本及び世界市場を視野に入れているのではないかと考えられます。そのことについて、次回は世界中を席巻するK-POP、そしてKカルチャーも含めて考察します。
文/映画分析家・佐藤晃大
- 出演:パク・ソジュン、キム・ダミ、ユ・ジェミョンほか
原作・制作:キム・ソンユン、チョ・ガンジン
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Netflixで配信中
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