プロが見たこの映画

文学系女子が語る「彼女たちが求めているもの」

2023-11-29更新

「観る前の自分には戻れない」
このキャッチコピーをみた時から、『正欲』を観ることを決めていた。
私にとって本や映画、ドラマなど物語を摂取する目的の一つは、自分とは異なる考え方や生き方を知って、他者への想像力を養うことだ。
そういったことを考えさせられる作品に出合うと、良い体験をしたなーと心が満たされる。
本作は正にそんな1本で、キャッチコピーのとおり、観た後は自分の中でいろいろな意識が変わったように思う

朝井リョウの同名小説を原作とする本作は、様々な悩みを抱えていて5人の人物について描かれる。中でも、桐生奈月(新垣結衣)と佐々木佳道(磯村隼人)を含む4人は、世間でいう”普通”という括りからは外されてしまう人たちだ。
だから、毎日“普通“なフリをして、世間に馴染んでいるように見せかけて日々をやり過ごしている。
そんな彼女たちの目は死んでいて、未来への期待なんて一ミリも抱いていない表情は、序盤から強く記憶に焼き付いて、頭から離れなくなった。
とくに、新垣結衣と磯村隼人の演技が本当に素晴らしいのでぜひとも注目していただきたい。

この作品を観る前は、自分は勝手に多様性について理解がある方だと思っていた
冒頭に述べたように、頻繁に映画や作品に触れて、少しでも自分と違う人を知りたいと思っているし、偏見というものも昔から好きじゃなくて、自分はできるだけ偏見を持たずに人と接しようと心がけてきたつもりだ。
そうやっていろんな人を知ることももちろん大事だとは思うが、それよりももっと大切なことがあったことに、この映画を通して気づかされた。

彼女たちが最も苦しでいたことは、自分が大多数の人と違うことや、自分を偽って生きていかなければいけないことでもなくて、心から同じ嬉しさや悲しさを共感できる人がいないこと、つまり、隣に誰もいなという“孤独”だったのだ。
いくら日本中の人が本作を観て、誰一人として彼女たちを「ありえない」と奇怪な目で見なくなったとしても、恐らく彼女たちの心は満たされないだろう。だって、それはやっぱりどれほど心を込めたとしても同情にしかならない…。
そんなこともちゃんとわかっていなかった自分が恥ずかしくなった。

よく考えれば、本当の”孤独”を感じたら、私だって生きる希望を失うだろう。
決して友達が多いとは言えない自分にとって、趣味嗜好が同じで、考え方も似ていていて、ありのままの自分で会うことのできる親友が一人だけいるが、もしその人を失ったらと想像するとかなりしんどい。多分、自分は世界で一人ぼっちだという気持ちになるだろう。
家族じゃなくてもいいから、たった一人でもわかり合える人がいたから、自分は生きていけているのだ。

本作は、ある人にとっては”ありえない”と思える人たちが描かれているもしれないけど、彼女たちが抱える苦しみや悩みは誰もが抱える可能性のあるものだと思う。
決して生きやすくはないこの世界が、少しでも生きやすくなるヒントをもらうために、ぜひとも本作を観ていただきたい。

 

真面目が取り柄の文学系女子 kimurama

 

 

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