プロが見たこの映画
音のプロが語る「職人の姿とお洒落な音楽は、相性が抜群らしい」
幼少期から音楽に触れる機会が多かった私は、絶対音感とともに生きている。
街やお店から流れている音が「ド・レ・ミ」と叫んでいるように聴こえるのは本当で、故に映画を見ていても時折、劇中音楽が叫び出すことがある。その音符の叫びは、激しすぎると映像の世界観を乱してしまうし、穏やかすぎてもかえって印象に残らない。
この葛藤を言語化するのは難しいが、私にとって映像と劇中音楽のマッチング具合はかなり重要なポイントなのである。
真っ白な雪景色と、オーケストラが奏でる温かくて優しい音楽の相性は抜群だ。そこに、手先と頬をほんのり赤くした男の子二人が無邪気に走っている。
私はこの最初の場面を見た瞬間、『おしょりん』の世界観が好きだと思った。
物語の舞台は明治時代の福井。ちなみに「おしょりん」とは、田畑を覆う雪が硬く凍った状態を指す福井の言葉だそうで、おしょりんになると”回り道をせずに好きなところへまっすぐ行ける”ことから、”夢に向かって自由に突き進もう”という想いが込められているそうだ。
本作で描かれる、メガネ産業をゼロから立ち上げた兄弟とメガネづくりに励む人々の姿はまさに「おしょりん」であり、彼らの情熱に胸が熱くなった。
そんな人々が、メガネづくりに励む胸熱な場面をより一層魅力的な場面にさせたのが、劇中音楽である。
なんと流れてきた音楽は、ジャズ喫茶で流れているようなお洒落な楽曲。
モノづくりに励む人々と洒落た音楽が融合すると、とてつもなくカッコよく見える。
映画やドラマでよく見る、作業場で男たちが汗を流して何かに熱中する姿は、ザ・漢でありとてもかっこいい反面少々暑苦しさを感じる。さらにそこに、壮大な音楽が流れ出すと胸焼けしてしまうのだ。(この感覚、分かっていただけるだろうか、なんだか不安になってきた。)
一方、本作に登場する人物の多くはザ・漢な体育系男子というよりもクール系文学男子。そんな彼らの汗を流して頑張る姿はかっこいいが、少々物足りない。
そこに、ジャズ喫茶風の音楽が合わさることで”職人感”が増してとてもカッコよく感じた。これは新しい発見だった。
今後、職人モノの映画が作られる場合は是非ともジャズ喫茶風の楽曲を用いてほしいと思う。
本作の楽曲に魅了された私は、映画鑑賞後に「おしょりん 劇中音楽」で検索をかけて驚いた。
なんと、本作の劇中音楽を手掛けたのは福井県内の有志の方々で、使用される50曲を作曲から演奏まですべて福井の人々が制作している。
これは凄い・・・!映画音楽のプロではないからこそ、意外性のある音楽を生み出せるのだろうか。ちなみに、本作はロケもすべて福井でおこなわれている。
つまり『おしょりん』は、物語の舞台である街もロケも音楽もすべて、オール福井で作られた「福井満載の映画」なのである。冒頭の福井PR映像の長さに少し驚いたが、そんなことはどうでも良い。むしろこれだけ福井が携わっているのだから、どんどんPRしてください!と思う。
それほど、福井愛に溢れた映画だ。ぜひ目で、耳で、オール福井を味わってほしい。
最後に余談だが、本作を観て以来、主題歌「Dear」にどハマりしてしまい、最近狂うように聴いている。森崎ウィンの、まるで球体のような滑らかにも程がある優しい歌声は一体何なのだろう。
さすが、二刀流俳優。X(旧Twitter)の自己紹介欄に『おしょりん』堕ちと書く人が現れるのも時間の問題だろう。
絶対音感をもつ Nami
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