プロが見たこの映画
映画分析家が語る「なぜ『となりのトトロ』は国民的ファミリー映画なのか」
KIQ REPORTでは今年6月に実施した調査をもとに、ファミリー映画についての調査レポートを4回にわたり展開していました。本記事ではその結果を踏まえ、『となりのトトロ』を題材に、ファミリー映画についてさらに深く考察していきたいと思います。
*参考:KIQ REPORT 「ファミリー映画が求められているものとは?」
『となりのトトロ』を選んだ理由
KIQ REPORTの調査で、「ファミリー映画で思い浮かぶ映画は?」とフリーアンサーで質問したところ、以下のような結果となりました。
*参考:KIQ REPORT 「あなたが思い浮かべるファミリー映画は?」
「ファミリー映画として思い浮かぶ映画」としてランクインしている作品には、シリーズとして続いているものが多いことがわかります。子供から親もしくは祖父母などの、幅広い世代において長く親しまれてきた結果が、ファミリー映画としてのイメージに大きく影響していると思われます。
しかし、2位に挙げられた『となりのトトロ』は、30年以上前に公開され、その後シリーズ化されていません。地上波テレビでの放送回数も多く、常に高い視聴率を誇っていること、スタジオジブリというブランドによって生み出されている、というのもファミリー映画イメージの一因とも考えられますが、他のジブリ作品がランクインしていないので、著者は作品の内容自体に、その秘密が隠されていると考えています。
それではここから、『となりのトトロ』の内容について、考察していきたいと思います。
考察
本作の大きな特徴として、子供だけでなく「大人もターゲットとして作られている」事を挙げたいと思います。子供と大人の二方向に対して両立したアプローチは、ファミリー映画において非常に重要です。そのことはKIQ REPORTの調査レポートにも反映されています。
*参考:KIQ REPORT「 ファミリー映画が求められているものとは?」
ではなぜ本作が大人向けの映画だと思うのか。
それはテーマに関係しています。この物語は、「子供が大人になる、大人が子供になる」という変化の図式があり、それによる人間の成長がテーマとして描かれていると捉えています。
大まかなあらすじは割愛しますが、本作の主な登場人物は姉のサツキ、妹のメイ、父、病気で不在の母、そしてトトロになります。姉のサツキは、普段から病気の母の代役となって妹のメイや父の世話をしています。しかし、彼女も子供なので当然無理をしています。そんな時、トトロが現れて母代わりとなることで、サツキとメイの成長を後押しするのです。(母代わりというのはサツキがトトロに子供のように甘える幾つかの場面から推測)
物語のクライマックス、メイはサツキの思いも背負って、一人で母のいる病院に向かい、道に迷ってしまいます。サツキはそんな妹を心配してトトロに助けを頼み、見事メイを見つけ出すのです。ここで表現されていることは、「メイは人のために自立して行動」し、「サツキは子供らしく大人に頼る」ことができるようになったことだと思われます。
つまり、メイは大人に、サツキは子供になれたのです。
このことが先程述べた「子供が大人になる、大人が子供になる」ということです。
上記は筆者個人の受け取り方ではありますが、ここで1つの前提としておきたいことは、子供から大人への成長は1人の人間の変化でしかなく、全くの別人になることではないということです。その意味で、人の内面的な変化というのは、”子供から大人に成長する”という単純な一直線ではないと言えます。
つまり、子供の自分には大人の自分が、大人の自分には子供の自分が、常に延長線上に存在しているのです。このことから、子供と大人という立場を双方の視点から行き来することで、無意識のうちに自身に潜む子供時代を気づかせるきっかけとして、この映画は機能していると考えることができます。だからこそ『となりのトトロ』を観ると、どこか懐かしく感じ、親しみを覚えるのかもしれません。
以上、『となりのトトロ』がファミリー映画として人気の理由を考察した結果となります。
文/映画分析家・佐藤晃大
- 原作・脚本・監督:宮崎 駿
- 音楽:久石 譲
- 主題歌:井上あずみ
- 声の出演:日高のり子 ⋅ 坂本千夏 ⋅ 糸井重里 ⋅ 島本須美 ⋅ 北林谷栄 ⋅ 高木 均
- 上映時間:約86分
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配給:東宝
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© 1988 Studio Ghibli
★ファミリー映画が求められているものとは?https://kiq-report.com/Item/344
★ファミリー映画の対象年齢って?https://kiq-report.com/Item/347
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